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『大嫌いなアイツと掛けて、大好きなアナタと解く、その心は?』

ゲーム本編は以下。無料でプレイできるフリーノベルゲームです。

ムカつく奴が居る。
理屈っぽくて頭でっかちな、ウザいアイツ。

■アイツ
だからやっぱり、このサゲは訝しいと思うんだよな。
大事な親をカゴカキにしたと云っても、無理やり親に駕籠をかかせたと云うのは親の落ち度ではないのだし。

■部員A
いやでも、駕籠舁きはとにかく嫌われるものなんだから、謎掛けみたいなもんでしょ。

■アイツ
それは勿論だけど、なんだかスマートじゃないんだ。
例えばさ、勝負は五部と視えたが六部が視えない、っていうのは、言葉遊びとして巧く成立していると思うけど、それは、確かに六部が視えないからな訳で。

ああ、理屈っぽい。
落語をそんなに理屈で捉えようとしなくても良いと思うんだけどなあ。

■部長
どう、部活には慣れた?

■私
あ、部長。
はい、愉しく参加してます。

■部長
それは良かった。

■私
でも、あの……。

■部長
ん?

■私
あれはちょっと、どうなのかな、と……。

向こうを指差すと、部長は苦笑した。

■部長
ああ、彼も中中熱心だね。
同じクラスだったっけ?

■私
ええ、そうです。
でもアイツ、なんであんなに理屈っぽいと云うか、頭が固いと云うか……落語ってそういうものじゃないと思うんですけど。

■部長
まあ、確かにね。
でもまあ、あれはあれで落語研究会っぽくて良いかなと思うよ。

■私
でも……あんなにゴチャゴチャ云ってないで、謎掛けの一つでも作れば良いのになあ。

■部長
君の方はどう?
謎掛けは作れた?

■私
あ、一応ちょっと作ってみたんですけど……でも良く判らなくて。

■部長
ほう、どれどれ。

作ってきた謎掛けを書いたメモを渡す。

■部長
シャツと掛けてズボンと解く、どちらも衣服……うーむ。

■私
駄目ですか?

■部長
何と云うか……これはまあ、謎掛けにはなっていないね。

■私
やっぱり……。

まあ、何か違うのは解ってた。
ただ、何をどうしたら良いのか、よく判らない。

■部長
それこそ、彼に相談してみたらどうかな。
同学年だし、先輩達より気楽だろ?
それに彼は理屈っぽいだけあって、結構鋭いところがあるんだ。

■私
ええ……アイツですか?

■部長
仲が悪いの?

■私
いえ、仲が悪いと云う訳でもないですけど……余り好きじゃないと云うか。
はっきり云うと、嫌いなんです。
顔も見たくないし、口もききたくないくらいで。

■部長
そんなにか……何かあったの?

■私
何かあった訳でもないですけど……だってあんな風に理屈っぽくて頭でっかちで、何かウザいじゃないですか。

■部長
おお、結構云うね……。

■私
落語ってもっと気楽なものじゃないですか。
何も考えずに笑っていられるから、私好きなんです。
それなのにアイツ、理屈ばっかりで……。

■部長
うーん、落語を聞くだけならそれもそうなんだけどね……。

■私
え?

■部長
まあ、とにかく話をしてみな。
色色と発見もあると思うしね。
おーい。

■アイツ
だからサゲとしては例えば、鳥籠を端っこに小さく描かせておいて、大事な親にハジをかかせた、とかにした方が良いと……え、部長呼びました?

■部長
議論が白熱してるところ悪いけど、あの子の相談に乗ってやってもらって良いかな。

■アイツ
ん、同じクラスの……でも僕、余り関わった事ないですよ。

■部長
じゃあこれを機に仲良くなれば良い。
謎掛けが巧くできないらしいから、見てあげてよ。

■アイツ
はあ、まあ判りました……。

部長と入れ替わりで、アイツがやってくる。
理屈っぽくて、本当は口もききたくない、大嫌いなアイツ。

■アイツ
それで、謎掛けができないって?

■私
……まあ。

■アイツ
これが作品?
どれどれ……。

■私
あ、ちょっと……。

■アイツ
シャツとズボンでどちらも衣服……鉛筆とペンでどちらも筆記具……うーん。

■私
何よ、文句ある?

