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恒川光太郎「雷の季節の終わりに」

 引き続き恒川光太郎を読む。

 冬と春の間に、「雷季」という五番目の季節がある土地「穏(おん)」が舞台。世界地図にも載らず、通常の方法では辿り着けず、出ることも出来ない、仙郷のような土地。

 雷季には鬼が蠢き、人が消える。「風わいわい」と呼ばれる、人に取り付く怪異もいる。主人公の「賢也」は幼い頃に庇護者である姉を雷季に失う。やがて明かされていく出自、出ていき、導かれていく運命。

 墓町の闇が私を見ている。
 不思議に今はもう墓町の闇は恐くない。今までは帰る場所があったから、帰れなくなることが恐かったのだと気がつく。

「穏」から出た後も、物語は続く。「下界」と蔑称で呼ばれていた、私たちの住む世界への境界にたどり着いた時の描写が圧巻だ。

 大きすぎる。私は近付くごとにさらに体積を増していく怪物を見ながら思った。穏の百倍か、二百倍か。
 そしてここから見えているのはおそらくほんの一部。向こう側に入った途端に、世界は無尽蔵に拡大する予感がある。
下界は、穏の民など別に意識はしていないのだ。恐れてもいないし、存在を知りもしない。象が蟻を気にしないのと同じようなもの。
 穏は隠れていて正解だ。この怪物から兵隊が群れてでてくれば、あっという間に滅ぼされるだろう。

 錯綜する人間関係が全て集約されていき、物語は希望を持って閉じられる。私は恒川光太郎の次の作品に手を伸ばしている。


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