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不満

 夜が明けてきて、外ではカラスが鳴いていた。天窓からは薄日が差し込み、部屋の明度を上げていく。

 僕は頭を磨りガラスにこすりつけながら歩いていた。その状態で端まで行ってくるりと反転して戻っていき、また端まで行ってくるりと反転する。
 これを繰り返しているうちに明るさが意識できるようになってくると、ほんの少し前までの暗闇が名残惜しくなって、今度は目を閉じながらひたひたと歩き、くるくると回る。
 冷たい風で揺れるガラスの振動を頭で感じて、暖かい床の感触を足の裏で確かめる。
 ガラスから漂う冷気は心地が良い。とびきり美人な雪女の手が顔を覆っているようだ。こんな想像をすると頬は紅潮してきて、顔は綻んでいく。
 それに比べて人の温もりに近い温度まで上がってしまった室内は気持ちが悪い。怒りが湧いてくるし、冷静さを失いやすい。

 しばらくすると、閉じた目の隙間をこじ開けるように光が入り込むようになってきた。
 仕方がないと立ち止まり、諦めて目を開けて、頭を磨りガラスにつけながら、今度はぼーっと部屋の中を眺めることにした。

 そうすると、いつものように本棚が少しずつ大きくなっていった。
 じっとそれを見ていると、それは天井まで届いたところで止まった。それから広がった本棚の空間を埋めるように本も膨張し、これは本棚にきっちりと収まったところで止まった。

「次は机」

 僕は机を指差して言った。これがいつもの順番。机の次は楽器で、それからは同時多発的に部屋にある物が膨張していった。

「物語を聞かせてあげようか」

 僕がそう言うと、膨張が止まった。

「汚い大人の話だ」

 僕は話し始めた。

生きているだけでいいや。