■アイツ
これはまあ……、謎掛けじゃないね。

■私
解ってるわよ。

■アイツ
ただ単に共通物を挙げれば良いという訳ではないんだ。
そこに乖離と云うか、意外性が必要と云うか……。

何を偉そうに。
現時点で既に、これ以上もう会話したくなくなってきた。

■私
そう云うアンタは、どんな作品作ったのよ。

もうすぐ、謎掛けのコンテストが開催される。
それに応募する為に、部員の皆で謎掛けを作る事になっていた。

■アイツ
僕のは、この辺かな。

お弔いと掛けてウグイスと解く、その心は、なきなきうめにいく。

■私
えっ、凄い……。

■アイツ
うん、結構巧く行ったと思うんだ。

■私
ほ、他は?

■アイツ
色色考えてみてるんだけど、こう云うのとかどうかな。
さっきの議論の派生なんだけど。

壁の隅に落描きをしたと掛けて、皆の前で先生に叱られたと解く、その心は、はじをかいた。

■私
え、ええと……。

■アイツ
前者と後者が時系列で繋がっている例で考えてみたんだ。
完全に乖離した二つだけでなく、他の意味でも関連性を持たせられるかと思って。
巧く行っているかはちょっと微妙だけど。

良く判らないけど、何か凝った事をやろうとしているのは解る。

■アイツ
まあ要するに、謎掛けと云うのは乖離のある二つを、ある観点で強制的に同一視するところに面白さがある訳だよ。
ただ単に二つのものの共通点を指摘しても、意外性がある訳ではないから面白さに繋がらない。

■私
ま、まあ確かに……。

■アイツ
例えばね、これも実験で作ったものなんだけど。

宇宙衛星と掛けて、宇宙衛星と解く、その心は、宇宙衛星。

■私
……なにこれ。

■アイツ
ね、これでは謎掛けになっていない訳だよ。

■私
まあ、確かに。

■アイツ
それから、宇宙衛星と掛けて氷と解く、その心は、どちらも自転車屋で売ってくれない、とかね。
やっぱりこれも、当たり前で面白さがないし、何だって構わないじゃないかって事で巧妙さがないんだ。

■私
うん……。

■アイツ
どう考えても繋がりの無さそうな物同士が、シンプルなたった一言で見事に同一視される、その巧妙さが謎掛けの面白さだという事だ。
云わば、考え落ちとかと同じで、結構知的な娯楽な訳だね。

■私
知的な娯楽……落語なのに?

■アイツ
落語は、確かに聞く分には細かい事を考えずに笑っていられるものだけど、それを実現する為に、随分知的で巧妙な構成が為されているようでなくてはいけない、という事なんだ。

■私
へ、へえ……。

落語が知的……そうなのか……。

■私
だからいつも、理屈っぽい事ばかり云ってるの?

■アイツ
理屈っぽいのはまあ僕の悪癖だけど……落語っていうものをそんな風に、理性の観点から捉えてみるのも面白いじゃないかって思ってるんだ。

■私
へ、へえー……。

■アイツ
まあとにかく、謎掛けに大事なのは乖離だと思うよ。

■私
カイリ?

■アイツ
そう。
隔たりと掛けて海面距離と解く。

■私
え……その心は?

■アイツ
カイリだよ。
乖離と海里ね。

■私
……あー。

■アイツ
ってな風に、素朴なものであれば割と簡単に作れるんだ。
先ずはシンプルに、同音異義語を辞書とかで探ってみたらどうかな。

■私
成程……。

■アイツ
古くは百人一首とかでも、言葉遊びをしているでしょ。
みおつくし、とかね。

■私
ああ、掛詞……。

■アイツ
そう。
そんな感じで、同音異義語をリストアップしてみると良いかもね。

突然、教室の扉が開いて、先生が顔を出した。

■教師
お前らー、そろそろ下校時間だから帰りなさい。
遅くなるなよー。

■部員B
はーい。

皆、帰り支度を始める。
愉しい部活も、今日はここまでかあ……。

■アイツ
例えばさ。

■私
え?

■アイツ
誕生間近の有精卵と掛けて、生徒に下校を告げる教師と解く、とかね。

■私
……その心は?

