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歯を磨くか迷う。

特に達成感のない在宅ワークの平日が終わり、倦怠感の中まどろんでいると、寝る前に歯を磨くか迷うことがある。

その考えが巡り始めるとすぐ頭の中でシミュレーションが始まり、自暴自棄な横顔が洗面所に向かう。鏡には恨みがましい目の女。このまま寝ちゃおうかな。いや待てよ、朝のあの奥歯の内側のザラザラを繰り返すのか?と我に返ると瞬時に歯ブラシを手に取る。結局は歯を磨く。

眠気に身を任せたい欲との闘いにも見えるが瞬間的なものではないような気がしている。歯垢が溜まって気持ち悪いし、そんなこと続けていれば歯周病リスクだって高くなる。歯の治療費は高い。やった方が気分も調子も良いし、健やかに過ごせる。でも迷う。

脱いだ服を畳んで仕舞う。
ベッドメイキングをする。
シンクの洗い物を洗う。
メイクを落としてから寝る。

当然のことが、時折物凄く億劫になる。先送りを自分に許可したい。成果が見えない単調な毎日の中で、当たり前の習慣から自分を解放する、というささやかな抵抗、自操感。優しさからではなく、選択の余地を与える行為だ。

歯を磨き、雑に顔を洗い、寝て、気だるさとともにやっと起き出した8時半過ぎ、インスタでキラキラした女の子は既にヨガスタジオに行き、お薦めのウォーターボトルを紹介し、素敵な一日をもう既にスタートしている。少なくとも私が起きる2時間前には。私はまたわずかな劣等感を積み重ねる。

毎分毎秒完璧でなくても良い。
最高の人生を送りたい、と自分に期待しながら、絶望と呼ぶには重すぎる諦めを抱えて生きている。もともとアンビバレントな感情を持っているのが人間だ。でもそういう瞬間があっても悪くない。たまにはその欲に屈しても良い。歯を磨くのを迷ったり、習慣を立て直したりしながら、人生の経過を楽しんでいるところだ。


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