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未来型デジタルミュージアムは何を可能にしたのか。「Digital×北斎【破章】」を体験!

浮世絵と聞いてみなさん何を思い浮かべますか?
有名なのは浮世絵の祖、菱川師宣の「見返り美人図」、謎多き浮世絵画家、東洲斎写楽の「役者絵」など、そういった日本独自の人物画を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。ただ、浮世絵はあまり身近ではなく、教科書で見たのが最後。という方もいるかもしれませんね。
今回は浮世絵の中でも「風景画」と呼ばれる「富嶽三十六景」を描いた葛飾北斎と、「東海道五十三次」を生み出した歌川廣重の二人にスポットを当てた、デジタルミュージアムICCで開催された「Digital×北斎【破章】 北斎VS廣重」の展示会に行ってきました。
浮世絵とは何か、デジタルミュージアムとは何か、これらがどう未来に貢献していくのか、解説していきたいと思います!

北斎_浮世絵


浮世絵って何?

今回の展示の主役「浮世絵」とは、どんな絵画なのでしょうか。
絵画と聞くと画家が自分で筆を持って、最初から最後まで仕上げる…そんなイメージを持たれるのではないかと思いますが、浮世絵は出来上がるまでに様々な職人が関与します。
まず、主に関わるのは以下の職人たちです。
・版元(はんもと)
・絵師(えし)
・彫師(ほりし)
・摺師(すりし)
それぞれを解説したいところですが、長くなってしまうので省略しつつお話しさせていただきますと、浮世絵は「版画」という手法を用いて作成されます。
絵師が作った絵を元に、彫師が木の板に絵を掘り、摺師が色をつけ紙に絵を作っていきました。これにより、色をつけて押せば絵ができるので、何枚も同じ絵を作成することが可能になったのです。
これはコピー技術がなかった、江戸時代において大変画期的なものとなりました。

メディアとしても使われた浮世絵は人気役者が描かれたり、流行した本を彷彿とさせるワンシーンを描いたものが多くあり、そのため庶民の間で大流行。浮世絵は庶民の生活を彩る欠かせない娯楽となっていきました。
その様子は今の日本とあまり変わらないように思えますね。
みなさんも好きなアーティストや俳優さんなどの写真を購入した経験があるのではないでしょうか。

北斎_ICC

未来型デジタルミュージアムICCとは?

前の章では浮世絵の簡単な説明をさせていただきましたが、今回お邪魔した展示会の会場についても触れていきたいと思います。
ICCとはNTT東日本が運営している「インターコミュニケーション・センター」の略称になります。
このICCでは、アート×サイエンスを基盤に、様々なインタラクティブ技術や最先端の技術を使用した展示を行っています。

「Digital×北斎【破章】 北斎VS廣重」では、顔認証や視線認証を使用した展示や、フローディングギガビューアー、3Dダイブシアターなどが使用されており、より作品の世界へ没入できるようになっていました。

例えば「裸眼VR」。こちらはゴーグルなしでVR絵画が楽しめる展示なのですが、視線認証が使用されており、自分の視点から絵画のなかをまるで歩くように様々な角度から楽しめます。
ゴーグルを使用したVRは何度か経験があるのですが、私が女性ということもあり、機器に化粧がつくなあ、このご時世ちゃんと消毒されているんだろうか、と思ってしまうこともあり、ゴーグルがないのは大変嬉しいです。

また3Dダイブシアターは一枚の壁掛けの絵が展示されているボックス型の部屋なのですが、絵画から壁に世界が拡張されていく様は圧巻で、きっと北斎が今VRを作ったとしたら、こういった映像がみえているんだろうなあと感じました。
デジタルで作品そのものが持つ魅力を最大限にまで引き出し、かつ楽しさまで提供できる。そんな展示の場のように感じました。

絵画自体に興味を持ってもらうきっかけになるかもしれませんね。
今回は浮世絵の展示でしたが、ものによってはまた使用される技術が違うのかもしれません。

ICCは京王新線「初台駅」から徒歩2分の場所にありますので、ご興味のある方が是非足を運んでみてはいかがでしょう。
リアルだけではなくオンラインで開催されているイベントもありますので、そちらも要チェックです!


