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【怪異譚】雪山での神隠し

 行方不明事件の中には、時折、神隠しかと思えるほど不可解なものがある。

  昭和初期の新潟の魚沼地域の冬山登山での行方不明事件も、かなり不思議な事件である。

 雪解け前の3月初め、山スキーをしようとした長尾さんという一人の青年が単独で登山した。
 新潟では珍しく天候は悪くなかったのだが、長尾さんは家族の所に戻ってくることが無かった。

 次の日から、村の者が総出で、長尾さんが上った山中を捜索したところ、2日目に雪原の中に長尾さんのとリュックサックとスキー板があるのが発見された。
 リュックの中の、非常食などは、手つかずであった。
 リュックの中には、長尾さんの手帳が入っており、そこには地図が書かれていた。
 どうやら、この山の地図らしい。
 そして、何やら部屋の間取り図のようなものが描かれていた。

 地図を頼りに、道を進むと地図にあった場所は、山の尾根であった。
 そして、尾根沿いにある大きな雪庇の上に長尾さんの靴と服がきれいに畳まれて置かれていた。
 しかし、長尾さんの姿は見つかることは無かった。

 雪が溶け、もう1度、長尾さんの家族が、服が見つかった辺りを訪れると、そこそこに大きい石があり、石には手の平によく似た黒いくぼみがあた。
 手の平は人間の青年ほどの大きさであったと言う。

 新聞などではなく、村の言い伝えとしてあるのだが、伝説にしては、時代が新しいためか妙に生々しい話ではある。

 実は、この地域には伝説として似たような話が残っている。

 雪山で狩猟に行った者が、山に行ったきり、何日も戻ってこない。

 心配した仲間の者が山中を探すと、雪原に行方不明になった猟師の蓑笠とカンジキ、弓矢、そして弁当箱などが揃えて置かれていた。
 空になった弁当箱の裏側を見ると、炭で地図が書かれていた。

 仲間が、その地図を頼りに行くと、雪洞があり、その中には焚火をした後と、その傍らにポツンと卵のような形の石があった。
 猟師仲間は、消えた漁師は石に変わってしまったのだろうと話し合ったという。

 雪山。行方不明。雪原に残された服。そして描かれた地図。
 
 あまりにもよく似た伝説であるため、先に紹介した話は、この伝説を元にした狂言での行方不明事件とも思えるのだが、真相は謎である。

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