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記事一覧

#5

「いきなり、どうしたんですか」
なぜか私は敬語になってしまっていました。潜在的な警戒心の表れかもしれませんでした。
「あ、久しぶり」
「そんな話し方だったっけ、それで、何の用なんですか」
「U子ちゃんとか、その周りの人とか、怖いなと思って」
「怖い?なんですか?しかもなんで私に?」
「面倒ごとを避けたいんだ」
「別に、ほっとけばいいじゃないですか」
「ほっといたら、いけなかった。この前なんて、もう

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#4

#4

#3 ←前へ

 U子が三つ目のパフェの底を突く頃には、外はすっかり暗くなっていました。テーブルに置かれたスマホをひっくり返すと、デジタルの数字が二十時半を示していました。
 私たちは話題を消費し切って、胃袋には息が甘くなるほどパフェが敷き詰まっていたので、これ以上やることもなく、家の方向が正反対なので、駅前で解散することにしました。
 
 U子がホームへの階段を登って見えなくなってから、スマホを確

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#3

僕はペットショップに内設されている水槽をじっと眺めている途中でした。僕の頭の中には常に記憶と想像とが渦巻いていて、そのとき思い出されたのは夏祭りのことでした。
ピンクの花柄の浴衣に、大きな綿飴を持った女性がいて、それはよく見ると、僕の知る人物でした。それは仲睦まじいもう一人の人間と足並み揃えて歩く姿であり、僕は、なあんだ、と思いました。彼女は僕へ手を振ってきました。僕はもう、だめでした。気持ち悪く

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#2

#2

#1 ←前へ

「好きぴに振られた!もう生きていけない!!!」
 私はこの手の相談にウンザリしていました。そこまで言うならサファリパークの猛獣たちの渦中に置き去ってやろう、と喉を出かかったところで、
「私にはA美しかいないよ」
 というまたしても安易な断言に、その実直さだけは評価するべきなのかしら、と半分くらい考えながら、調子の良さに呆れました。
 普段は人間社会というサバンナでライオンの骨髄をむし

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#1

「私のことが嫌いですか?」
僕はこの手の質問にウンザリしていました。強いて言うならそういう質問をしてくる女の子は嫌いかもね、と喉を出かかったところで、
「それでも私はあなたのことが好きです」
というまたしても安易な好意をいまだ飽きもせずに向けてくる。やあ君はなかなか忍耐力があるね、と半分感心しながら、僕は人を嫌だ嫌だと言ってそのうちは、他人の好意と善意に甘えているので、なんだか申し訳ない気分になっ

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