北斎_VR

浮世絵×デジタルは何を可能にしたのか

今まで浮世絵とICCの説明をさせていただきました。
ここからは本題に入り、なぜ浮世絵だったのか、デジタルが一体何に関与しているのかを考えていきたいと思います。
みなさん日本画の展示をご覧になったことはありますでしょうか?
実は浮世絵を含む日本画は二酸化炭素や紫外線に非常に弱く、近づいての閲覧やライトを当てての展示が非常に難しいのです。
今回の北斎もそうなのですが、非常に繊細なタッチで和紙ならではの質感を利用し、繊細に描かれている浮世絵。それを遠目からしか見れないのは浮世絵の魅力が十分に伝わりません。

しかし絵の保存が第一なので、今までそういうものだ。と思って展示を見てきましたが、今回のICCの展示は全て「デジタルリマスター版」のため、近づけるのはもちろんのこと、気になる部分は拡大、微細な刷りの技術や紙の凹凸ぐあいまで現物を完全再現しているため、今まで遠距離でしか閲覧できなかった浮世絵が、超至近距離で鑑賞できるのです…!
これはもうデジタルが持つ強みですよね。

またデジタルデータを作る上で明かされた最新の研究結果なども展示されており、北斎が計算して絵を作っていたということがよくわかるものでした。
(デジタル化した際に判明した細工のなかでも、まだまだどんな技法を持って作られたのかわからないものまであるんですよ…!)

ただここで一点気になったのは「隅々まで作品を閲覧できるし、色々な仕掛けがあって楽しいし、もう本物見に行かなくても良くない…?」ということです。

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未来型デジタルミュージアムと従来のミュージアムの立ち位置

実は今回の浮世絵展示は山梨県立博物館、大阪浮世絵美術館、神奈川県立歴史博物館など地方の美術館や博物館が所蔵しているもののレプリカになります。
これらの美術館などが協力をして、今回の展示会が成立しているんですね。
「本物見に行かなくても良くない…?」という問題はデジタル故の性質から感じたことになります。
展示はデジタルデータなので、今後全国様々な場所での展開が可能になるでしょう。その際に本物がある地方の美術館に足を運びたいと思うのでしょうか。デジタルで見たし、楽しかったからおしまい!となるかもしれません。
そして、海外でも展示が可能になり、より色々な人の目に触れることもあるかもしれません。その際に本物を見たいと思わせられなければ、せっかく本物が日本にあるというのに、わざわざ来日してまで見に来る人減ってしまうのでは。と思ってしまいます。

やはり隅々まで体験できるとはいえ、あくまでも浮世絵の世界の入り口に立ったにすぎません。本物が持つ魅力というのは、デジタルでは完全に再現しきれないと私は思っています。
個人的な感覚ではありますが、私はとある有名絵画の本物がどうしても見たくて、地方まで旅に出たことがあります。それは私がその絵を好きだった。ということもありますが、レプリカでは満足できなかったということなのです。
その絵画の前に立ち、視界いっぱいに絵画を見つめた時、その絵の持つ空気感やストーリー、語りかけてくるような描かれたモチーフの息遣いなどが感じられました。
これはレプリカには出せない味だと思うのです。

デジタルの世界で浮世絵に触れて、楽しい、もっと知りたい!と思った方が、本物がある美術館に足を運ぶこともあるそうです。
デジタルで完結してしまうのは確かにもったいないですもんね。そういった思惑もあり、今回の展示はデジタル技術を使用し浮世絵の魅力を最大限に拡張し、様々な層へ文化の発信を行っているのです。

気軽に出かけられない時代になってしまい、現地へ足を運ぶのが難しいでしょう。
しかし、デジタルはそれを展示できる機器さえあれば日本のどこでも展開できます。
少しでも絵画の魅力に触れ、本物に興味持ち、本物を見に地方へ旅をする。そんなストーリーが伺える展示でした。

今回お邪魔させていただいた「Digital×北斎【破章】 北斎VS廣重」は展示としては2章にあたり、今後第3章が展開されるようです。
展示はSNS掲載・写真撮影がOKです。お子様や恋人、ご友人など誰といっても楽しめると思いますので、気になる方がいらっしゃいましたら、是非公式サイトから予約してみてくださいね!


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