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ユーリ・ノルシュテイン「アニメーションの神様、その美しき世界」

はじめに

突然だが、皆さんは恋人との初めての冬、どこに出かけるだろうか。

わたしの場合、表参道や代官山、恵比寿あたりで食事をし、ショッピングを楽しむといった、ありきたりな予定を立てるはず。なぜなら、一人ではなく二人だし、まだ分からないことも色々あるから。

しかし、今の妻と付き合ってから初めての冬、たしかクリスマスがもうすぐという時期に、なぜか渋谷のシアター・イメージフォーラムでなかなか特殊な映画を観に行った。しかも、大学で研究した帰りに。今でもこの意思決定を不思議に思う。

鉄板のデートコースではない誘いなのに一緒に付き合ってくれている時点で、代えがたいパートナーだったとしみじみ思う。

そのときに観たユーリ・ノルシュテイン(Yuriy Borisovich Norshteyn)監督の特集上映、

「アニメーションの神様、その美しき世界」

を紹介したい。

アニメーションの神様

とも評されるユーリ・ノルシュテインの6作品をまとめたオムニバス形式の映画である。

ノルシュテイン氏はロシア出身で現在79歳。日本でも何度か映画館や美術館で特集されている。

まずは、雰囲気を知っていただきたいので、予告編&美しいオフィシャルページをシェアしよう。

『25日・最初の日(25th October, the First Day)』

まず1作品目は1968年に公開されたデビュー作の『25日・最初の日』。

・テーマはロシア革命
・映像の長さは10分程度で短い
・美術監督のアルカージイ・チューリン(Arkadiy Tyurin)との共作である
・使われた音楽は、ショコスターヴィッチ(Dmitrii Dmitrievich Shostakovich)の交響曲11・12番

音楽もアニメーションも威圧感がすごい。この時点で、彼女(妻)は若干引いたことだろう。連れて行ったわたし自身、圧倒されているのだから。

『ケルジェネツの戦い(The Battle of Kerzhenets)』

2作品目は1971年公開の『ケルジェネツの戦い』。

・壁画が動き、ストーリーが展開される
・イワン・イワノフ・ワノ—(Ivan Ivanov-Vano)との共作。ワノ—氏がノルシュテイン氏を招いた
・ノルシュテイン氏が切絵手法を提案

隣の連れは余計に不安そうだったが、個人的には手法が面白くてこの先の作品に期待が高まっていく。

『キツネとウサギ(Fox and Rabbit)』

3作品目は、1973年公開の『キツネとウサギ』。

・初の子供向け作品なだけあって、セリフの入ったコミカルな雰囲気
・上層部に忖度し、人気のある子ど向け作品を提案したそうだが、制作においてはキャラクターデザインにかなり拘ったそう
・妻で美術監督のヤールブソヴァ(Francheska Yarbusova)とも協力

なんともかわいらしいけど、どこか独特なアニメーション。色使いが非常に鮮やかな作品。

『アオサギとツル(The Heron and The Crane)』

4作品目は、1974年公開の『アオサギとツル』。

・浮世絵と水墨画からインスピレーションを得て作成
・恋愛劇

紹介する特徴は少ないものの、とにかく美しい作品である。また、素直になれないアオサギとツルがなんとも愛らしい。

『霧の中のハリネズミ(Hedgehog in the Fog)』

5作品目は、1975年公開の『霧の中のハリネズミ』。ノルシュテイン氏、ずいぶんハイペースですね。

・何枚ものガラス面に切絵を貼り撮影する手法を採用
・世界アニメーション史に残る最高傑作と評される
・ハリネズミが出かける理由は、お友達とお茶をしながら星を数えるため

この作品は、ノルシュテイン氏のアニメの代名詞の1つと言っても過言ではない、彼独特のタッチがみられる。

とにかく、出てくる動物たちすべてに魅了されてしまう。アニメーションの動きも、日本アニメでは見られない感じがたまらない。また、ロシア語?のセリフも心地よい。

『話の話(Tale of Tales)』

6作品目は、1979年公開の『話の話』。『霧の中のハリネズミ』と同じく、ノルシュテイン氏の代表作である。

・ノルシュテイン氏の自伝的な内容
・モチーフはナジム・ヒクメット(Nâzım Hikmet)の詩、『話の話』
・狂言回しは狼の子
・やはり、戦争に関する記憶が色濃く反映されている

正直、これが一番怖い。もちろん、内容には多様な解釈があると思う。しかも、なかなか理解するのが大変な作品だ(いずれ考えをまとめた記事も出してみたい)。

しかし、とにかくわたしには最後の方の印象が強すぎた。一瞬、赤ん坊が食べられたのかと思ったのだけど、どこにもそのような記述や解釈がないので、おそらくあやしていたのだろう。でも、その様子が不気味でぞっとした。

このような脳裏を離れないシーンが存在する作品は、とても好きだ。絵のタッチも含め、すべてが一つになって表れる効果であり、作者の魂が感じられるから。あと何回か観て、それから感想でも綴ってみようと思う。今回は、あくまで皆さんへの紹介まで。

お土産のポストカードセット

パッケージ

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『25日・最初の日』(1968)

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『ケルジェネツの戦い』(1971)

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『キツネとウサギ』(1973)

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『アオサギとツル』(1974)

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『霧の中のハリネズミ』(1975)

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『話の話』(1979)

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最後に

2年前上映された別の作品を紹介して、結びとしたい。

作品名は、『ユーリー・ノルシュテイン≪外套≫をつくる』である。残念ながら、気づいた時には上映期間を過ぎていた。

まずは、ホームページと予告編を置いておこう。

そもそも、『外套』というノルシュテイン氏の作品がある。しかし、1981年から制作を開始し、未だ完成していない。

その制作過程を描いた映画が、本作となる。

いやあ、いつか完成品を拝みたいものである。年齢的に考えても、一抹の不安が残る。しかし、このようなことはよくあること(ハンターハンターしかり)。おとなしく待つことにする。

それでは、今回はこの辺で。


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https://note.com/dr_montblanc/n/n5fa8a3d1563d
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