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25 - 「バイリンガル教育」を提案する

いったい、ヴァージニア号の遭難以来、何日、何週間、何か月、何年が経ったのだろうか? この問いを自分に向かってしたとき、ロビンソンは目まいに襲われてしまった。それはちょうど、小石を井戸に投げて、小石が井戸の底に落ちる音が響くのをむなしく待っているような心地だった。そこで彼は、これからは、島のどれかの木に毎日小さな刻み目をつけ、三十日ごとに×印をつけようと心に誓った。それから、再び<脱出号>の建造に没頭しながら、この誓いのことを忘れてしまった。(『フライデーあるいは太平洋の冥界』)

25(*24はこちら

Chantrapas(シャントラパ/以下”C”): バンド続ける方法……とんねるず方式じゃないの。多分。

Johnny Cash(ジョニー・キャッシュ/以下”JC”): ふふふふ。

C: プライベートで連絡取らない。

JC: そういうの大事。そういうバンドやったことない。

C: 最小単位で、二人で、あとのメンバーはその都度変わる。

JC: 続けようと思ったらそうなるだろうなぁ。

C: じゃあ次のメモ。交互でいく?

JC: 一個続けようかな。似てるんだよね。

C: いいよ。

JC: 「言語の統一性と多様性」これ。

C: うん。

メモ2:言語の統一性と多様性

JC: 凄くざくっと言うと、テレビで喋ってるような「標準語」と、地域地域にあるような言葉の共存、とはどういうことか。

C: 標準語は作られた言葉というよね。

JC: そうそう。東京の山の手あたりの言葉。政府にいたインテリ達がその辺りの言葉を使ってたって噂だよね。

C: ふうん。

JC: で、本来は地域ごとに言葉がバラバラで、それこそ市を跨いだり県を跨いだりするともう全く言葉が通じなかった、というのが最近よく言われているよね。

C: 自治。文明はもっとでっかくて、単位はもっと小さかった。以前出た話だね。

JC: そういう事だね。それと言語ね。急速に……言葉が通じるようになってきたわけでしょう。くくく。日本で。

C: テレビ?

JC: テレビの普及だろうね。ラジオと。みんなが同じ言葉を喋り出したのが、ごく最近。

C: でも……同じ言語を喋り出したこと以外もごく最近なんでしょう?

JC: ははははははは!

C: ははははは。

JC: そうなのよね。本当に地域ごとで全く違う生活をしていたわけだから。はははは! 言語どころじゃない。

C: 色々含めて。

JC: 食べ物もそうだし。服も違うよ。

C: アイヌが、琉球が、とかいうレベルじゃなく。

JC: もっと……尼崎と西宮で。

C: 今違うもんね。隣なのに。

JC: 日本屈指の差異。急にローカルな話になる。はははは。

C: ローカルといえばね、

JC: うん。

C: 文字起こしの際に、フラットに読めるようには直してる。いわゆる標準語。

JC: そうね。

C: あと一人称もニュートラルなものを選んでる。JCは「自分」、Cは「わたし」。そこは変えて統一してる。

JC: 地域言語、方言……面白いなと思う。方言が標準語に混じってくる時が一番言葉が汚くなる。「濁る」よね。

C: 関西弁……あれ「吉本弁」だと思うけど、それはもうほとんどの人が違和感がない。

JC: かもしれない。

C: 西に移ってきて……藤井風さんとか、今は岡山弁がメインストリームに出てきてる。それを「直さない」という判断もあるよね。それが自然でカッコいい。所謂「多様性」から結び付いてるのかと思うけど。

JC: そうなると「意味と音節」ということになってくるのよね。意味を重要視しなくなってしまうと、方言だろうと標準語だろうと全く意味がないわけで。結局「音」になってくる。

C: うんうん。

JC: 音の面白さというのは、音楽とかお笑いのうえでは良いのかもしれないけど……。日常の中にそれはどれくらい必要なのか、というね。「オト」化していく。

C: 必要・不必要に関わらず、テレビからの影響は凄いから……学ぶよね。

JC: あぁ。学ぶんだ。

C: で、それを喋るよね、使うよね。

JC: 使ってるんだろうね。

C: 東京の人「知らん」とか言うよね。

JC: 言ってるんだろうね。あぁ。知らん、って言ってる。

C: 録音の文字起こしして……「知らん」って書かない。言ってたとしても、書き言葉で知らん・分からんとか書かない。ニュアンスを入れたい時だけ。割と直しているね、読みにくくなるんだよね。

JC: 読みにくいと思う。うん。そうそう。

C: 話してる内容以外の引っ掛かりは出来るだけ取り除くようにしている。それでもあんまり誰も読めないと思うけど。はははは!

