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『存在と時間』を読む 第39節から第44節まで

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記事一覧

『存在と時間』を読む Part.38

 第6章 現存在の存在としての気遣い

  第39節 現存在の構造全体の根源的な全体性への問い

 第2章から第5章までの分析によって、現存在が世界において示すさまざまな存在様式が解明されてきました。第2章では世界内存在一般について考察され、第3章では世界内存在を構成する3つの契機を示す概念「世界」「世人」「内存在」のうちの「世界」の概念が、第4章では「世人」の概念が、そして第5章では「内存在」に

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『存在と時間』を読む Part.39

  第40節 現存在の傑出した開示性としての〈不安〉という根本的な情態性

 前節で語られていたように、ハイデガーは現存在の根底的な情態性として「不安」の概念をあげていました。この不安についてはまだ提示されただけであり、それについてさらに考察するのが第40節の内容になります。まずは不安についての問いの提起から始められています。

Inwiefern ist die Angst eine ausge

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『存在と時間』を読む Part.40

  第41節 気遣いとしての現存在の存在

 ここで一度、これまでの分析をおさらいしながら、この節で行われる考察につなげてみましょう。

 これまで現存在の根源的な開示性として、語り、理解、情態性が考察されてきました。「語り」は現存在の知的な世界理解と感情的な気分としての情態性を根拠づけ、「理解」は現存在の語る活動と感情的な気分を支え、「情態性」が現存在の語る活動と世界の理解を可能にするのです。

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『存在と時間』を読む Part.41

  第42節 現存在の前存在論的な自己解釈に基づいた気遣いとしての現存在の実存論的な解釈の検証

 ハイデガーはすでに、人間という存在者にとって適切な存在論的な基礎を獲得しようとすることを目指すなら、特別な概念装置が必要であることを強調してきました。人間という概念を使うなら、人間についてのさまざまな既存の定義に規定されてしまうのであり、しかもこうした伝統的な手掛かりは、存在論的には不透明なものでし

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『存在と時間』を読む Part.42

  第43節 現存在、世界性、実在性

 ここまで、現存在の世界内存在にかかわるほぼすべての重要な実存カテゴリーが明らかにされてきました。ここでハイデガーは本書の最初の問いに戻ります。「存在の意味への問い」がそもそも可能であるのは、わたしたち現存在の存在様式に、存在了解が含まれているからでした。ただし、こうした存在了解は前存在論的なものであることも多いのでした。

Das vorontologis

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『存在と時間』を読む Part.43

  (b)存在論的な問題としての実在性

 これまでに指摘されてきたように、実在性(>Realität<)という名称は、世界内部的な眼前存在者である事物(>res<)の存在を指すものですから、この実在性の解釈は、世界内部的な存在者の世界内部的なありかたが解明されて初めて、存在論的に遂行できることになります。

Diese aber gründet im Phänomen der Welt, die

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『存在と時間』を読む Part.44

  第44節 現存在、開示性、真理

 この節では、哲学にとって伝統的に重要な概念である真理と存在論の関係が考察されます。ハイデガーは、古代ギリシアの時代から、哲学の伝統では真理と存在を結びつけて考えてきたことを指摘します。

Die Philosophie hat von altersher Wahrheit mit Sein zusammengestellt. Die erste Entdec

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『存在と時間』を読む Part.45

  (b)真理の根源的な現象と、伝統的な真理の概念の派生的な性格

 ハイデガーは真理を、世界において存在者をあらわにすること、世界内存在である現存在が露呈させることと言い換えました。このような概念規定をすれば、たしかに真理の概念から〈一致〉という考え方を排除することができます。しかしこれは、伝統的な哲学によって考察されてきた真理の概念を無視するという、一見するとかなり恣意的な定義なのではないでし

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『存在と時間』を読む Part.46

  (c)真理の存在様式と真理の前提

Das Dasein ist als konstituiert durch die Erschlossenheit wesenhaft in der Wahrheit. Die Erschlossenheit ist eine wesenhafte Seinsart des Daseins. Wahrheit >gibt es< nur, sofern un

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