久世

2000年生まれ/東京在住/USHiphop/日露仏近代文学/現代思想/ファッション

久世

2000年生まれ/東京在住/USHiphop/日露仏近代文学/現代思想/ファッション

マガジン

  • Hiphopについて

    Hiphopとその周辺についてです。 サウンドに関してはあまり詳しくないので他の方を参考にしてください…

  • エッセイなど

    思想的なもの、Hiphop以外の音楽、芸術全般についてです。

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  • 固定された記事

アートとラップ、アート・ラップの再検討(Earl Sweatshirtとbilly woodsを例に)

はじめに 私たちの生きる現代が獲得したものは、全ての言動に対するやましさだった。 現代という「最新」の時代は、全ての時代にまして物質的な可能性が開かれるのと同時に、「最も経験した時代」として概念的な不可能性が現出する時代でもあった。 例えば思考と存在の統一の崩壊、動物倫理という破壊的な論理的正当性、自由意志が存在しないという事実の確認―そういった不可能さ、不条理が押し上げられ、現前されていくだけの時代。 しかしそれでも突き動かされなければならず、大きな物語を失いながら退屈

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    • Lil Uzi Vert「Eternal Atake」という特異点~2022年USヒップホップにおける場所と身体、モチーフ、幽霊について~

      はじめに ラップ・ミュージックにあったのは「わたし探し」という実存的な問いではなく、とりわけ強固なわたしを形作ることであった。しかし、ふとした瞬間に立ち現れる実存の叫び、その多くの場合に当てはまるニヒリズムは、現代のラップ・ミュージックまで引き継がれる本質的なものの一つとみなすことが出来るだろう。 またそうした方法は広く「エモラップ」によって大きく刷新されたが、それすら新たになりつつあると同時に、臨界点を迎えつつある。 ミレニアル世代からZ世代に至るまでの不安感、社会の持

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      • 引き裂かれた破壊的リリシスト、JID(JID「The Forever Story」全曲解説)

        はじめにJIDはラップスキルとソングライティングというシンプルで最も重大な二つの技術において、間違いなく最も優れたラッパーの一人だ。 1989年、7人兄弟の末っ子としてアトランタに生を受けたJIDは、両親のファンクやソウルのレコード(特にSly and the Family StoneとD'Angeloの名前を挙げている)で音楽に出会い、そこから同郷のOutkast、T.I.、Goodie Mob、Gucci Maneはもちろん、NasやJAY-Z、Wu-Tang Clan

        • 青春と闘争、あるいはredveil(redveil「learn 2 swim」全曲解説)

          はじめに今回redveilの新譜「learn 2 swim」について語る上で、まずは簡単にredveilの来歴と前作「Niagara」に触れながら、redveilの周辺を探っていこうと思う。 redveil(以下veil)は、アメリカ東海岸に位置し、ワシントンDCにほど近いメリーランド州プリンスジョージズ郡で生まれ育った。 プリンスジョージズ郡、いわゆるPG countyは、国内で最もアフリカ系アメリカ人が占める割合が高く(6割強)、かつ所得の平均値と中央値を見れば、黒人コ

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        アートとラップ、アート・ラップの再検討(Earl Sweatshirtとbilly woodsを例に)

        • Lil Uzi Vert「Eternal Atake」という特異点~2022年USヒップホップにおける場所と身体、モチーフ、幽霊について~

        • 引き裂かれた破壊的リリシスト、JID(JID「The Forever Story」全曲解説)

        • 青春と闘争、あるいはredveil(redveil「learn 2 swim」全曲解説)

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        • Hiphopについて
          17本
        • エッセイなど
          15本

        記事

          ダークでアイロニカルなリアリスト、Vince Staples(Vince Staples「RAMONA PARK BROKE MY HEART」全曲解説)

          はじめにVince Staplesはそのデビューミックステープ「Shyne Coldchain Vol. 1」から今作「RAMONA PARK BROKE MY HEART」に至るまで、常にそのフッド、ロングビーチと共に在り続けた。 同時にStaplesは、"人に見られたり話しかけられたりするのは好きじゃない"と述べ、カメラに映ることもステージに上がることも、パーティーに参加することも脚光を浴びることも嫌い、孤独を、ただ創造することを好んだ。 またStaplesはリアリスト

