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今村夏子「むらさきのスカートの女」

ミイラ取りがミイラになる話ではなくて、ミイラは実はミイラではなくて、ミイラ取りは最初からミイラだったという話、になるかもしれない。

道行く人とぶつからずにすれ違い、公園で子どもたちからの畏怖の対象となる「むらさきのスカートの女」のストーカーを続ける主人公は、ついにストーキング相手を同じ職場に引きずりこむことに成功する。しかし間近で見る彼女は、ミステリアスなベールが次々と剥がれ、こざっぱりとした身なりと共に、どこにでもいるような女性に変わっていく。それを見つめる自身は以前と変わらず、というか、以前よりもずっと異常な状態に陥っていく。

周囲の異常な状況を観察しているつもりの観察者自身がもっとも異常である、という設定は、直近に読んだ小島信夫「抱擁家族」にも通じるところがあった。

本作は女性→女性のつきまといである。私自身は男性→男性のストーキングの被害経験もあるので、他人事で読めない部分もあった。あの日々のおぞましさは思い出したくない。


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