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チーズバーガーに見る愛の話

カウンターで注文する店が苦手だ。後ろに人を待たせてメニューを選ぶあのカウンターは、優柔不断な私には鬼門。だからマックではいつもチーズバーガーを頼む。

「ご注文は?」と問われると、メニュー表は視界に入っていてそこからじっくり選ぶこともできるのに、「あ、えっと、チーズバーガー1つ」と咄嗟に口が動いてしまうのだ。


なぜチーズバーガーなのかと問われると、うーん、なぜなんだろう…?自分でもわからない。

「チーズバーガーのここが好き!」「他のバーガーとはここが違ってね!」というふうに語れるほどの愛は、正直言って、無い。ごめん。

唯一挙げられる好きポイントがチーズではなく、ピクルスな時点で、もうちょっとお察しだ。
それなのになぜいつもチーズバーガーを頼んでしまうのか?ハンバーガーの方が安いし、チキンフィレオの方が好きじゃないか。なぜなんだ私!

(マックのジャンキーな味はたまに食べたくなるので、嫌いなわけではありません。悪しからず)


そもそも私は、あんまりマックに行く機会がない。頻度で言えば、1年間で片手で数えられる程度行っていたら良い方。1回も行かない年も全然あった。

子供の頃は近くに店舗がなくて、出先で昼食として食べるくらい。
高校生の頃はスクールバスだったので、放課後に友達とマックで試験勉強なんてことにはならなかったなぁ。憧れたけど。
大学生になり、都会で一人暮らしだ!と言っても最寄りにマックは無く…… 休日は1人行動の多い私は、買い物に出かけると「まあ、お昼は抜いてもいっか」となることもしばしばで、出先でマックに入ることもそれほど多くなくて。


で、よくよく考えてみれば、私がマックに行って鬼門であるカウンターで注文をしたのは、2018年の秋が最後。3年前。

私はそのときも、いつものチーズバーガーを頼んだ。
後ろに列が続いてる、店員さんが待っていると思うとついつい出てしまうのが、伝家の宝刀、必殺技であるチーズバーガー。

「えっと…あ、チーズバーガーください」
こういうのをコミュ障って言うのだろうか?


なぜ私の必殺技はチーズバーガーになったのか。
かねてからの疑問は意外なヒントから明らかになった。


つい先日、母に電話をかけた。野菜やぶどう、即席スープなんかを送ってくれたお礼に。

そのとき偶然隣に父もいて、お米を送ろうかと聞いてきた。うちは兼業農家で稲作もやっているので、定期的にうちで作ったお米を送ってくれているのだ。

父は私の胃袋を小学生の頃と変わっていないと思っている節がある。前にもらったのがまだ少し残っていると話すと、
「小食だっけらなー。もっと食わねばダメだよ」
父が言った。
「子供の頃なんかもっと食べらんねかったわー」
母が言った。

ああ、そうだそうだ。
私は小さい頃は小食で、チーズバーガー1つ完食することもできなかったんだった。


私がまだ乳児だった頃、母はミルクを飲ませるのに苦労したそうだ。生まれたとき低体重児(と言っても2400グラムですが)だった私は、その後も母乳もミルクも飲みが良くなくて、母を随分と悩ませたらしい。

「あんたは本当によーく寝る子だったわ。ミルク飲まないで寝てたわ」と母は言う。
それはたぶん本当だろう。よく眠る子の証として、残念ながら、私の後頭部は重度の絶壁になった。

その後も、幼少期の私は決してよく食べるとは言えなかった。
好き嫌いは少ないのに給食を完食できた試しがなかったし、外食に行ってもお子様セットをだいぶ残す子だった。小食ですぐ満腹になってしまう。


家での食事も、母がご飯をよそうと食べ切れないので、食べられそうな分量を自分でよそうシステムだった。

私のご飯茶碗を見て、対面に座る父はいつも言った。
「そんげちぃたかしか食わねで大きならんねわ」
そんなにちょっとしか食べないなら、大きくなれないよ という意味の方言だ。

まあ確かにその通り、保育園の頃は背の順はいつも1番前。前ならえは腰に手を当てるポーズしか取ったことがなかった。大体いつも近所の2個下の子と同じ身長だったと思う。
まあ、食欲と身長に相関関係があるかは不明だが。

もちろん、その頃の私はハンバーガーも完食することができなかった。


たまに家族3人で出かけると、ドライブスルーのマックをお昼にすることがあった。

父は運転席、母は助手席、私は母の後ろの後部座席。それぞれにハンバーガーを頼んで、運転席と助手席の間の肘置きをテーブルにしてポテトを置いていた。

その頃の私は小学校に上がっていたからハッピーセットは卒業していて、母が適当に「じゃあチーズバーガーにする?」と言ったチーズバーガーをいつも食べていた。ポテトも食べているから、完食はできずに少し残ったチーズバーガーは、父が食べていた。

もうずっとそんな調子なので、私の食が細いのを両親は心配していた。
私自身は別になんとも思っていなかったのだけれど、当時2歳のいとこが1人でハンバーガーをほぼ完食したのを見てめちゃくちゃびっくりしたのを覚えている。いとこが食いしん坊だったのか私が極端に食べれなかったのか、今でもよくわからないけれど。


小学校2年生か3年生かのある日、私はやっとチーズバーガーを1人で食べ切ることができた。

後部座席から「食べ終わったよ」と言ったとき、前に座っていた両親が振り向いて、驚いたのちに祭りみたいに喜んで騒いでいたのを覚えている。


もうめちゃくちゃ褒められた。
チーズバーガーを完食できたというただそれだけのことが、私の成功体験になったのだ。

必殺技誕生の瞬間である。


先日、出かけた先でマックに入った。
実に3年ぶりのマック。そして鬼門のカウンター。

「いらっしゃいませ。ご注文どうぞ」
「…えっと、チーズバーガー1つ。あ、あとポテトも」

お昼時で混んでいた店内と後ろに列を成すお客さんに怯んで、結局チーズバーガーを頼んだ。

苦手な空間に、安心できる材料をつい探してしまうのかもしれない。
マックのカウンターで私が口にするチーズバーガーは、両親からの愛。


いっぱい食べられるようになった今では、いろんなメニューを食べてみたい気持ちもあるから、これからは事前に策を練って鬼門であるカウンターに向かいたい。必殺技を出さずとも勝てるようになるぞ!

あとサブウェイはぜひ一度食べてみたいので、家で一人、注文のシュミレーションをしようと思う。おすすめの組み合わせがあったら教えてください。


ごちそうさまでした。完食です。

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