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The story of a band ~#43 Detonate~

東京から地元に戻り、その一週間後にはライブが控えていた。

地元横手市で行われている『音フェス』。有志が音楽で横手市の町おこしを目的に開催しているイベントだ。最近では、地元だけでなく他県からの出演者も増えており、毎年8月はこのイベントがあるということは多くの地元民に周知されるまでになった。

『音フェス』は、会場を市内に分散し、あらかじめ出演者を割り当てており、お客は自由に見て回ることができるようにしている。このイベントにdredkingzも参加することになっていた。

ちなみに、dredkingzは、駅前にある施設の駐車場をステージとした場所で演奏することになった。ステージ責任者からは、「盛り上げてほしい」ということで、トップバッターでの出演となった。

4人とも、トップバッターだとは想像もしていなかったので、10:00開始から、野外駐車場で爆音を流してもいいものかどうか懸念はあったが、主催者側の了解を得ているとすれば、大丈夫だろうと判断した。

10時前には、バンドの目の前に客がスタンバイしていた。暑さのせいで首にタオルを巻いている人もいる。

dredkingzは、スタッフの期待通り、会場を盛り上げた。客との距離が近いことや、自分たちの音楽を市内に轟かせることができることが爽快だった。

苦労と葛藤、忍耐の日々を乗り越え、ライブをしてきた経験があるため、どんな場所であっても、自分たちのライブができるようになっていた。

ライブ終了後、客がCDを購入。購入する際、「最後の曲がとてもお気に入りなんですよ!」と『Detonate』を絶賛。

また一つ、良い思い出を作ったと思えるライブであった。


さて、レコーディングされた音源は、少し音量の修正を磯部にお願いし、完成を迎えた。その音源データを鹿嶋に送り、いよいよMV撮影日を待つだけとなった。

MV撮影は、地元の地元のLive bar『mock』で撮影することになった。曲とdredkingzの雰囲気がマッチしており、ライブをしたときから「ここで撮影したいなあ」と思っていた。店長が快く撮影許可をしてくれたおかげで、事は順調に進んだのである。

撮影時間は、昼から開店1時間前の18:00まで。時間が限られているので、鹿嶋にはあらかじめイメージを伝えておき、鹿嶋もアイディアを用意していた。

MV撮影は、誠司も仁志も、そして神崎も初めてのことだったが、いい緊張感の中、順調に進められていった。

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映像と楽曲とがどのようにマッチし、世の中に放たれるのか。

そう考えるだけで興奮した。

無事、時間内に撮影に必要な映像を撮り終え、鹿嶋は帰っていった。鹿嶋は若手だが、実にセンスの良い映像を撮っている。自分たちの作品にも大いに期待がもてそうだ。


8月の撮影日から約2ヶ月後。鹿嶋から「MV試作品ができたので、データで送ります。修正等あれば、お知らせ下さい。」と連絡がきた。早速、各自確認する。

出来上がりのかっこよさに驚いた。映像が入ると、また曲の価値がぐっと高まる。

しかし、興奮する気持ちを抑え、冷静に修正箇所を探す。若干見つかったので、メールでやりとりをしようと思ったが、こちらの意図が文字ではわかりづらいということで、直接鹿嶋と会って説明することにした。

ちょうど祝日がある。仁志と今河が代表で鹿嶋に会いに仕事場に向かうことになった。

鹿嶋の仕事場には、今後のバンドのMV撮影スケジュールがホワイトボードに書かれていた。たった一人で何もかもマネジメントしている。

そうした一端に尊敬の念を抱いた。

仁志と今河は、鹿嶋に要望を伝え、鹿嶋は映像処理をその場で行う。

「ありがとうございます。そうです。そんな感じでお願いします。」

「では、後の処理にはまた時間がかかりますので、完成したらご連絡しますね。」


最終完成を待つのみとなり、ひとまず安心した。

帰り道。助手席に乗った今河が、何かの話の流れでECHOESの時のエピソードを語り始めた。

「当時ECHOESのファンだった人のエピソード。なぜか今思い出してしまったんだよ。」

「どんな話なんです?」

仁志はハンドルをにぎり、正面に顔を向けたまま今河に尋ねた。

「えっとね、がんで余命を宣告されていた人がいたんだよね。ECHOSEのファンだったその人は、生きている間に、どうしても一度ライブを見たいと思っていたらしい。でも、その夢が叶うことはなかったらしい。」

その言葉を今河は声を震わせながら紡いだ。瞳から一滴の涙を流し、今河はすぐに手で拭った。

バンドの存在って、誰かにとって、希望であったり、生きる力だったりするんだと、俺は思い知らされたよ。

今河の熱い言葉に仁志は大きく頷き、dredkingzも誰かの希望や生きる力になっているかもしれないと強く思ったのだった。バンドには責任がある。常に希望を送り続けたい。そういうバンドになりたいのだとも。


11月。ついにMVの完成した。そしてYouTube公開は12月となり、待望の第1弾MV『Detonate』が世に放たれた。




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