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Lil Uzi Vert「Eternal Atake」という特異点~2022年USヒップホップにおける場所と身体、モチーフ、幽霊について~
はじめに ラップ・ミュージックにあったのは「わたし探し」という実存的な問いではなく、とりわけ強固なわたしを形作ることであった。しかし、ふとした瞬間に立ち現れる実存の叫び、その多くの場合に当てはまるニヒリズムは、現代のラップ・ミュージックまで引き継がれる本質的なものの一つとみなすことが出来るだろう。 またそうした方法は広く「エモラップ」によって大きく刷新されたが、それすら新たになりつつあると同時に、臨界点を迎えつつある。 ミレニアル世代からZ世代に至るまでの不安感、社会の持
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ダークでアイロニカルなリアリスト、Vince Staples(Vince Staples「RAMONA PARK BROKE MY HEART」全曲解説)
はじめにVince Staplesはそのデビューミックステープ「Shyne Coldchain Vol. 1」から今作「RAMONA PARK BROKE MY HEART」に至るまで、常にそのフッド、ロングビーチと共に在り続けた。 同時にStaplesは、"人に見られたり話しかけられたりするのは好きじゃない"と述べ、カメラに映ることもステージに上がることも、パーティーに参加することも脚光を浴びることも嫌い、孤独を、ただ創造することを好んだ。 またStaplesはリアリスト
最悪な世界と解しがたい信仰について(Denzel Curry「Melt My Eyez See Your Future」全曲解説)
はじめにDenzel Curryはこのアルバムで、"今世界で起こっていること"、人生そのものを表現しようとした。 そのためこのアルバムは、基本的にある程度陰鬱に進行し、世界がどれほど最悪なのか、自身の精神状態がどれほど危ういのか、かつそこから逃れようとする信仰を知的でユーモラスに、そして多様に表現している。 まず、世界が穢れていることは個人の極性によらない事実である。それを感得しない人間は単に視野が狭い。しかし、本当の意味で世界を素晴らしいものだとする幸福の人もいる。そうい
神は過ちを犯さないのか(Conway the Machine「God Don't Make Mistakes」全曲解説)
はじめにまず、当アルバムのタイトル「God Don't Make Mistakes」について、少々脱線しながら話していきたい。 そのためには、2020年、自身のレベールDrumwork、Griseldaの両レベールからリリースされたソロデビューアルバム「From King To A GOD」に触れなければならない。 「From King To A GOD」(以下FKTAG)は、「God Don't Make Mistakes」(以下GDMM)のリリースを前提にして制作された。