【後編】「フットサル交流会」が果たす役割とは?|神奈川県の若者支援3団体による座談会
2020年、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、人々の生活が大きく変化した。大人数のイベントが開催できない中で、ダイバーシティカップに代わる機会として考えられたのが、「ダイバーシティ・プレリーグ」だった。
神奈川県と町田市で活動する3つの若者支援団体では、それぞれの居場所に集まる若者が単にフットサルを楽しむだけでなく、相互に交流する機会として企画された。イベントは結局、感染拡大期と重なってしまったため中止となったが、準備期間を通じて参加予定だった若者たちに様々な変化がみられたという。
後編では、それがどんな具体的な効果だったのかを探ってみた。
※前編はこちら
合同練習でのドラマ
鈴木:三井さんは、ダイバーシティサッカーに参加することで居場所の利用者さんに起こる様々な変化、葛藤のようなものを「ドラマ」と呼んでいますが、今回それぞれの居場所ではどのようなドラマがあったんでしょうか?
織田:細かいドラマではあるんですけど、一つは合同練習のドラマですよね。
12月に実施したゆどうふと北プラの合同練習で、北プラから参加していた若者のうち2人が特に活躍している場面があったんです。彼らは「居場所」の中で言葉数も多くないし、存在感が強いタイプではないんですが、その人たちが合同練習の中でキープレーヤーになって動いている瞬間がありました。
その合同練習の様子を撮った動画を北プラでプロジェクターで放映したんです。そこに居合わせた人の中には自分から積極的に見たがる利用者もいましたし、そうではない利用者もいたんですけど、積極的に見ていない人たちも「斜め」からは見ていて、「え、あいつあんな感じなの?」というような感じで、活躍していた2人の新しい一面が発見されるようなことがありました。それは「ドラマ」の一つかなと思っています。
それから、一度合同練習をした後に、本番のプレリーグに向けて準備していく段階で、合同練習に参加しなかった利用者の中に、今度は参加したいと言ってきた人がいたんです。その人は、前回は他に誰が参加するのかをやたら気にしていたんです。だけど今回、多少は他の参加者の様子を窺いながらも、自分の意思で「参加します」と言ってきたように見受けられました。合同練習に参加したメンバーの様子が、他のメンバーにとっても刺激になることは、今回プレリーグに参加した意義だと思っています。
あとは、サッカーには興味がない利用者もいるんですけど、直接参加しない彼らも企画自体には関心を持っていて、他の団体や他のメンバーのことを気にしたりはしています。そういう人たちに、スタッフ側から練習に参加するように働きかけられるといいなと思っています。
メンバーの自主性、つながり
鈴木:相模原はどうでしたか?
矢盛:相模原では、今回プレリーグの中止で結局他の団体と関わる機会はなくなってしまったんですけど、スタッフ側の考えとして、メンバーが作っていくフットサルを目標にしています。
第一回大会から「伝統」として続いている、浮き球禁止、女性への配慮(身体に触れない、得点が2倍になる)などのルールがあるんですけど、そういったルールの説明、フットサルの練習内容やタイムスケジュールの管理をメンバーにお願いしていました。今回も同様で、まず過去に参加したことがあるメンバー向けにフットサルの説明会をこちらで開いて、そのメンバーに新しく参加するメンバーに伝える役割をお願いしたり、参加前後での気持ちの変化などを話す機会も設けました。
その中でスローガンやチーム名についても、スタッフがミーティングの場を設けて、そこで約2時間にわたって参加メンバー同士で話し合いをして決めてもらうということをやっていました。今年のチーム名が「つながり」という名前だったんですけど、本来プレリーグが開催されるはずだった3月13日に振り返りのミーティングを実施した時には、「つながり」に関する話題が多く出ていました。「つながり」には、社会とのつながり、仲間同士のつながり、外部の人たちとのつながりなどの意味が込められていて、その「つながり」を今回のフットサルの練習の中で体感したと言っているメンバーもいました。
参加者6人のうち、1人だけ女性の参加者がいたんですけど、その女性の参加者は今回参加した当初の目的は「行動すること」だと言っていました。その目標はすぐに達成できて、それは朝起きたり、練習に行ったり、着替えたり、プレーしたり、という一つ一つの行動が、自分一人ではできなかったかもしれないが、チームの人たちと一緒だったからできたと話していました。その子はもともとすごく考えてしまうような女の子だったんですけど、考える暇もなくフットサルをできたことで「自分ってこんなに楽しめるんだっていうのをすごく体感しました」とみんなの前で話してくれました。
あと、去年のフットサル・プログラムに参加したメンバーから今年の参加者に向けて、今年のスローガンである「つなぐ」と目標である「なないろほっと」を取り上げた寄せ書きのプレゼントがありました。頑張ってねというメッセージが込められていて、受け取った現役のメンバーがすごく喜んで、頑張ろうと意気込むといったようなドラマもありました。
実はさっき、メンバーの一人の赤松くんという子がこの座談会の様子を覗いていて、気にかけていました。メンバーには座談会のことを伝えてあったので、「みんな何話してほしい?」といったようなやりとりもしていました。
今話してきたように、「つなぐ」をキーワードにしたドラマは色々ありましたね。
何かをしたいという欲望
鈴木:三井さんはいかがですか?
