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『存在と時間』を読む 全88本

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2021年11月の記事一覧

『存在と時間』を読む Part.25

  第26節 他者の共同現存在と日常的な共同存在

 すでに確認してきたように、現存在は配慮するまなざしのもとで、自分の周囲の環境世界が道具で満ちていることを発見したのですが、この道具連関は、現存在が単独で作りだしたものではありません。刀匠が槌を振るうとき、その槌は他者が製造したものであり、他者が販売したものです。刀匠は槌を使うことで、無意識のうちに気づくこともなく、それを製造した人と出会い、販売

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『存在と時間』を読む Part.26

  第27節 日常的な自己存在と<世人>

 これまでの分析によれば、世界のうちの現存在は、灯台モデルによって捉えることはできず、あたかも空虚な場所であるかのように、つねに他の場所から自己へと反照し、自己に立ち戻るというプロセスでしか、自己を認識できないとされてきました(Part.22参照)。この空虚さは、事物の認識においてだけではなく、他者との関係においても確認できます。わたしたちがもつ欲望は多

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『存在と時間』を読む Part.27

 第5章 内存在そのもの

  第28節 内存在を主題とした分析の課題

 これまで世界内存在の3つの契機のうち、「世界内」と「存在者」という契機について考察されてきました。そしてこの第5章では、第3の契機である「内存在」について考察されます。これらの3つの契機を考察し終えることで、現存在の世界内存在という存在様態についての洞察が深められ、こうした考察によって、世界内存在の構造の全体性を、現象学的

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『存在と時間』を読む Part.28

 A <そこに現に>の実存論的な構成

  第29節 情態性としての現-存在

 現存在の実存論的な構成において最初に検討されるのは、現存在の情態性です。この情態性とは「気分」のことであると、ハイデガーは言います。

Was wir ontologisch mit dem Titel Befindlichkeit anzeigen, ist ontisch das Bekannteste und

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『存在と時間』を読む Part.29

  第30節 情態性の1つの様態としての恐れ

 実存論的な分析論では、現存在の気分の<聞き取る>必要がありました。この節でハイデガーが分析の対象として取り上げるのは、「恐れ」という日常的な現象です。

Das Phänomen der Furcht läßt sich nach drei Hinsichten betrachten; wir analysieren das Wovor der F

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『存在と時間』を読む Part.30

第31節 理解としての現-存在

 この節で提示される「理解」とは、一般的に言われているような意味での理解のことではありません。ここでの「理解」は実存カテゴリーであり、情態性と同じような実存論的な構造の1つになります。

Die Befindlichkeit ist eine der existenzialen Strukturen, in denen sich das Sein des >Da<

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『存在と時間』を読む Part.31

 この節は比較的難解ではありますが、本書の中でも重要な一節であると思います。本書の目的である「存在の意味」の「意味」という概念や、「解釈学的循環」などの序論ですでに登場していた概念が、理解と解釈という実存論的な概念に注目しつつ、この節で取り上げられることになります。また「予持、予視、予握」の「予ー」構造も、ここで登場することになります。

  第32節 理解と解釈

 現存在は理解することで、世界

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