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DL作家のご紹介

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週刊ドリームライブラリで活躍する作家の皆さんをご紹介するマガジンです。作品の中から一編をご紹介します。
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記事一覧

巌流島の決闘 by 神田南田

 時は慶長17年4月13日、西暦でいうところの1612年でございます。  巌流島では佐々木小次郎が宮本武蔵を待っていた。  ちなみに1612年と言う年は江戸幕府がキリスト教禁止令を出した年でもございます。  それでも小次郎は待っていた。他にも駿府の銀座を江戸に移した年でもございます。  なのに小次郎は待っていた。その他、山田長政がタイ王国に渡航した年でもございます。  ああ、それなのにそれなのに、小次郎は、ずっと武蔵を待っていた。小次郎が待つこと23時間、やっと武蔵は現れ

ごく偶に by 釈 暁焔

 怖い話、不思議な話、面妖な話、奇々怪々な話。   恐怖譚、神霊譚、妖怪譚、幻想譚。  どれも全て子供の頃から大好きで、自分でもそんな話ばかり書いている。  ところが、僕自身はいわゆる「霊感が〜」という語る人の枠には一切入らない。自分では寧ろ、その手の事に関しては「『零』感人間」等と、話しているくらいである。  一度、真夜中にベランダへ煙草を吸いに出た折、近くに立つ電柱の上に、白い服を着た女性の姿を見つけたことがある。驚いたものの、「仮にも僧籍にある者がこんな事でたじろいで

小説「投稿者の名はキャリアちゃん」(おぼん・ライン・ほし)

三題話の今回テーマは「おぼん・ライン・ほし」とある。 三題話というのは、題が3つ出され、それを文章の中に織り込んで物語なりエッセイなりを考えるという私が参加している小説サイトのイベントの一つだ。 3つもの指定された言葉を織り込んでの制限を受ける話など最初は無理だと思ったが、何度か経験するうちに、面白くなってきた。 また他に参加する作家たちの話が興味深かった。 同じテーマにもかかわらずその内容やスタイルが千差万別で驚きを感じ良い刺激になる。 さらに、プロットも何も浮かばず書

【賢明な選択】

 ある日、村人は誤って湖に携帯を落としてしまった。すると、湖の中から女神様が現れ、村人にこう言った。 「おまえが落としたのは、この金の斧か。それとも、こちらの銀の斧か」 村人は考えた。 *****おいおい、冗談じゃねえ。今どき斧なんて持ってる奴はいねえだろ。ましてや、金の斧、銀の斧なんぞ使い道があるはずねえし。それに、本当の女神様なら、オラが落としたものぐれえ、わからねえはずがねえ。オラが落としたのは携帯だよ、携帯。つまり、この女神様はどう考えてもニセモノだ。するてえ と

小説「路地裏には不思議なお店があるらしい」

 確かこの辺りだと思ったけれど違ったかな。 私は現在、数日前偶然見つけ占いをしてくれたおばあさんのお店を探している。 あの噂はどうやら本当らしい。 ――よく当たる占いのおばあさんの店がこの町の路地裏のどこかにあるのだが探しても誰もがその店を見つけられるわけじゃ無い。 例えその店で占ってもらって次に同じ場所を訪れても何故か見つけられないと言う不思議な店があるらしい――  私は別に占ってもらいたいことがあった訳じゃなかった。 引っ越して間もない私は散歩がてらの町探検だった。横

あなたがいることで

 開通したばかりのシーサイドロードを星川椿(ほしかわつばき)は走っている。このラインができて週に数回の往復が便利になった。椿の自宅から県内のほぼ南端に位置する実家までの小一時間は、椿ひとりの自由な時間。スマホからブルートゥースで飛ばしたお気に入りの音楽が車内でランダムに流れている。椿はハンドルを握る両手に力が入るのを感じながらアクセルを踏む。雪道だというのにすれ違う車はスマートな運転で走り去る。対向車が途切れると右側に海が見えた。  冬の海には荒れた波がたち、その波は陸に近づ

【創作】ゴールライン

※お世話になっております『週刊ドリームライブラリ』さんの三題話に挑戦した2018年の作品です。お題は「おぼん」「ライン」「ほし」でした。良かったら読んでみて下さい。 https://note.com/dreamlibrary 定年退職した良作が、居酒屋「おかめ」に顔を出す頻度も増えた。カウンター席ばかりの小さな店で、気安く飲める。 その日店に入ると、一番奥の席に馴染みの顔があった。痩せて小柄で、髪も髭も伸び放題だが、善人を絵に描いたような笑顔。残り少ない歯も愛嬌である。

スーパーヒロインは眠れない

「・・・ミコト様、・・木の・花・・火を・・・」 「何事だ、もう一度落ち着いて話してみろ!」 「木花咲耶姫(このはなさくやひめ)様が、産屋に火を放たれました」 日本書紀と古事記によると、天孫ニニギノミコトは大山津見命(おおやまつみのみこと)の娘である木花咲耶姫に一目惚れし、大山津見命の同意を得て結婚したものの、一緒に嫁がせようとした姉の岩長姫を送り返したことから大山津見命の怒りを買い、以後天皇家に寿命が生じたという。 一晩だけの契りで妊娠を告げた木花咲耶姫様に、ニニギノミ

新作噺『お勉強』 (生・入道雲・ウイルス)

網焼亭田楽 「おい、よたろう」 「なんでございましょう、だんな様」 「今年の梅雨は長いねえ」 「いえいえ、長いのは麺の方でございまして、つゆは長いとか短いとかは言いません」 「誰がソーメンの話してんだよ。違うよ違う。梅雨だよ梅雨」 「あたいは濃縮タイプよりも、ストレートタイプの方がお好きです」 「だから違うって言ってんだろ。季節の話だよ。ほら、春と夏の間にあるのはなんだい」 「ええと、春と夏?」 「そうだよ。その間にあるのは」 「『と』の字でございますか」 「どんどんややこ