三井:そこまで劇的というわけではないですけど、いくつかドラマが起きていました。ゆどうふと北プラの合同練習の振り返りの時に、「こういう機会を与えてくれてありがとうございます」と言ったメンバーがいました。それに対して僕は「与えたんじゃないよ、君たちが願ったから実現したんだよ。君たちのやりたいことを実現できるし、だから願っていいんだよ」って言ったんです。僕の発言がどこまで心に残ったのかはわからないですけど、最近ゆどうふのメンバーが、自分のやりたいことを口に出して言うようになってきました。
ゆどうふでは、月一回のメンバーミーティングで今月に実施するプログラムを決めるんですけど、そこではほとんど意見が出ないんですよ。声の大きい、積極的に話せる何人かがやりたいことを言って、その人たちに流されるわけではないけど、意見を言わないメンバーに対して「本当にそれでいいの?」と思うことはありました。まだそのミーティングの場では自分の意見を投げられないことも多いですけど、居場所での会話やスタッフと話す中で「こういうのやってみたい」という欲望が出るようになってきました。自分が言っていいんだ、自分がやりたいことは実現するに足ることなんだっていうことをどこかで思ってくれたのかなっていうのはありますね。
外部との関わり、練習や大会の意義
三井:あと、ゆどうふには過去の経験から男性への恐怖心がかなり強い女性の利用者がいます。その人は居場所に来るようになって男性不信が少しずつ改善してきた中で、織田さんや竹内さんなど、ゆどうふに関わっている大人の人たち安心できると話していました。
じゃあ,外の人たちはどうなんだろうとなったときに、よく三井が話している鈴木先生がどんな人か関心を持って会ってみたいと思うようになったり、合同練習に参加した北プラのメンバーも、実際に会って楽しく過ごしてきた人たちだから、安心して接していい人たちなのではないかと思うようになれたみたいです。
親御さんの束縛もかなり強かったんですけど、今回ひと月かけて親御さんを説得して、プレリーグ本番に応援に行くと決めていたので、中止になってしまってすごく残念がっています。でも「男性=嫌な人」と性別で決めつけなくなって、「合わない人は男性だからとか、女性だから大丈夫とかそういうことじゃなくて、相性はもっと性別とは別のところにあって、人と人とって考える方がちゃんと向き合ってる気がするな」と話していて、プレリーグに参加しようと決意した過程が大切だったのかなと感じています。
あと、謎解きゲームをやりたいという話も上がっています。今までは他の利用者と仲良くなりたいという人はいなくて、何となく興味があるという状態だったんですけど、自分の趣味や好きなことを使って他の利用者を楽しませて、それで仲良くなろうという様子が見受けられました。こういう例を見ていると、プレリーグ本番ができなくても、その活動の過程で十分大きな効果を起こすことができたなと感じています。
スタッフや、練習に参加した人たちを媒介にして、それが触媒になって、周囲の人たちも巻き込みながら期待値が上がっているのをすごく実感しました。
織田:三井さんの話に関わってくるのかもしれないんですけど、合同練習やプレリーグを通して、大人数が集まる普段のダイバーシティカップでは得られない、他の機関の支援者と出会いはありましたよね。日常的に会話しているスタッフとの距離感とは違う距離感で出会える他の団体のスタッフ、支援者がいるという奥行のあることはすごくいいのかなって思います。今回の合同練習でも、こういうふうな距離感でお互いの支援現場と関わり合うことの意味もあるんだなと思いました。
合同練習には参加しなかったけれど、プレリーグには参加したいと言っていた人が2人いるんですけど、その人たちが合同練習への参加を断った理由が確か体力の自信のなさなんですね。でもプレリーグには参加するって言ってきた時に、結局彼らは見えないところで筋トレしているんですよね。多少自分なりに体づくりをした上で、「なんか出よっかな」と言い出してる。あれもすごく面白いです。
矢盛:そうなんですよね、面白いですね。意外に自主トレやってますよね。
織田:みんな不安が強いし、真面目だし、ストレートに「出ます」とは言わないんだけど、ちょっとずつ出たいという欲望が出てきて、それが言えるようになっていく。それもストーリーというかドラマだと思います。
