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怪我の功名? 社内外のトラブル対応が技術力アップにつながった


社会人1年目が過ぎ

社会人1年目は 「会社に慣れること」 「技術力を身に付けること」などが主な仕事だったと振り返るSさんだが、2年目に入ると、徐々に社内業務などに携わるようになる。

そんな最中に起きたのが、“社内ファイルサーバ消失事件”だ。これはSさんにとっても印象深い出来事となった。なぜならば、データ復旧に向けた緊急対応に一員として関わったことと、それによって多少なりとも会社に貢献できたという意識を持てたからだ。

事の顛末(てんまつ)はこうだ。

トラブル発生。そのとき彼は――。

ある日突然、社内サーバの機器不調などが運悪く重なり、社内ファイルサーバの一部のデータが消失してしまったのである。

すぐさま先輩社員がデータ復旧にあたることになり、そのサポートをSさんが任せられたのである。とはいえ、専門的な知識や技術はない。本当に緊急事態だったため、先輩も手取り足取り教えながら、悠長に対応している場合ではなかった。そこでSさんは主に復旧したファイルのリストをまとめて、ログを全部整理するといった役目に徹した。

「コマンドを打って、復旧したファイルと復旧できなかったファイル一覧を出したり、差分を示したり」

手が空いた時には、先輩の元でファイルのバックアップの検証作業を手伝った。

データ転送に思った以上に時間がかかるなど、データ復旧までに1週間近くを要したが、最終的には復元ツールでハードディスクの過去データを引っ張ってくることに成功し、ことなきを得た。

Sさんにとって、その時の達成感はいかほどのものだったのだろうか。

「無事に使えるようになって良かったなと。もしも自分が全部作業していたらもっと感動したかもしれないけど、その時は先輩がやっていたので。自分はホッとしたくらいです」とSさんは淡々と語る。

ただ、社員の中には「おつかれさま」「ありがとう」と声をかけてくれた人もいて、少しは自分も役に立つことができたのだと、静かに喜びを噛み締めた。

また、一連のトラブル対応を通じ、期せずしてSさんは実践的な学習機会を得られたのだった。

「それまでは物理サーバについて全然知らなくて。おかげでファイルサーバのことや、バックアップする際のコマンド入力などを勉強できました。そのほかにも、細かな技術をいろいろと教わりました」

顧客対応で感じた、2年目の課題

2年目の夏頃からは顧客企業へ訪問しての業務や、営業同行など、対外的な仕事も増えてきた。そこでSさんが課題に感じたのは、ヒアリング力の向上だった。

「こちらがヒアリングした上で提案する内容と、お客さんが本当に求めている内容にズレがありました。確かに要件としては満たしているけど、実はもっとこうしたこともやりたいというニーズを後々言われることも。知識があれば突っ込んでヒアリングできたのに、当時はそれがわからないので、お客さんが言ったことをそのまま聞いて、システムを作っていました。ヒアリングの難しさを痛感しました」

そこからのスキルアップは、実際のところ、経験を積むより方法はなかった。ただ、次第にここは怪しいからもっと掘り下げて聞いたほうがいいのでは、といった勘所がわかってくるようになる。

「例えば、ECサイトで『OKボタン』を押して、次のページで氏名や住所などを入力してから注文する流れがあるとします。処理が切り替わるタイミングは要注意ということを理解してきたので、『ここでエラーが起きたらどうしますか?』と聞くと、『いや、実はね……』とお客さんからサイトの独自仕様の情報を引き出せることもありました」

これはあくまでも一例だが、場数を踏むことによって、最初のヒアリング段階で顧客の潜在的なニーズも少しずつ拾えるようになった。

当然、まだまだスキルが追いつかない場面も多い。現在、先輩社員と毎週訪れている訪問先では「IT関連の何でも屋」として頼られているため、さまざまなことを質問されたり、要望されたりする。

「朝、訪問先へ行ったら 『ネットワークがつながらないから直して』と言われることもあります。たとえ他の業務があったとしても、すぐさま対応しなくてはいけません。とにかく幅広い知識やスキルが要求されるのが大変です」とSさん。ただし、技術の習得には確実に役立っているという手応えがある。

社会人として・エンジニアとして確かな成長を感じた3年目

現在3年目に突入しているSさんは、この春ついに正式にプラットフォームサービス部門に在籍することを認められた。先々のことはわからないと言うが、できればこのまま技術者で生きていきたいと考えている。

「お客さんにこういうシステムやサービスが作りたいと言われた時に、即座にアイデアをいくつも出せるようになりたい。もちろん、コストメリットなどの根拠も示しながら。それに向けた技術力を若いうちに身に付けたいです」とSさんは意気込む。

それをバックアップするための社内環境は十分すぎるほどだという。サーバ、ネットワーク、Webサイト構築など、さまざまな分野の先輩エンジニアがいて、疑問があればすぐに尋ねることができる。さらに、機材関係もハイスペックなものがオフィスに用意されている。

「不満はないです。むしろ個人的な意欲が足りないと思っています。まったくこの環境を使いこなせてないので、それに見合ったパフォーマンスを早く出さないとダメですね」

住環境も会社のサポートが手厚く、オフィスからそう遠くない場所に社員寮がある。今は若手社員が数人住んでいて、会社の飲み会帰りに一緒に帰宅したり、休みの日は共に買い物に出かけたりするそうだ。都会で働きながらもこうした暮らしができるのはありがたいし、「何よりも仲間がいて楽しい」とSさんは嬉しそうに話す。

故郷の栃木を離れてから3年。21歳のエンジニアの卵は、とても充実した日々を送っている。


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