■アイツ
早くかえってほしい。

■私
あ、あー……。

■アイツ
まあこんな風に、作るだけなら幾らでも作れると思うよ。

そう云って、彼も帰り支度を初めた。

■私
同音異義語かあ……。

理屈っぽくて頭でっかちで、ウザい奴だと思ってたけど……。

■私
ね、ねえ……もうちょっと教えてほしいんだけど。

■アイツ
え?
僕は構わないけど……。

帰り道、近所の公園のベンチで続ける事にした。

■アイツ
じゃあ、続けようか。
そうじゃないと、コンテストでビリになるかもしれないし。

■私
そ、それはそうかもしれないけど、そんな云い方をしなくても……。

■アイツ
あ、ごめんごめん。
そうじゃなくてさ。

■私
え?

■アイツ
コンテストのビリと掛けて、今からの僕らと解く。
その心は?

■私
え、私が答えるの?

■アイツ
練習だよ。
どう?

■私
え、えーっと……。

■アイツ
ビリというのを別の言葉で云うと?

■私
えーと……最下位?

■アイツ
そう、つまり?

■私
あ、あー……その心は、サイカイ。

■アイツ
うん、そうそう。

■私
何か……ホントにポンポン思い付くんだね。

■アイツ
巧いか面白いかは扨措き、素朴なものは、結構簡単にできるよ。

■私
素朴なものってどういう事?

■アイツ
何度かやったように、単語一つで表されるようなもの、というのかな。
サイカイとかカイリとかね。

■私
素朴なの?

■アイツ
何と云うのかな。
確かに謎掛けとして成立はしているんだけど、シンプル過ぎて巧妙さに欠けると云うかね。

■アイツ
例えば、何か適当な単語を云ってみて。

■私
え、えーっと……単語。

■アイツ
単語?

■私
単語……。

すると、アイツは笑い出した。
む、ムカつく……。

■アイツ
ごめんごめん。
単語を云えと云って、単語って云われると思わなかったから。
何とか云えって云って、何とかって返すような感じ。

■私
むうー……それで、単語がどうしたの。

■アイツ
うん、例えばね。
アルゼンチンのダンスで、タンゴってのがあるでしょ。
それと掛詞にできると思わない?

■私
あ、あー……。

■アイツ
でもこれってやっぱり、誰でも思い付けるというか……その辺を指して、僕は素朴って呼んでるんだけどね。

■私
じゃあ、ダンス繋がりで、タップダンスと、スマホの指使いのタップとか。

■アイツ
あー……それはね、掛詞になっていないんだ。

■私
えっ、どうして?

■アイツ
そもそも本当に、同じ単語だからだよ。
タップダンスと云うのは、脚で地面をトントンと叩くようなダンスでしょ。
スマホを指でトントンとやるのも同じで、タップというのはこのトントンというのを指す言葉なんだ。
だから、タップダンスのタップとスマホのタップは、本当にただ同じ言葉なんだよ。

■私
うう……。

■アイツ
まあ、慣れの問題もあるから……で、さっきも云った通り、言葉同士に乖離がある方が巧妙さは増すから、できるだけ乖離のあるものを選ぶのが良いと思う。

■私
例えば……?

■アイツ
お弔いとウグイスって、全然共通点があるようには思えないでしょ。

■私
お弔い……お葬式……哀しい……ウグイス……鳥……確かにね。

■アイツ
でもどちらも、なきながらうめに行く訳だよ。
お葬式は、哀しくて涙を流しながら、お骨を埋葬しに行く。
ウグイスは鳴き声を発しながら、梅の枝に止まる訳だね。

■私
そ、そうだね……。

■アイツ
しかもこれは二重に掛かっている例だから、一つの時より巧妙だよね。
同時に複数の条件を満足すると云うのはそれだけ難易度が高いから、巧妙さ、面白さに繋がる訳だよ。

■私
うーん……共通点があるだけでは駄目なの?

■アイツ
例えば、2と掛けて4と解く、その心は偶数、なんてのは、ただの事実であって、意外性はないよね。

■私
まあ、確かに……。

■アイツ
或いは、指数部に虚数と円周率の積を持つ指数函数と掛けて、-1と解く、とかね。
その心は、指数函数のテイラー展開を考えると云云……とか。
この事実自体は意外なものではあるけど、やはり数学的な事実であって、謎掛けとしての意外性ではない訳だ。