          ダークでアイロニカルなリアリスト、Vince Staples(Vince Staples「RAMONA PARK BROKE MY HEART」全曲解説)

          最悪な世界と解しがたい信仰について(Denzel Curry「Melt My Eyez See Your Future」全曲解説)

          はじめにDenzel Curryはこのアルバムで、"今世界で起こっていること"、人生そのものを表現しようとした。 そのためこのアルバムは、基本的にある程度陰鬱に進行し、世界がどれほど最悪なのか、自身の精神状態がどれほど危ういのか、かつそこから逃れようとする信仰を知的でユーモラスに、そして多様に表現している。 まず、世界が穢れていることは個人の極性によらない事実である。それを感得しない人間は単に視野が狭い。しかし、本当の意味で世界を素晴らしいものだとする幸福の人もいる。そうい

          最悪な世界と解しがたい信仰について(Denzel Curry「Melt My Eyez See Your Future」全曲解説)

          「Let It Be」「Runaway」「Alright」という内的闘争の帰結、"かるみ"について

          はじめに今回は、The Beatles「Let It Be」、Kanye West「Runaway」、Kendrick Lamar「Alright」という3つの楽曲を中心に、ドストエフスキー 、ビリー・ジョエル、ブルーハーツ、夏目漱石、太宰治、ピカソ、スタンリー・キューブリック等にも通ずる"かるみ"について、芸術家が導き出す人生に対する解答がほとんどその一意に定まること、そしてそれが過度に感性的、もしくは過度に理性的に生まれてしまった人間にとって(死を除く)最良の解答であるこ

          「Let It Be」「Runaway」「Alright」という内的闘争の帰結、"かるみ"について

          神は過ちを犯さないのか(Conway the Machine「God Don't Make Mistakes」全曲解説)

          はじめにまず、当アルバムのタイトル「God Don't Make Mistakes」について、少々脱線しながら話していきたい。 そのためには、2020年、自身のレベールDrumwork、Griseldaの両レベールからリリースされたソロデビューアルバム「From King To A GOD」に触れなければならない。 「From King To A GOD」(以下FKTAG)は、「God Don't Make Mistakes」(以下GDMM)のリリースを前提にして制作された。

          神は過ちを犯さないのか(Conway the Machine「God Don't Make Mistakes」全曲解説)

          "宿命づけられた芸術家"Kanye Westは、赦されるのか

          Kanye Westが多少、落ち着いた(?)ようだ。 Kanyeは、家族への想いと、Pete Davidsonへの憎しみが爆発し、Instagramに連投、削除を繰り返していた。Kanyeは以前にもTwitterで、一時間に100件以上ツイートしたこともあった。 おそらくほとんどの人が知っている通り、Kanye Westは双極性障害を患っている。 そのため、Kanyeは躁状態になると、行動に歯止めが効かず、ゴッド・コンプレックスが爆発し、パラノイアに悩まされ、愛憎が深くなる

          "宿命づけられた芸術家"Kanye Westは、赦されるのか

          夏目漱石について書こうと思った。絶望について。

          この世界における諸問題の究極は、死ねない、ということのみにある。問題の発生は生誕であり、問題の解決は死である。 今私が話した内容は、思想でも考え方でもない。事実だ。こういった不都合な事実をどう受け止めるかが思想であり、考え方である。 漱石はこれを知りながら、最後まで書き通した。ドストエフスキーと同じように、呪われていたのである。その著作の中で、「門」が最も絶望的だ。 なぜなら、例えば前期三部作のうち、「三四郎」は、単に愛別離苦の苦しみであり、死という考えにまで及ばない。 ま

