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24 - ウォーミングアップ

ツアー中盤になると、ワタシは誰? ここはどこ? 今日何曜日の何日? という精神状態になる。ビジネスホテルというのは、どこへ行ってもだいたい部屋の作りが同じだから、どこの街にいようとも、あまり実感が湧かない。ビジネスホテルの部屋の窓から見える風景は、どこの街もだいたい一緒である。場末の街角の甍(いらか)の群れ。変な広告看板。寂れた駐車場。空き家と思われる崩れかけた家。(『白鍵と黒鍵の間に』)

24

Chantrapas(シャントラパ/以下”C”): 今日はこの後が押してるから。

Johnny Cash(ジョニー・キャッシュ/以下”JC”): うん。

C: ウォーミングアップなしで。メモある?

JC: あるよ。

C: 今日は5個ずつ半々でやってみようという話だったけど……何個ある?

JC: 5個。ほんとにメモ。

C: あるの? 素晴らしい。

JC: この言葉から連想していく、という感じ。

C: これ用意してた。「JCのメモがなかった場合のサブ」余分に。

JC: ははははは! サブがあった。めっちゃ不安視されてる。はははは。

C: あるのね。じゃあこちらも5つでオッケー。

JC: まずね、

C: 先攻?

JC: そうね。「書き言葉と話し言葉」

メモ1:書き言葉 話し言葉

C: あぁ。

JC: 話してるのを文字に起こしてるでしょう。すると、こういう事を考えるよね。

C: どういう印象がある?

JC: 書かれることを前提として……出来るだけ「喋らないように」喋るでしょう。

C: うん。

JC: 「言葉が文章化されるかも」という考えが入るだけで、言葉というのは急激な変化をもってくるんじゃない? 良し悪しが分からないけど。

C: 書かれる・書かれないに関わらず、当然言葉は時と場合を選ぶよね。

JC: うん。

C: 何か自分の欲望があって……「そんなこと言うなんて不謹慎だ」みたいなシーンがあるじゃない。

JC: 特に最近ね。そんなことないか。ふふふ。

C: 例えばだけど、よほど露悪的に振る舞わない限り、あえて「不謹慎だ!」って言葉は選ばないわけじゃん。

JC: おん。

C: 「バランスの取れた人」ならね。だけど……その欲望なり本音は皆マスクの下に隠し持っている。

JC: うんうん。

C: じゃあ別に一緒なんじゃない? と答えるかな。

JC: あぁあぁ。うん、確かに……。結局「突っ込んで言わないと開けない領域」というのがあるから、それが話し言葉にとって凄く重要。

C: うん。

JC: そこを避けていると、会話というのはほぼほぼ無意味なわけよね。そこには長いストーリーがあったりはするけど、ある程度踏み込まない会話というのは、ほぼ意味がない。で、書き言葉というのはそれ「だけ」で成立する。

C: うん。

JC: しなくちゃいけない。「踏み込む言葉」だけで。

C: ほう。

JC: 土俵がそこになってくるかもしれないよね。

C: そう……文字起こし担当として、強く訴えたいことがあるよね。

JC: おん。

C: ジャズピアニストの南博さんのエッセイにある。「はぁ~、バンドってこういうことなのか」と思ったんだけどさ。

JC: おん。

C: 長く険しいツアーが始まるでしょう。

JC: うん。

C: 毎日演奏する。毎日どんちゃん騒ぎ。毎日移動。演奏、宴会、移動、演奏、宴会、移動。その繰り返し……で、「移動中の車内で昨日の演奏の話をするやつは馬鹿だ」っていう。

JC: うんうんうん。

C: 絶対振り返ったらいけない。ははは! 結構実践してる。前に書いた文章を読むと、どうしても直したくなるからね。

JC: うんうん。

C: 一月半で23個も記事を書けば、スキルは当然変わってる。例えば、最初の頃は一文を長く取ろうとしてたけど、今は文節を出来るだけ意識して……とか。自分の中で気持ちいいリズムが常に変わってるからね。

JC: うん。

C: 振り返って直したくなるんだけど、それするとたぶん破綻が待ってる。

JC: はははは!

C: 破綻が!

JC: 待ってるね。

C: それをバンドのツアーの描写から強く学んでるよ。だから書き言葉と話し言葉についてジャッジするという試みは……スキップかな。はははは。

JC: はははははは! 早速スキップ!

C: もし昨日の演奏について振り返りたいなら……。

JC: 違う違う違う。

C: JCの試みはそっちじゃないんだろうけど、自分の中ではそっちになっちゃう。ははは!

