【怪異譚】コンビニエンスストア
都内に住む亀沢さんは、昼間は塾講師のアルバイトをしつつ、バンドマンをしている。
その日はライブの日で、ステージが終わり、打ち上げも終わった頃には、終電に慌てて乗るほどの時間となっていた。
駅から、自宅まで歩いて15分。酔って火照った身体に夜風は、心地よい涼しさの秋の夜だった。
帰っている途中、ふと尿意を覚えた。
家まで、我慢できないことも無いが、目の前にコンビニエンスストアの明かりが見えると、ついゆるんだのか、我慢できないくらいに思えた。
亀沢さんは「あれ、こんなところにコンビニあったっけなぁ?」と少し疑問に思ったが、新しく出来たのだろうと、そのコンビニに入った。
入ってみると、違和感があった。店員がいない。
人の気配はある。店内のエアコンは、少し肌寒いくらいにきいているし、ホットスナックのショーケースは、揚げてから、まだ時間がさほど経っていないように見えた。
何かおかしい。亀沢さんは、そう思ったが尿意には勝てず、ひとまずトイレを探す。
店の奥にトイレはあったが、相変わらず店員はいない。
「トイレかりますね」と誰もいない店内に言った後、トイレへと駆け込んだ。
が、ちょっとした問題が発生した。
トイレの電灯がつかないのだ。最近はトイレに入ると自動的に電灯が付くものもあるが、それが付かない。慌てて電気のスイッチらしきものを押したら、一瞬明るくなるが、すぐに電灯は消えてしまう。
電灯が故障したのだと思ったが、尿意には勝てなかったし、店員すらもいないようなので、普段はしないであろうが、トイレの扉を開けたままにして、店内の薄明りを頼りに用をすませた。
相変わらず、店員はいなかったが、亀沢さんは、何も買わずにトイレだけ借りるということが出来なかった性格だったため、500mlの缶ビールを一つ、冷蔵庫から取り出し、店員を呼んだ。
しかし、店員は現れなかったので、割高にはなるが、500円玉1枚をレジのところに置いて、そのコンビニを後にした。
家に帰り鍵を開けようとしたところで気づいたのだが、手にしていた缶ビールは,無くなっていた。酔っていたし、どこかに落としたのだろうと思い、寝床についた。
目覚めた時、亀沢さんの体調は最悪だった。身体がだるく、頭が痛い。それほど、昨日は飲んでないはずなのに、だ。
寒気もしたので、熱をはかったら39.5度だった。これは、もう無理だと、アルバイト先に休みの電話を入れ、再度寝た。
結局、3日間熱は下がらず、身体も動かず、フラフラの状態だった。4日目、何とか無理をして医者に行ったところ、季節外れのインフルエンザだったらしく、そこからさらに3日間、休むこととなった。
なんとか体調が戻り、何かしっかりしたものを腹に入れようかな、と思った時、ふと夜中に訪れた店員のいないコンビニのことを思い出した。
あそこなら、家からも遠くないだろうと、コンビニがあった場所に行くと、そこは月極駐車場であった。
そう言えば確かにそこは以前から月極駐車場であった。その後も何度もその道を通ったが、そのコンビニを見ることは無かった。
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