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話題のジャンル「ミニマルファンク」とは?そのジャンル解説と、名前の歴史

KINZTOのDr.ファンクシッテルーだ。今回は「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」マガジンの、3回目の連載になる。では、講義をはじめよう。

(👆Vulfpeckの解説本をバンド公認、完全無料で出版しました。今回の記事、ミニマルファンクについては、こちらの本の3章でさらに詳しく解説を行っています!)



LAのファンクバンド、Vulfpeck(ヴォルフペック)は、その新しいサウンドから「ミニマルファンク」と呼ばれている。

この「ミニマルファンク」という言葉、Vulfpeckが登場してから彼らを指すために付けられた「日本でのみ通じる」ジャンル名である。

「ミニマルファンク」とは何か?いろいろネットにある情報を総合すると、

・シンプルなファンク

・P-FUNK、EWF、JBなどと真逆の、少人数編成

・インストなのにソロがない(こともある)

これらの特徴から「ミニマルファンク」だと言われているように思う。


そして、私はこれらの特徴に、

・グルーヴそのものに着目し、それを抜き出して拡大解釈したファンク

・いらない音(ボーカル、ソロなど)を削り、ミニマルに演奏される「引き算ファンク」

SNS、YouTubeの発達をうけて、短時間の動画で魅力を伝えることに特化した「短時間ファンク」

という項目を付け加えたい。むしろ、この


「グルーヴ重視、引き算&短時間ファンク」


がミニマルファンクの本質だ。

それではまず、「ミニマルファンク」という単語が出てきた流れを辿ってみよう。最初に日本語で「ミニマルファンク」がVulfpeckのことを指すジャンル名として紹介されたのは2016年7月20日のことだ。

(それ以前にも「ミニマルファンク」という単語を使っている例もあるが、電子音楽の「ミニマルミュージック」をファンクのリズムで演奏する音楽を指しているなど、現在イメージされている「ミニマルファンク」とは意図が違っている)

これは「Thrill of the Arts(2015)」のリリース記事となっているが、「Thrill of the Arts」は実際には約一年前にリリースされていた盤であるため、当時の業界の関心度の低さが伺える。またバンド名の日本語訳も「バフペック」となっている。

そして同年10月、「The Beautiful Game(2016)」がリリース。「Deen Town」が耳聡いリスナーに届き、NAVERまとめに記事が作られ、またサチモスがVulfpeckを紹介した記事にも「ミニマルファンク」の単語で紹介されたことで、一気にその名称が広がっていった。

また、2017年の「AssHole catalog」のヤマナカ氏のブログも、ミニマルファンクの定義づけに貢献したと思われる。

初見はミニマルファンクバンドってどんなジャンルやねん、どないやっちゅーねんって感じでしたが、音楽を聴くとミニマルファンクというジャンルが妙にしっくりきました。すごくちょうど良いんですよね。音楽ゴリゴリ、Funkゴリゴリではなく、もっと取っつきやすい。良い意味でミニマル。

この頃は「My Finish Line(2017)」もリリースされているので、「Tea Time」におけるソロ無しの3分間ファンク、「Hero Town」のソロではなくグルーヴ重視のバウンスファンクなど、彼らのスタイルも連続した作品を通して理解されるようになってきた。

ファンクはそれまで、踊れる黒人的なグルーヴと、長い演奏で単調なコード進行、またソウルフルなヴォーカルもしくはひたすらにアツイソロとセットになって語られるジャンルであった。そうではなく、そのファンクから「グルーヴだけを抜き出して」勝負するバンドが出てきたことは大きな驚きであり、また、それによってファンクが苦手なひとでも「ミニマルファンク」なら大丈夫、というケースが出てきたのである。

そして、やはりファンが一番注目したのは、Joe Dartの驚異的なグルーヴだろう。「Deen Town」で披露される圧倒的なベースのテクニックは素晴らしいものだったが、この楽曲にソロがないことが、「ミニマルファンク」をファンに理解させるのに大きく貢献したのではないかと思われる。

3分半の動画で、弾こうと思えばいくらでもソロを弾けるスペースは与えられている。しかしそこで弾かない。ほとんどルートしか弾かない。この謎のパートは何のためにあるのか?ここが分かりやすい主役を持たず、グルーヴだけで展開していくのが非常に新しかったのだ。(Deen Townになぜソロがないのか?は、私の別のnote記事にて解説を行っている)

また、2018年にはVulfpeckのサイドプロジェクト、「The Fearless Flyers」の「Ace of Aces」が登場した。わずか2分17秒、Vulfがアップロードしてきた動画の中でも特別に短く、やはりソロはなくひたすらグルーヴで勝負するという動画はさらに「ミニマルファンク」という単語を広めることになった。

これらのグルーヴ重視、引き算&短時間ファンクを実現してきた「ミニマルファンク」の演奏のアイデアは、リーダーのJack Strattonによるものだ。

JackがVulfpeckで実現したかったものは「チャートNo.1ファンクをレコーディングする際のバックバンド」である。1970年代のアメリカのTV番組のファンキーなバックバンドや、Motown、Booker T. & The MG's、The Crusaders、Bernard Purdieなどのインスト演奏を参考にして、またコンセプトは「Funk Brothers」「The Wrecking Crew」「The Swanpers」という具体的なバンド名を掲げてスタートさせた。

