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#オリジナル短編小説
連載小説『モンパイ』 #10 Fin.
荷物を持って立ち去ろうとした時、先ほどまで道路脇に立っていた男性がいなくなっていることに気がついた。
僕がてんやわんやしている間に、待ち合わせの人間と落ち合って出発したのだろう。
もしかすると、誰かと待ち合わせていたのではなく、ただ時間を潰していただけかもしれない。
真実を知る術はないけれど。
想像するしかないけれど。
モンパイを開始した時よりも、人通りや車の往来はずっと多くなっている。
連載小説『モンパイ』 #8(全10話)
それにしても、この高校の生徒はみな同じ見た目をしているな、と思う。
制服を誰一人着崩すことなく、髪型について言えば、男子は前髪が目にかからない長さ、女子は後ろで結ぶかショートヘア。
もちろん全員黒髪だ。
校則が比較的厳しいというのは聞いているが、こうも揃っていると何だか気味が悪い。
まるで軍隊だ。
頭髪検査という大人に押し付けられたルールなどはね返してしまえば良いのに。
子どもだからマ
連載小説『モンパイ」 #7(全10話)
生徒の集団は、ぞろぞろとやって来るのではなく、周期的に群れをなしてやって来る。
信号機のせいだ。
駅から学校までの生徒の流れは、赤信号によって周期的にせき止められる。
そして信号が青に変わると同時に、まるでダムの水が放水されるが如く、大群となって一気に押し寄せる。
先輩と一緒に配布するときは、校門の両脇に二人で立ち、大群を挟み込みながら配るのだが、一人だとそうはいかない。
配布漏れがどう
連載小説『モンパイ』 #6(全10話)
配布開始後十五分あたりから、生徒の数が徐々に増してくる。
だがピークはまだ先だ。
今くらいの時間帯が一番辛い。
なぜなら、最も貰われにくい時間帯だからだ。
どうやら高校生は、こうした塾のビラを受け取る際に互いの目を気にするらしい。
配布開始後すぐは人通りが少ないので、他の生徒に見られることなく受け取ることができるし、逆にピーク時になると友達同士で面白がって受け取る生徒が増える。
今がち
連載小説『モンパイ』 #5(全10話)
荷物を隅に置き、再びスマホを確認する。
やはり先輩からの連絡はない。
仕方ない。
一人で配り始めてしまおう。
そう決意して、袋から資材を取り出す。
無料体験実施中のチラシと、共通テスト対策のイベント勧誘チラシ、講師の顔写真と熱いメッセージが掲載された薄いパンフレット、そして付箋が、B5サイズの透明なファイルに入っている。
それが百セット。
普段は二人で挑むが、今日は一人。
捌き切れ
連載小説『モンパイ』 #3(全10話)
この時間の電車はかなり空いている。
学生、サラリーマン、OL、それから何をしに行くのか皆目検討のつかないご婦人が、思い思いの時間を過ごしている。
満員電車の辛さを知っているだけに、これほどストレスのない車内を見ると微かな感動すら覚える。
ふと、目の前に座るジャージ姿の生徒に目を向けると、胸元にHIRAI GAKUENという刺繍が施されているのが見えた。
これからモンパイに行く高校の名前だ。
連載小説『モンパイ』 #2(全10話)
寝巻きのスウェットを脱ぎ、白いYシャツを着てネクタイを締める。
今は五月中旬なのでクールビズ期間に入っているが、モンパイとの決戦の日だけはネクタイ着用が義務付けられている。
ネクタイをすると首が締め付けられて窮屈に感じる、と不平を漏らす人もいるが、全員と同じ身なりであることを強制される、同調圧力の権化とも言うべき「スーツ」というファッション形態において、遊びを楽しめるポイントはネクタイくらいな