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無小─掌編小説

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2023年2月の記事一覧

入口

入口

 必要以上のお金なんかいらなかった。それなのに、私は最近ずっとお金のことばかりを考えている。
 学費、家賃、光熱費、食費、携帯料金。ただ生きるだけでお金はいる。だからお金のことは考えなきゃいけない。
 奨学金を借りようにも、高校までは真面目に勉強してこなかったから、奨学金なんて借りれる成績じゃなかった。まあ、これは自業自得か。

 仕送りを貰っている人を羨ましいと思ってしまう。どうして私ばっかりっ

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駅のホームの死にかけの子

駅のホームの死にかけの子

 ホームで電車を待っている時、それが聞こえてきた。
 最初はほんの小さな息遣いだった。今にも絶えて消えそうなその声が私の頭に響いて、電車の時間が近付くにつれて少しずつ大きくなっていった。

 怪奇現象だろうか?
 そう思ったけれど、現実主義の私はその考えをすぐに打ち消した。そして次に耳の異常の可能性を考えた。何が原因かは分からないけれど、遠くの音がよく頭に響いて聞こえるようになってしまったのではな

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不満

不満

 夜が明けてきて、外ではカラスが鳴いていた。天窓からは薄日が差し込み、部屋の明度を上げていく。

 僕は頭を磨りガラスにこすりつけながら歩いていた。その状態で端まで行ってくるりと反転して戻っていき、また端まで行ってくるりと反転する。
 これを繰り返しているうちに明るさが意識できるようになってくると、ほんの少し前までの暗闇が名残惜しくなって、今度は目を閉じながらひたひたと歩き、くるくると回る。
 冷

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