矢盛:そうですね。今回相模原サポステでも、フットサルに初めて参加した子が、3、4回練習に参加するとすごく上手になっていて、その子たちは絶対コソッと練習してるのに教えてくれないんですよね。
でも、勝ちたい、上手くなりたいというのは、すごく正常な欲求なんだろうなとは思っています。メンバー同士で教え合ったり、あの人みたいになりたいなっていうことが去年のミニカップでもあったと思うんですけど、上手なメンバーに刺激されたり、メンバー同士がちょっとずつ意識し合えたりすることも、すごく意味があるのかなとは思いましたね。
勝ち負けに伴う葛藤
三井:参加者から、「三井さん、上手くなるにはどうしたらいいんですか?どう動いたらいいか分かりません」って聞かれた時、俺は意地悪だから、「勝ちたいの?」って聞き返します。そうすると「勝ちたいです」と言うんですよ。勝ちたいという欲求は至極真っ当なことだし、言葉は人によって変えるけど、「そういう勝ち負けの競争原理で君たちは今苦しいんじゃないのかい」と言うわけですよ。
織田:意地悪だね〜。
(一同:笑)
三井:それで、「勝ちたい、上手くなりたいんだったら俺に聞かずに調べろよ」と言います。フットサルに参加するのに、上手い下手は問わない。それを笑う人間なんていないし、下手な人がいても一緒に楽しめる人たちだと思ってやってるから、一回一緒に参加してみないかって誘います。俺が口出しすることで、主体性による学びの経験が出来なくなってしまうこともあると思うんです。その中で、彼らが上手くなりたいなら自主的に行動して上手くなるのは素晴らしいことだというスタンスでやってますね。
鈴木:スポーツは競争原理が組み込まれた遊びだけれど、一方で参加する若者たちは社会の中での競争原理で苦しんでしまっているのではないかと思います。スポーツと若者支援の相性はどうなんでしょうか?スポーツの競争原理について、どう考えていますか?私は、スポーツにも社会にも競争原理はつきもので、人間はそれを楽しいと感じるものですけど、競争の軸は一つではなくて、ある一つの軸での勝ち負けがその人の優劣を決めるわけではないと思うんです。スポーツを通じてそのことに気がつくことができれば、それがスポーツの価値なのではないかなと思います。
織田:多分、いい意味でダイバーシティカップの位置付けが曖昧なんだと思います。大会の目的だったり、スポーツに対するスタンスを決めていないのが今のダイバーシティカップで、ガチスポーツにしようが、お遊びにしようが、性格を決められてしまうと苦しいという側面もあって、現状の間口の広さみたいなものを、どこまで維持できるかが大事だと思うんです。そのためには運営側も実際参加するメンバーたちもお互いに曖昧さの価値を大切にすることが必要だと思います。
鈴木:なるほど、なるほど。去年のミニカップでは、「交流」をメインにするために、特殊なルールをたくさん導入して実施したんです。そこに、宮城からまきばフリースクールも参加していました。まきばフリースクールにはサッカーが上手い若者が多くて、練習が頻繁にあったり、自前の大会を開催していたりと、普段から比較的「ガチ」にフットサルを楽しんでいました。そのため、ミニカップのような形式の大会だと「バカにされている」ように感じて参加しなかったメンバーも多く、単独ではなく他の若者支援団体からも参加者を募ってチームを編成したそうです。それでも参加した人たちは、特殊ルールだったからこそ楽しむことが出来たと感想を残してくれました。
僕はこれを受けて、サッカーの上手い下手に関わらず楽しむことができるフォーマットを維持・拡大する必要性を感じました。同時に、「ガチ」のフットサル大会は、他にもたくさんあるものの、そこに一足飛びに参加できる人やチームが、ダイバーシティカップ参加チームに多いわけではないので、一般の「ガチ」の大会と、これまでのゆるゆるなダイバーシティカップとの間の中間的な位置付けの機会が必要、ということも考えています。
三井:もちろん、勝つことに楽しさがあることは否定しないですし、健全だと思います。でも、僕らのフィールドである若者支援やダイバーシティカップでどこまで扱うのかっていうのをきちんとするべきだと思います。今集団としてはどこを向いているんだということに関して、自分たちで話し合いを重ねて方向性を決めるというプロセスがかなり大事なのかなと思います。
僕はきちんと話をした上で優勝を狙う、ガチで相手を潰しに行くってなるんだったら、それはそれでいいと思う。
