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【親子とは】 新作歌舞伎 「ファイナルファンタジーX」

諦めずに自分の道を進んでみろ

IHIステージアラウンド東京、またの名をぐるぐる劇場。

劇団☆新感線の「髑髏城の7人」花鳥風月極、「メタルマクベス」disc 1-3と、2年ほどお百度参りのように足繁く通った劇場です。月髑髏に至っては、豊洲に住めば毎日見られると、日々物件サイトを見ていたのも今は昔。

いよいよ閉館との噂を聞いて、最後にもう一度行ってまいりました。

演目はこちら。

ファイナルファンタジーX!

ステアラ前に幟が!いのうえ歌舞伎ではない歌舞伎が!

アニメ業界のAKIRAか、ゲーム業界のFFか、というほど海外でも長く愛されているファイナルファンタジー。

それが、歌舞伎になるなんて!

これは行かねばなりますまい。

そんなわけで、行ってきましたぐるぐる劇場。
以下、原作ゲーム未体験な観客の感想です。←え

シーモアバトルが前半の見どころなら、後半はユウナの異界送りの舞。確認したら、ゲームの完コピ!歌舞伎の舞は、優雅で優しくて、たおやかで、ああ、これでやっと彼らはゆっくりできる、と感じられました。ゆったりとした動きの中に重みがある歌舞伎ならでは。

実態速度はゆっくりなのに体感は早いのは、バトルについても同様です。現代劇ならド派手な殺陣やパルクールによるスピーディな展開になるところを、歌舞伎なら、ストップモーションのような動きの連なりで、静の中の激動を実現できる。

それは、召喚獣のシーンでも、ジェクトとティーダの親子バトルでも同じ。

刀を揺らす刀捌きも様式美なら、切られる方も、大きく倒れ込んだりすることはない。でも、そこでのやりとりははっきりと見える。劇画に近いのかも知れません。

拳だろうが刀だろうが、触れ合いが生じる戦いには、やりとりがある。銃撃戦だとそうはいかない。だから現代的な戦争って果てしなく残酷になるのだと思う。やりとりが生じなければ、情も生まれはしないのだ。

ジェクト役の、彌十郎しい様パパ最高。(色々混じってる)

ジェクトの中に少しだけ残っている理性が、別れた当時の幼い息子ティーダの姿に反応して隙ができ、そこで息子にとどめを刺される様が、これまた歌舞伎の様式美で展開される。

1000年前にできた、召喚士の命と引き換えにしてでも、束の間の平和を人々に与える仕組みは、当時の人々が懸命に考え抜いた解決策だ。それに感謝しつつも、別の形を模索しよう、という考えは、伝統芸能そのものにも当てはまる。

古典をきちんと引き継ぎつつ、新しい題材と融合させて新作歌舞伎を作り上げることは、ティーダや召喚士らが、新たなやり方を0から模索する様に重なる

最後かも知れないから、全部話しておきたいんだ

誰かを犠牲にすることなく、死人は死人として天に返す。死んでまで負担をかけることのないように。生きることの希望は、コロナ禍を経た今に響く。

シーモアの生き様も、現代に呼応する。

シーモアの、声にならない叫び声が、ずっと痛かった。自分の置かれた境遇の理不尽さに対峙しつつ、ただ両親に愛されたかっただけの彼は、子どもの頃からずっと心から血を流し続けていたのだろう。親御さんもそれに気付きつつ、それでも世界の安寧を願ったのだ。親子って、どうしてこんな風にすれ違ってしまうのだろう。

寒いな。寒いのは嫌いだ。(中略)気合入れろ

今回、最前列ぐるぐるだったのだが、客席が回るスピードと演者が歩くスピードがシンクロすると、目の前で歩き続ける皆さんのアドリブ会話がきっちり聞こえる。ビバ最前列。上記は、雪の道中のアーロン獅童さんの会話。

歌舞伎ならではと言えばもう1つ。ユウナもルールーも、女性以上に女性すぎ

召喚士ユウナレスカパイセンが登場した時、「あ、歌舞伎でも例外作るんすね。これは流石に女性なんすね。歌舞伎の家系の女優さん?」と思い込んでおりました。

帰宅してキャスト確認して、当たり前だけど、普通に男性なことに愕然とした。古典歌舞伎でも思うけれど、新作だと女形の皆様の女性味が増幅される、気がします。女性以上に女性って、世の中の女性の立つ瀬が無くなるからマジやめて、と己の努力不足を棚に上げて声高に主張したい。

ルールーの着物の捌き方とか、すすすっと流れる平行移動の歩き方とか、ユウナの首の傾げ方とか、全部盗みたい。ガサツな私にインストールしたい。

そして、最後に事件は起こりました。

今回、カテコは写真撮影アリなのです。

この色彩の美しさよ
目の前に獅童さんご降臨〜

中村獅童さん、こちらにトコトコいらっしゃり、前列のお子様においでおいでして、2ショットで写真撮っておられました。

若い歌舞伎ファン爆誕

優しい!そういう大人になりたい!そして今だけ、クソダサ眼鏡っ子だった9歳の自分に戻りたい…

歌舞伎の懐の深さを改めて思い知りました。

いのうえ歌舞伎で幕を開け、新作歌舞伎で幕を閉じたぐるぐる劇場。出来過ぎなほどシンクロしている、始まりと終わりでありました。

明日も良い日に。





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