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~ある女の子の被爆体験記39/50~ 現代の医師として広島駅で被爆した伯母の記録を。”解剖記録が伝える声、骨折した男性"

42歳 男性 喉の痛み、肋骨骨折あり、顔に2カ所の傷、火傷なし


爆心地から850mの県庁援護課、木造建築物の中の窓際で、建物の下敷きとなった。一時的に意識を失ったが、おそらく5-6分後に倒壊した建物から這い出して逃げた。衣服は、白い麻のズボンに、襟があって前開になるシャツを来ていた。途中、爆心地から1300mのところにある住吉神社で5-6時間休み、夕方まで爆心地から1500mの場所の広島日赤病院の近くにいた。


17日目、西条療養所で白血球数650と著しく減少しており、入所することとなった。
18日目、歯茎に出血、白血球数は1300だった。
19日目、尿の所見として、蛋白陽性、ウロビリン、ウロビリノーゲン、クレアチンが陽性であった。(つまり、腎機能の低下が認められていた。また、ウロビリン、ウロビリノーゲンが検出されることから肝機能障害、または血液が溶血傾向にあった可能性がある。)
20日目、白血球数850、21日目、白血球数370。
22日目、白血球数500、喉の痛みがあり、咽頭の発赤を認めた。便は正常で、体調は悪くなかった。
23日目、白血球数260、左鼠径部に手のひらの大きさの発赤した腫れがあった。右臀部に数個の潰瘍があった。
24日目、白血球数350、赤血球数は200万台、著しい白血球減少が続き、貧血も著明だった。体調が悪くなった。黄疸が見られ、皮下出血斑、左足に蕁麻疹が見られた。
25日目、意識が不鮮明となり、17時に死亡となった。

当時の治療として、100mlの輸血を連日行い、ビタミンC、アドレナリン、トロンボゲン、葡萄糖注射を行った。

病理解剖所見


偽膜性潰瘍性口内炎、潰瘍のある扁桃腺炎偽膜性食道炎
著しい出血所見(肺をおおう胸膜、右腎、食道下部、胃粘膜、皮膚の点状出血と広範囲の皮下出血)
頭部脱毛
凝血の欠如(通常は出血した血液は固まるが、固まっていない)
強い声門の浮腫
強い肺水腫

軽度の脾臓の腫れ、軽度のリンパ節の腫れ
肝臓は軽度の黄疸はあったが、表面は滑らかで異常なし、全身皮膚に軽度の黄疸
右第5肋骨骨折
暗赤色の死斑は背中全体に広範囲にみられる

解説:

42歳の男性は倒壊した家屋の下敷きとなり肋骨骨折や切り傷などを負ったが、建物から這い出して逃げた。しかし、住吉神社から日赤病院の近くと、場所は変えているが、爆心地から1.5kmほどの範囲内で、少なくとも10時間ほど休んでいたと考えられる。痛みや体調の悪さを抱え、遠くまでは行けなかったのだろうか。男性の自覚症状などの記載は少ないが、急性放射線障害の影響はデータに強く現れており、著しい白血球減少だけでなく、出血しやすく止血しにくい傾向があったことや何らかの原因で赤血球が溶血する状況があったことも推察される
なお、被爆者の経験した頭部脱毛は、多くの場合、放射線被爆から約2週間後にみられた。

*骨折を負い、初期の放射線障害の症状を負ったこの男性は、8月6日の1日を放射線の残る爆心地近くで過ごした。放射線障害が考えられる場合、何よりも早く遠ざかることが、大切であることを、教えてくれている。

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