でも「競争でいいの?」という言葉を投げかけることで彼らのブレは作ります。集団として納得して同じ方向を向いてやっていく、きちんと話し合いを重ねた上でやるっていうなら、僕は構わない。でも、それが果たして私たちのフィールドで必要なことなのかなとは思いますけどね。
矢盛:今回一つ面白かったのが、唯一の女性の参加者が振り返りの時に、今回自分が女性という立場で参加をして、女性が入れたら2点であったり、女性に触ったらダメという特別ルールもあって、「私がいなかったらもっとみんな楽しめたんじゃないか」ってことを言っていたんですよね。
本当は同世代の男性で集まってやった方がチームっていうものが出来やすいし、女性が1人いることで勝ち負けに妥協しなければいけなかったのではないかということを言っていました。
それでも自分が参加するのは、サポステ利用者である以上プログラムに参加する権利は同等であると割り切ってやっていたそうです。確かに、勝ち負けで考えるとどうしても競技水準を高めてより強くやろうという方針も出てくるので、その子の居辛さはすごく真っ当だったんだろうなとは思います。それでもみんなと一緒に楽しめる空間を、いかに枠組みとして、若者たちと一緒に作るかってことがすごく大事なんだなっていうことも、今回ハッとさせられました。
鈴木:僕、実は女性のための特別ルールというのが大嫌いなんですよ。そういうルールがないと女性が積極的に参加してくれないことがあるのは分かるし、触ってはいけないっていうのも大事だと思うんですけど、でも男子でも触ってほしくない人はいるかもしれないし、自信がなくてプレーできない子もいるかもしれない。
性別だけで特別扱いがするのは全ての参加者に等しく敬意を払っていない感じがするし、特別扱いをしなくても、みんなが参加した方がうまくいくみたいな状況を作りたいなと思っています。それで、馬鹿みたいなルールを色々考えるみたいなことをやってるんですけどね。相模原では、女性特別ルールを再検討したりする可能性はありますか。
矢盛:そうですね、まだ特別ルールの部分は悩んでいますけど、みんなに聞いてみようかなと思っています。
サッカーのルールっていうのはずっと決まった中でやってきたので、もし今後フットサルをするのであれば、ルール作りっていうところをみんなで話し合って決めていきたいです。
その中で、例えばみんながやっぱり女性の得点は2点がいいんじゃないかとか、やっぱり女性を気遣った方がいいんじゃないっていうのがあれば、じゃあどういったルールにするかということも含めて話し合おうとは思っています。
メンバーと一緒に、ともに考えるっていうところを大事にしていきたいなってところは思っていますね。
鈴木:さすがです。若者たちと一緒にという部分はブレないんですね。
おわりに
鈴木:今回プレリーグが中止になってしまって、年度を跨ぎますが4月に合同練習をしようと予定しています。
織田:プレリーグに向けて気持ちを固めていたメンバーの何人かからは残念だという声もあります。でも、4月の合同練習があるからこそ、そこに向けて立て直していけると思っていて、合同練習への期待は存続されています。
三井:中止になったことについてはゆどうふでも残念がる人が多かったですけど、4月にあるというのはやっぱり大きいと思います。
矢盛:相模原でも、プレリーグ中止を残念がる声はありました。でも4月の大会で、竹内さんや鈴木先生に会えることを楽しみにしているという話は出ていますね。
鈴木:日常的にはいない人の存在を感じられる。団体内だけの関係性にはとどまらない部分で、織田さんの奥行の話にも繋がってくることですよね。
織田:自分が今いる団体の外側にも、ちゃんと信頼に足る人がいるということって大事ですよね。
矢盛:ダイバーシティカップで、メンバー同士もだし、その場で初めて会う人とも、名前だけ知っている人とも、繋がれるっていう、「横の関係」が作られるのかなとは思いますね。
鈴木:ダイバーシティカップの責任は重大ですね。
2021年4月に予定されていた合同練習は、新型コロナウイルスの影響を受けて結局中止にせざるを得なかった。しかし、その後も3団体の間で、フットサルを通じてお互いの居場所に集う若者にちょっとした「ドラマ」を起こしていくための話し合いが継続されている。
2022年、ダイバーシティサッカー協会は「ダイバーシティリーグ」の発足を目指している。どのような形式のリーグ戦なら、そこに集う人々がみんな楽しめて、かつポジティブな変化を起こせるのか。今回ご紹介したようなパートナー団体との対話を、今後も大切にしていきたい。