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Music Pairing #002 The Moss and the Dove EP by UMA with Italian Dinner

 料理するのは好きで、基本的には自炊する方なのだが、仕事が立て込んでいるとなかなか材料の買い出しから仕込みをしてつくる、ということが意外と負担に感じるようになって、どうしても野菜と肉を切って終わるような簡単な炒め物程度で済ませてしまう。

 ある程度ハードな仕事の山場を超えたときには、少し気合いを入れたサラダとパスタを作って見ようという気分になったりする。特に蒸し暑さが日に日に増すような季節には。

 かなりハードな日程で仕事を終えたあとなので、体力を回復させたいのもあって、肉は入れたい。ニンニクも少し多めで、オイルベースがよいなと思うのだけれど、それだといつものちゃちゃっとつくるものとあまり変わり栄えせず、少し物足りない気がする。少しだけでいいからなにか欲しい。キリッとするような。

 パスタで使いそうな食材はまだそこそこ揃っていたはずなので、ストッカーや冷蔵庫をざっと見渡す。カットトマトのパックも2箱あったので、一瞬トマトベースにしてしまうかとも思ったが、やはり気分はオイルベースのようだ。冷蔵庫の中には、スペイン産のニンニク、グラナパダーノ(比較的マイルドな香りのパルメジャーノレッジャーノのようなチーズ)、鷹の爪、使い差しの玉ねぎ半分、このあたりは定番で使うとして、あとなにかないかな、と調味料などがまとめてある冷蔵庫の棚を物色する。そこでパッとでてきたのがケーパーだ。あ!これだ。一時期かなり頻繁に使っていたけど最近めっきり出番がなくなっていた。いまの天気にもぴったりな気がする。これで材料が決まった。

 あとは前菜てきなものを。やっぱり野菜はどうしても摂りたいので、サラダがいいだろう。サニーレタスはあるし、しかも掃除して一口大にちぎってある。あとは、インゲンがあるな。これを茹でて、プチトマトを半分にカットして、、そうなるともうサラダニソワーズみたいな感じにしたくなってきた。卵もあるし。そうと決まればあとは仕込み。と、その前に仕込み中に聴きたいレコードを選ぶ。

 こういう時はやっぱりヨーロッパの音が良い気がする。そんなことを思いながら、卵とインゲンのそれそれの鍋を火にかけてからレコード棚の前へ。単純なポップスは少し違うかな。リハビリ的に元気すぎ無い方が良い気がする。そしてある程度聴き慣れたもの…。
 そうだ、これ。UMAというカタロニアンの女性アーティストで、ロンドンのSlow Dance Recordsというレーベルから2021年にリリースされた12インチEPで、リリース当初からのお気に入りで、いまだに時々聴いている。
 レコードに針を落としキッチンへ戻る。鷹の爪を5切れくらい、ニンニクとタマネギはそれぞれできるだけ細かくみじん切りにしていく。静かにひんやりとしつつも柔らかさを感じるイントロから始まる1曲目。スモーキーな男女ボーカルの掛け合いから、徐々にドラムンベースライクなリズムトラックが入ってくる。この不思議かつ絶妙なテンションがたまらない。よし、先に茹でていたインゲンはもういいだろう。ざるにあけて流水で熱をとる。
 そしてあいたコンロでパスタを茹でるお湯を沸かし始める。フライパンを取り出しもう一方のコンロで火にかけ、たっぷりのオリーブオイルを入れて、そこにニンニクのみじん切りと鷹の爪を入れ弱火でローストしていく。そしてタマネギを半分くらいできるだけ細かくみじん切りにしていく。
 次の曲は、このEPで一番好きな曲、Nebulaだ。ボーカルとユニゾンコーラスだけで始まり、ハンドクラップが入ってきて、徐々に曲が展開していく。曲名からもスペーシーな雰囲気たっぷりだけれど、すごくアナログの手触りが心地よい。そんな曲に惹きつけられていると、にんにくのローストがいい感じになっている。ここで豚の粗挽き肉を投入。これは近所のOKストアで見つけてからベーコンのかわりに使い始めたらすごく良くて冷凍でストックしているくらいだ。
軽く挽肉に塩胡椒をする。ある程度肉に火が入ったらタマネギのみじん切りを加えて少ししんなりするまで炒める。
パスタ鍋のほうも湯が沸いたので少し多めのスパゲッティを箱から取り出して鍋に投入して、麺を湯に浸かるようにしてから8分のタイマーをかける。
 3曲目はもう少しだけテンポが上がる。とはいえ、独特のひんやりした感じと柔らかな感じが同居する空気感が素晴らしく、心地よいテンポだ。タマネギが透明になってきたようなので、少し火を強めてからウィスキーを軽く回し入れる。いつもは白ワインを使っていたのだが、ちょうどそれを切らしていたときに、酒類が焼酎とウィスキーしかなく、仕方なくウィスキーを使ったらこれが意外と挽肉とあって良い仕上がりになったので、ウィスキーがあるときにはこちらを使うようになった。肉の脂とニンニクとトウガラシが、ウィスキーのアルコールを含んだ蒸気といっしょになって立ち上る。既に美味しそうだ。
 そんなことを考えていると4曲目はいつの間にか終っていて、最後の曲が始まっていた。最小限のギターの伴奏がEPの最後にふさわしい雰囲気を演出している。彼女はとにかくこのスモーキーな声が素晴らしい。
 ウィスキーのアルコールが飛んで具材が馴染んだところへケーパーを投入。
さらに削っておいたグラナパダーノチーズを大さじ1.5くらいふりかけてフライパンを数回振って馴染ませる。
 そうして曲が終わる頃にパスタのタイマーが鳴る。一本取りだして食べてみる。アルデンテ一歩手前、あと30秒追加でタイマーをかけ、レコードの針を上げに行って戻るとまたタイマーが鳴る。もう一度硬さを確認してから湯を大ざっぱに切ってフライパンに投入。すぐにオリーブオイルを少しかけてフライパンを素早く何回か振って乳化させていく。いい感じ。
 ちょっと料理には短い選盤になってしまったな、と思いつつも、久しぶりにちょっと気合いを入れて作ったパスタは最高。そして途中で面倒くさくなって切って混ぜ合わせただけのサラダニソワーズも、パスタの塩気でちょうど良い相棒になった。やっぱり時間的な余裕があると豊かになるなと思いながら、久々に時間に追われない食事を楽しむのだった。

 


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