JC: くくく。

C: 内容について意見を交わすのは、チェックの時の一回きりで、絶対にそれ以上振り返らない。変えたい事があれば、文章で変えていく。

JC: 戦争なっちゃうね。確かに……バンドってそういう側面あるかな。

C: 実体験?

JC: 自分達はそんなに長いツアーなんてやったことなかったけどね。でも、同じ曲を演奏しないといけない周期に入ってきて、何日間かツアーが続くと……そうなるんだろうね。ショービズ的にも。

C: 昨日の演奏を反省した瞬間から破綻する。

JC: おおん。人間関係云々じゃなく音楽的に行き詰まる。そこが恐いところ。

C: 音楽で変えていかないといけない?

JC: 音楽で変えるのが怖いのよね。だから……どっちにしろ破綻が待ってる。

C: はははは!

JC: バンドのツアーなんて破綻でしょう。くくくく。

C: 破綻へ加速してるだけか。間隔空けて東名阪くらいにするというのが知恵? ははは。

JC: そうそうそう。はははは。一日やったら一日休むとかちゃんとしないと。うん。

C: 無茶なスケジュール組むからね。

JC: ああいうのやめた方がいい。

C: じゃあ、これに変えよう。「JCさんの」書き言葉と話し言葉……は、ボーダーがない。

JC: うんうん。

C: 文字起こし担当から申し上げます。一つ「文節に区切りながら喋る」。喋ってる時点で書かれてるよ。

JC: そういう喋り方かもしれない。

C: 割とそのまま文字に起こすとああなる。そんなにいじってない。

JC: 確かに。

C: 二つ、笑い方にバリエーションがある。

JC: ふふふ。

C: 「はははは!」のとこと、「ははは」のとこ、「くくく」「ふふふ」とか、あれは基本「音」で文字起こししてる。

JC: おおん。

C: わたしがカードを配ってるわけじゃなく、音通りやってるわけですよ。だからJCについては意外と書き言葉と話し言葉は……意識どうこうは置いておいて、割とそのままなんじゃない?

JC: 読んでてそんな感じする。

C: 聞いててそんな感じするよ。

JC: 笑い方はね……笑い方ほど人が出るものはないかもね。

C: わたしは一定。

JC: 感情がちゃんと安定してる……どこが! はははは!

C: 学校教育について急に怒り出す。プンプン!

JC: シンプルよね。Cはまとまってる。

C: JCはバリエーション豊かだよね。

JC: そうね。露骨に馬鹿にしながら笑ったり。くくく。

C: いちいち意味がある。

JC: そうそうそう。細かく変えてあるよね。笑い方って重要だなとは思ってる。

C: 最初からそれは気付いてた……雑誌のインタビューとかであるでしょう? 「(笑)」「(爆笑)」「(苦笑)」「一同(笑)」とか、笑い方の文字表現ってだいたい決まってる。

JC: あぁ。

C: それにしなかったのは……かなり加点。

JC: なるほどね。

C: 先を捉えてた。

JC: はははは。音にした。そういうことかもしれない。子供の頃から気付いていたけど、自分は色んな文章に影響を受けやすい。良くも悪くもなのね。だから……Twitterとかめちゃくちゃ危険!

C: なう?

JC: にはならないけど、人の底が見えるまで追っかけてしまう癖がある。相違点が出てくるまでね。流しながら見るのが多分普通……。流さないで、いちいちその人と自分の違いが分かる所まで追っかけてしまう。そういう意味で言葉から影響を受けるというのが凄く強くて、話し言葉自体も今まで読んできた本の蓄積。

C: うん。

JC: 多分みんなそういう風には言葉が出来てないでしょう? もっと普段の日常の関わりからでしょう。

C: なのかな。

JC: 口語で出来上がってると思う。そこに口語で出来上がってない人が来ると……変なこと言ってるように聞こえるわけよ。その時点で書き言葉だから。「こいつ何だ?」って、アクセントになる。

C: 熟語使いだものね。

JC: そうそうそう。言い回しが変、ということになる。言っていることはみんなとそう変わらなくても……。

C: 変わらなくなくはないと思うけどね。

JC: ははははは!

C: そこはまあいいや。はははは。ウォーミングアップだったね。17分。面白い。じゃあストップ!

JC: うん。

つづく


2022年3月14日 doubles studioにて録音

ダブルス・ストゥディオ
Johnny Cash (thinker/artist) & Chantrapas (designer/curator)

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