意味が解らない……。

■アイツ
以前、こんなのを考えてみたよ。
Yとの共通点Zを持つXと掛けて、Xとの共通点Zを持つYと解く、その心は、共通点Zがある。

こ、コメントに困る……。

■アイツ
コメントに困るよね。
でも、共通点だけでっていうのはつまりこんな事で、まあ要するに当たり前なんだよ。

■アイツ
ちなみに、こんなのはどうかな。
ある実数xをxの二乗と掛けて、その値が1となる場合にその方程式をx=1と解く、その心は、xは実数だから。

■私
……単純に、意味解んない。

■アイツ
これは謎掛けに見せかけた数学の説明だから、そもそも謎掛けじゃないんだけどね。
xの3乗=1の実数解は1ってだけ。

解らない。
コイツが何を云っているのか、全然解らない。

■アイツ
掛けるというのを、掛詞の意味と掛け算の意味で同一視して、解くという言葉を方程式の解を求める事と同一視してみたものなんだ。
だからその意味では謎掛けと同様の言葉遊びなんだけど、ただ形式上謎掛けの構造はとっていないんだ。

■私
何でそんなに難しい事ばかり考えてるのさ……。

■アイツ
その方が、落語や謎掛けというのが何なのかをより深く捉えられるからだよ。
その対象を理解しようと思ったら、何が有りで何が無しかを試してみて、範疇を明確化していくのが有意義なんだ。

解らない。

■アイツ
まあそれは扨措き、とにかく乖離がある方が良いんだ。
そうでないと、聞いている人が簡単に推測できてしまって、云わばネタバレみたいな状態になるから、余り驚けないし面白くないんだよ。

■私
あー、成程……。

最初からそう云ってよ。

■アイツ
構造としては、
任意の対象Xと掛けて、性質Yで同一視される対象Zと解く、
その心は、どちらも性質Yで同一視される、
と云うような事。
ここで、この性質Yでの同一視が強制的であるのが謎掛けのベース、と云うような事だろうね。

だから、解んないって。

■アイツ
他の観点としては、言葉とかはシンプルである方が、より良い謎掛けになると思う。

■私
シンプル?

■アイツ
例えば僕が今述べたような物達はさ、単純にもう、聞いてられないでしょ、面倒臭すぎて。

■私
うん、面倒臭い。

■アイツ
まるで、手入れをしていない使い古した剣道の装備みたいにね。

■私
……え?

■アイツ
手入れをしていない使い古した剣道の装備と掛けて、くだくだしい説明と解く、その心は?

■私
え、え、えーと……?

■アイツ
メンドウ臭い、ってね。

よくそんなにポンポン出てくるな、本当に……。

■アイツ
まあともかく、言葉が長い程どうとでも云えるようになるし、単純に面倒臭くて相手していられなくなる。
だからそれより、シンプルである方が良いんだ。

■私
成程……。

■アイツ
数学や科学の世界でも、エレガントとか美しいっていう言葉をよく使うんだけど、その大体の意味は、シンプルでありながら重要な効果を担っている、その意外性を指していたりするんだ。
たくさんの情報を持った言葉がたくさんの意味を持つのは不思議じゃないけど、たった一言なのに随分多くの意味が含まれていたら、やっぱり凄いよね。

■私
ま、まあ……。

■アイツ
だからバシッと、短いフレーズでシンプルに纏まっているものは巧妙で優れたものなんだ。

■私
でもさっき、素朴がどうのって云ってなかった?

■アイツ
シンプルなだけに情報が少いと、素朴って云う事になるんだ。
素朴で複雑なものが、エレガントって事になる訳だね。

■私
へ、へー……。

■アイツ
端的に纏めると、シンプルで、乖離が大きくて、意外性のあるもの、それが謎掛けのポイントになるかな。
まあここまでのものをいきなり作るのは無理だから、同音異義語の素朴なパターンで練習すると良いと思うよ。
日常の実例とかから探るのも良いだろうね。

シンプルで、乖離が大きくて、意外なもの、かあ……。

日常の意外な例と云えば、コイツの存在も意外かも。
理屈っぽくて頭でっかちで……何となくいけ好かない奴。
顔も見たくないし、口もききたくなかったけど……結構良い奴で、頼りになって……。

■アイツ
まあ、このくらいかな。
そろそろ帰ろうか。

そう云って、アイツは立ち上がった。

……何故か判らないけど、私は、口もききたくなかったアイツの裾を掴んでいた。

■アイツ
……ん?

■私
……シンプルで、乖離が大きくて、意外なもの。

■アイツ
何か考えついた?

■私
判んないけど……こんなのどうかな。
飽く迄、ただの謎掛けだけど。

大嫌いなアイツと掛けて、大好きなアナタと解く。
その心は、
もう、はなしたくない。

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