バックバンドはソロで強く主張しない。主張するのは強力なグルーヴである。この精神はVulfpeck初期のシンプルでアツくないファンクの楽曲に強く現れており、現在まで彼らのファンクの解釈・表現の根底に根付いている。

Vulfpeckがマネージャー無し、レコード会社無しという制約のもと成功するために、Jackはとにかく予算を抑え、ありとあらゆる作戦で自分たちを有名にすべく、また多くのファンを獲得すべく難題に立ち向かっていった。その戦略のひとつがYoutubeのチャンネル登録者数の拡大であり、いかに動画を飽きられずに見てもらうか?ということを追求していった結果、彼らの楽曲が短くなっていったことは必然だったと思われる。

また、「Tee Time」の動画に出てくる3分間のカウントダウンは、鍵盤とドラムのグルーヴだけ、曲展開なし、という「いかにも途中で飽きちゃって他の動画に行きそうな」曲を、「3分後に何かあるかも?」という期待感を持たせて最後まで見てもらうための工夫だろう(ちゃんとオチも用意されている)。

もちろん、彼らの魅力はそれだけではない。「Animal Spirits」「Christmas in L.A.」のようにポップスのような曲もある。それで「ファンクバンド」を名乗っていいのか?という疑問はあるだろう。

しかし、彼らの音楽の根底にファンクがあるのは疑いようがなく、特にJackのインタビューを読んでいくと、過去のレジェンドや、現在のファンクに対しても、とても深い研究が成されているのが分かる。彼らはファンクに対して確かな愛情があるのだ。

「Birds of a Feather, We Rock Together」のような、ハッピーなソウルの楽曲もあるが、私は彼らはファンクバンドだと考える。ほら、この曲でパンケーキを叩くJackのグルーヴも、いちおう16ビートだ。笑

最後に…2016年にどこから「ミニマルファンク」という日本語が出てきたのか、現時点では解明できていないのだが、2014年のJackのインタビューに、興味深い内容を発見した。

Your songs are pretty minimal, there’s more emphasis on groove than melody.
We go into it saying is “pretend like we’re recording this as a rhythm section to have a vocal laid on it later.” It’s pretty simple, minimal, bonehead funk, you know?

意訳になるが、こんな感じだ。

記者:あなたの曲はわりと、ミニマルで…メロディーよりもグルーヴを重要視しています。
ジャック:我々は「後からボーカルを乗せるリズムセクションとしてレコーディングしている”フリをしている”」と言っています。シンプルで、ミニマルな、単純なファンクですね。

また、Jackの動画シリーズのひとつ、「HOLY TRINITIES」のなかで、Jackは自身を含めたこれらのジャンルを「Minimalist Funk」と呼んでいる。

ただ、この動画が作られたのは2017年のことなので、2016年に日本で「ミニマルファンク」という呼称が広まった原因とは考えられない。

現在、Jack含む、海外での呼称として「Minimal Funk」ではなく、「Minimalist Funk」という呼び名が存在し、そちらのほうがVulfpeckを指すワードして(若干ではあるが)認識されているのは確認できている。

Jackが直接、自分達を「ミニマルファンクバンド」だと口にしているという記事、動画などは調べても出てこないため、想像になるが、やはりこれは2015~16年ごろ、日本にVulfpeckを紹介したかった誰かが、Jackのインタビューなどから総合的に判断して名付けたネーミングではないだろうか。英語で「Minimal Funk」を検索すると、ファンクではなくハウスの動画ばかり(2016年以前)が出てくるので、日本語の考案者はそこから取ったとは考えにくい。

しかし、「ミニマルファンク」という造語が、日本でVulfpeckの認知を高めるのに効果があったのは間違いない。やはりいつの時代も、新しいものを紹介するためには、新しく名付けてしまうのが一番なのだ。

以上が、2020年初頭現在の、「ミニマルファンク」という単語における見解である。これから、新たにミニマルファンクを標榜するバンドが登場することで、またこの解釈も変わってくるかもしれない。新たな歴史の変化を楽しみにしていようではないか。

次回の「どこよりも詳しいVulfpeck」は、Vulfpeckのメンバー編成から、彼らの核となる「持続可能なバンド」という考え方に迫っていく。これはバンドだけでなく、いまや世界的に必要な考え方だと言えるだろう。是非ご覧いただきたい。




◆著者◆
Dr.ファンクシッテルー

イラスト:小山ゆうじろう先生

宇宙からやってきたファンク研究家、音楽ライター。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動。


◇既刊情報◇

バンド公認のVulfpeck解説書籍
「サステナブル・ファンク・バンド」
(完全無料)


ファンク誕生以前から現在までの
約80年を解説した歴史書
「ファンクの歴史(上・中・下)」


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