見出し画像

【ふしぎ旅】イワナの怪

 福島県会津地方、田島駅の裏あたりから、水無川沿いに行くと角木(すまき)という集落がある。

画像1

 この集落には、よく知られたイワナ坊主の伝説が伝えられている。

 その昔、この部落の男たちは、朝早くから谷川をのぼり、毒ながし(山椒の皮などをつぶして、川に流し。魚をマヒさせる方法)をして魚をとっていた。
 昼ころになり、一同車座になり昼飯を食べていると「お前さんたちは、ここで何をしているのか」と、いつの間にか白い衣を着た僧がいて、そう尋ねた。

 男たちが「毒流しをしている」と答えた。

 僧は「毒を使うのはよくない。釣りはエサのために心迷った魚だからまだしも、毒流しは、罪なきものも根絶やしにする。魚の命も人の命も変わりない。止めなさるがよい」と強く言った。

「まぁ、飯でも食べながら考えよう」と顔の赤い男が言い「坊さんもどうぞ」と持っていたキビ団子をすすめると、僧はよろこんでたちどころにぺろりといくつも平らげた。

 「止めようか、坊さんのいうことだ」と若い男が顔の赤い男に言うと、僧は「そうするがよい」と言って静かに山の中へと去っていった。

 一同、出鼻をくじかれた感じで「止めよう」と相談したが、あごひげのある屈強な男が「何をいう。朝早くから出てきたのだ。今さら止められるか」と押し切り、自ら川上に立ち、毒を流し始めた。

 すると、ハヤ、ヤマメなどが浮いてきたのですくい上げ、川上の方へ行くと、今度は岩魚が面白いほど取れた。 
 かなりの量が取れたので「ここらで止めよう」というと、ひげの男が「いや、この上に大きな淵がある。そこまで行こう」と言い、上っていった。

 淵に毒を流すと、1尺ほどの岩魚が次々と浮かんできた。
 皆が、夢中で魚をつかんでいると、当たりが急に暗くなり、大粒の雨が。
 すると、淵の底から大人ほどもある巨大な岩魚が白い腹を上にして、浮かんできた。
 人々は、その大岩魚を二人がかりで担いで部落へと帰ってきた。

 その夜、みんなは大岩魚を酒の肴に、今日の慰労を行おうということになった。
 ひげの男が包丁を持つと、大岩魚の腹におろした。岩魚の腹に手を入れ、はらわたを引きずり出すと 何かがコロコロと出てきた。
 顔を近づけて見てみると、ひげの男は驚いて、そのまま気絶した。
 中には、昼間に僧にあげ、自分たちも食べたキビ団子があった。
 キビ団子から毒気が出ていたのか、ひげの男はそのまま二度と目を覚ますことがなく、残った者も、皆おかしくなった。
 その後、この辺りでは誰も岩魚をとらなくなったという。

画像2

 水無川は、見たところは、この角木のあたりでは、それほど深くもなく、乾期には、それこそ水が無いほどになるのだろうと思った。

画像3

 角木の集落あたりは、今でもあるが、昔からあるであろうものはこの馬頭観音くらいであろうか。

 集落そのものもそれほど大きくは無い。若干、新しい住宅はあるものの昔ながらの集落であろう。

画像4

 集落の道の行き止まりに、管理小屋ようなものがあったが、谷川があるのはおそらくこれより奥なのであろうか。
 田舎特有の地域住民でないよそ者を見る目が痛かったため、話などは聞くことが出来なかったので、今でも岩魚を食べないかは分からない。

画像5

 ちなみに紹介した伝説は、かなり端折って書いており、実際のものは、もう少しディテールがハッキリしており、怪談話として成立している。
 単なる伝説でなく、無節操な殺生を戒める話として、作られたものが、怪異の方に話を寄せてきたのではないかと思う。

お読みいただきありがとうございます。 よろしければ、感想などいただけるとありがたいです。