          夏目漱石について書こうと思った。絶望について。

          海外アーティスト理解のためのヴィーガニズム 〜"正しさ"と戦う時代に〜

          1、はじめに私たちは現在、自らの欲求のために、自由のために、正しさと戦う時代にいる。ほとんど完璧に論理的で、ほとんど完全に正しい思想がある。論理的正当性という強固な外殻に覆われた、多くの人にとって不愉快な思想がある。そのひとつがヴィーガニズムだ。 ヴィーガニズムは、(宗教上の理由を持つ国を除き)特にアメリカ、イギリスにおいて広がりを見せており、今日のアメリカにおいて、人口の6%、イギリスでは人口の7%を占める。今後さらなる広がりを見せるだろう。 そして今日、アーティストやセ

          海外アーティスト理解のためのヴィーガニズム 〜"正しさ"と戦う時代に〜

          象徴としてのPlayboi Carti

          Playboi Cartiは現代Hiphopシーンの象徴としてある。 それのみで成立するほどの存在感のあるビート。それに徹底的に寄り添うビートアプローチ。浮遊感のあるサウンド、ベイビーボイス。アドリブが多く、比喩やかけ言葉、意味やライムすらほとんど持たない、享楽的かつ双極的なリリック。同じ言葉を繰り返すだけのフック。クラブミュージックとして、耳当たりの良い音楽として、(主にファッションなど)多様に敷衍されうる商業としての側面が全面的に押し出されつつある現代Hiphopは、ほと

          象徴としてのPlayboi Carti

          芸術について

          芸術の本質は自我にあり、その表現の本質は婉曲と迂言にある。 私が音楽ジャンルでとりわけHiphopを愛するのは、それが自我の音楽だからだ。Hiphopのリリックは、基本的に自分とその周辺以外語らない。客観性がまるでないのだ。ポップミュージックや近年のロックという名前で世に蔓延るポップミュージックとの明確な違いはここにある。Hiphop が前述の意味において、本質的に、最も芸術的な音楽ジャンルである。 また、もう一つ私が好きな音楽ジャンルとしてクラシックがある。それはその表現

          芸術について

          "思い出とは、持っているものなのだろうか、失ったものなのだろうか。"

          「思い出とは、持っているものなのだろうか、失ったものなのだろうか。」ウディの命題がある。 この模範解答は、持っているものであり、失ったものでもある。しかし、私は、持っているものであると主張したい。 我々が本当に持っているものは思い出だけだ。なぜなら、持っているということは、それが在り続けることではなく、所有という行為、状態に重要なのはむしろ、その間欠性にあるからだ。 プラトンは状態、事態、行為の本質を変化だと主張した。分かりやすくいえば、万物流転の概念に近い。この概念の対

          "思い出とは、持っているものなのだろうか、失ったものなのだろうか。"

          Hiphopと反ワクチン、黒人コミュニティと陰謀論の親和性

          先日、Neil YoungがSpotifyにワクチンに関するデマの拡散(Joe Roganのポッドキャスト)を辞めさせるよう公開書簡を送り、さもなければ自分の楽曲の配信をやめると言った。 そしてSpotifyは「今までコロナ関連のポッドキャストエピソードを2万件以上削除してきた。」と十分にデマや誤情報に関する措置をとってきたという態度を示した上で、この要望を(敬意を持って…らしい)拒否し、Youngは楽曲の配信を停止した。 Joe Roganのポッドキャスト「The Joe

          Hiphopと反ワクチン、黒人コミュニティと陰謀論の親和性

          2000年以降リリースアルバムのベストイントロソングトップ10、とその周辺(Hiphop部門)

          ⚠️めちゃくちゃ長いので気をつけてください。 1、Common 「Be」より"Be(intro)"まず浮かぶのはこれだろう。 プロデューサーKanye Westによる弦楽器とシンプルな電子音が巧みな統一を保ちながらサンプルと混ざり合うビート。チープさと壮大さを併せ持った、どこか懐かしいようなサウンドだ。 そんなビートを1分以上たっぷり堪能させながら、Commonのシカゴ出身ラッパーらしい最高に詩的でコンシャスでハートフルなバースに突入する。 リリックの内容を要約すると、

          2000年以降リリースアルバムのベストイントロソングトップ10、とその周辺(Hiphop部門)