紅蓮館の殺人【本#1】

作者:阿津川辰海
初版:2019年9月18日

あらすじ

探偵の葛城と助手の田所(語り部)は尊敬している文豪に会うため、自身らの所属している高校の合宿を抜け出し、文豪の住む山中の館に向かう。
その最中、山火事に遭遇し避難という形で屋敷に辿き、救助を待つ。屋敷が燃えるまでのタイムリミットが迫る中、山の麓まで脱出できる隠し通路が館内にあるとの疑惑が上がる。

文豪の趣味でからくり屋敷風に改造された屋敷を、文豪の家族、気弱な隣人、元探偵の女性、怪しげな登山家と共に隠し通路を探す中、文豪の孫であるつばさが殺されてしまう。

感想

真実に偏執的にまで執着する探偵の葛城と、探偵になりたくともなれなかった助手の田所、真実を暴くことを諦めてしまった元探偵の飛鳥井、三名の関係性が人間物語として想像しやすく、この本の読みやすさの要因になったのだと思う。

作中では【館焼失まで後○時間】と、一区切りごとに表示され、読み手側にはタイムリミットが分かるようになっていた。読んでいて焦燥感を抱いた。

焼失確定の館でやることは2つ。脱出の手段である隠し通路の捜索と、吊り天井による殺人の真相調査。からくり屋敷故の建物の複雑性がどちらの違和感も無くしていた

吊り天井による殺人。
被害者が発見されるところから、探偵小説は始まるが、今回の被害者は主人公達と同世代の女の子。それが吊り天井によってぐちゃぐちゃにされた無惨な姿によって見つかる。普通に可愛そう。
田所君は被害者に心惹かれつつあったこともありショックを受けていたが、数時間後の推理パートの頃には随分と冷静になっていた。
高校性ならもっと悲しんでもいいと思うが、探偵という外れ値が身近にいるため、感情をセーブすることになっているかと思うと空しくなる。

ただこの田所君、助手としては優秀に思えた。
つばさの死因について、事故死を主張する飛鳥井と揉め、あわや避難者との中が決裂しそうになった場面では、真実に取り憑かれている葛城の主張を親友としても理解しつつ尊重し、最後には主張を曲げ避難者との衝突を避ける活躍を見せた。
実際には飛鳥井が「若さゆえの過ち」として、他の避難者達の葛城へのヘイトを和らげるというフォローをしていたのだが。
しかし、悲惨な死体をみた数時間後の心理状態としては冷静すぎる。高校性にして物事を引いて考えることが出来過ぎている。探偵と同じような殺人現場の慣れというものか。

続編である蒼海館の殺人ではどんな探偵の成長が見られるのかが楽しみ。

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