JC: ははははは。

C: オト化は避けるかもね。

JC: 音だから、意味が伝わりにくい。あるよ。

C: 止まる必要のない所で引っ張られてしまう。

JC: そうそうそう。音節重視にさせることによって中身が無くなっていく。逆のこと。例えば郷土の言葉が、「方言の方が心に入ってくるし、その人自身の言葉だからリアルだよね」という風潮は、自分は凄く危険な側面を持っていると思ってて。それはオト化していってるだけであって、意味がかなり底抜けしていく可能性だって存分にあるよ。

C: 凄く思う。

JC: 音としてだけ面白いだけでしょう? 気を付けなさいよ。

C: 気を付けるところ。「自分が感じたんだから正しい」みたいなことと一緒。

JC: そうそうそう。

C: 感情。

JC: うん。例えば看板とかに方言で書いてあって「面白い」と思うけど、標準語に置き換えるとなんてことないわけでしょう。それがそんなに面白いか? と言ったら、結局は面白くはない。やっぱり中身。言語のね。

C: うん。

JC: 言葉が多様化することと、統一性があること。そのバランスがちゃんと取れていないと……「じゃけんじゃけん」になりまっせということだよ。ふふふふ。

C: そうね。エキゾチック……それみんなが言う時は『仁義なき戦い』が元ネタだと思うけど。ふざけてね。それは……文化人類学的な上から目線? はははは!

JC: ははははは。

C: 面白がってない?

JC: 東京の人は多いにあるでしょう。東京の人って何人? 数人だと思うけど。少なくとも関西弁や関西のお笑いを「面白い」と言い出した所には大いにそういうのあったでしょう。

C: 韓国語が受容されていくプロセスでもいいよ。最初は音が可笑しかったはず。今普通でしょう。言い過ぎかな?

JC: それくらい派生してもいい。

C: 方言を可愛がったり面白がったりするのって……今でもコロニアルな視点があるんじゃないかな。

JC: そう。だから自分は「ある程度二か国語として学習した方がいいよ」というのはいつも思っているよね。方言には方言の言葉の繋がりがあるからね。単語の順番すら違ってくる。

C: 素晴らしい。全員バイリンガル。

JC: 「全員バイリンガルだ」という意識を持った方がいいよね。ごちゃ混ぜにするとややこしくなったり、混濁して話し方自体が戸惑いの中に入っていくけど、完全に分けて考えていくと意外とスッキリ出来るんじゃないの。

C: それ……話し方教室出来そう。

JC: そうね。はははは。標準語は標準語で、方言は方言で学習する。淘汰しない。どちらかに賛美を与えたりしないように……別物として教育していく。ははははは。

C: 教育ね……。

JC: 教育。

C: 教育は問題だよ。

JC: 問題ですよ。これからの教育の提案として重要。

C: 自信持つからね。方言に引け目あるよ。

JC: そうね。コテコテの関西弁みたいなのはすごい嫌いだったから。分けて考え出してからの方がスムーズ。

C: なるほど。わたしは15歳くらいかな。方言を手放したよね。

JC: Cはそんな感じよね。

C: 突然喋れなくなった。すっかり忘れてたけどそうだった……。

JC: トラウマみたいな。

C: 「なんでそんな喋り方してるの?」と思った時があった。周りの誰に対しても、わたし自身にも。方言は克服すべき対象だった。だから……引け目を持つ必要がないというのはシンプルに良いと思うな。バイリンガル教育。いいね。

JC: でしょう。逆に「アンチ標準語」みたいなのも邪魔。共存ですよ。

C: 和平への糸口

JC: ここに見えました。

C: 素晴らしい。

つづく


2022年3月14日 doubles studioにて録音

ダブルス・ストゥディオ
Johnny Cash (thinker/artist) & Chantrapas (designer/curator)

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