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【正義なんて】 映画 「空白」

なんか、疲れたな

本当は、みんな自分に怒っている。自分を悔いている。様々な理由から自分を許せずにいる人々が、そのどこにも出せないドロドロとした感情を外に向かって吐き出している。

自らの正義を振りかざして

でも、正しさを振りかざしても、何も前には進まない。

悪かった

充(古田新太)がそれだけを言うのに、どれだけの覚悟が、勇気が必要だったことだろう。

劇中、ボランティアを沢山やり、「頼られて困っちゃう」としきりにこぼしながら、あちこちに首を突っ込む草加部さん(寺島しのぶ)が、ボランティア仲間の小さなヘマを怒ったり、声が小さいと批判したりする場面がある。

そういったダブルスタンダード的な行為を、人は無意識に、ナチュラルにやってしまう。

重いんです。そんな声がけ、要らないんです。

内向的で言葉を飲み込んでしまう主人公、青柳(松坂桃李)にも、草加部さんは発破をかける。だが、なかなか沸きらずにいた青柳が最後の最後に放った言葉は、草加部さんを偽善者だと否定する言葉だった。

どこにも居場所が無い寂しさを正しさで埋めようとしても、心の穴の形が違ったら穴が埋まるわけがない。三角型の貫穴に、星形の積木を無理やり入れようとしても、決して嵌らないように。

そう言って、親父も帰ってこなかったんすよ。

皮肉なのは、ボランティア団体に「私は求められている」を繰り返し語った草加部さんは孤独なのに対し、口が悪くてすぐに他人に手を出して、全く人に対して素直になれない充には、そのなかなか表に出せない子供のような純情さを愛してくれる人が周りに少数でもいたということだ。

そういう人が1人でもいるだけで、人はどこかで響きあえるのだ。

自分の責任をこんな風に放棄してしまう、心の弱い娘でした。でも、明るい、たくさん笑う娘だったのですよ。(中略)
娘の責任は私が負います。だから、娘を許してやってください。

お葬式にすっ飛んでいく段階で、充も果てしなく深く後悔しているはずだ。でも頑なに開口一番「謝らねーぞ」と慣れ親しんだ癖で、去勢を張ってしまった彼の心が、この一言であっという間に解けていく。その茫然とした顔が、脳裏から離れない。

ラストの3匹のイルカの雲はずるい。絵を抱きしめた先には、娘を抱きしめたパパがいた。今までだって、本当は、沢山沢山娘を抱きしめたかったのだろう。照れが邪魔をしていただけで。

親子で同じ光景を見ていた。別々の場所から見たその同じ光景に、どちらも心を動かされていた。ようやく、パパは娘を抱きしめられた。

こんな風に、人は人に救われるんだ。

古田新太さん、すげえ。

そして虎狼の血LEVEL2からの松坂桃李さんの振り幅も、すげえ。


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