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恒川光太郎「夜市」

 恒川光太郎五冊目。読書習慣を再開した際に、「同じ作家の本は続けて読まない」という縛りをしていたが、すぐに破られた。原則とはそんなもんだ。最近読んだある人の自分内禁煙ルールに感心したので、自分にも適用することにする。


Matsuki【重要】禁煙を始める。【重要】
https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=21484&story=626

【泉重千代ルール】を導入しようと思う、
まず泉重千代が吸っていたのはセブンスター、
1日に四本吸って120歳まで生きてる。
Matsukiが吸っているタバコはアメリカン・スピリッツで
軽いので
4×2でイコール8本、
アメリカン・スピリッツは有機栽培のタバコでからだにいいので
紙には燃焼材(発ガン性がある)が入ってない、
だから×1.25して1日に10本までなら原則は吸ってないのと
同じ計算になる、


 私は煙草を吸わないが、「同じ作家を続けて読まない」は原則にとどめる。
 今回の恒川光太郎五冊は合間に「ある魔女が死ぬまで」を挟んでいるので、二恒川一坂三恒川である。四捨五入すればゼロになる数字でしかない。つまり五冊連続同じ作家の本でなければ、続けて読んだことにはならないともいえる。

 生涯最大の頭痛とともに目覚めた日に読んだ。久しぶりの紙の本で、寝込みながらもすらすら読めた。寝不足や目の酷使からくるいつもの頭痛なら、バファリン服用一回で治まるのだが、朝から三時間ごとにバファリンを三回飲んでも治らなかった。バファリンの一日服用限度は二回までである。前日に目を酷使したわけでもなく、睡眠時間はむしろいつもより長かった。

「くも膜下出血」という病名がちらつき、一応病院に行けば血圧が高いという。最近の食生活を思い出し、野菜不足を痛感した。とりあえず鎮痛剤をもらって様子見とした。熱や吐き気や食欲不振はなかった。まだしばらくは生きられるだろう。

 作者デビュー作の「夜市」と「風の古道」の二編が収められている。日本ホラー小説大賞受賞作「夜市」は、ある夜に出現する、異界とも繋がる、人でないものが怪しげな物を売る市場が舞台。夜市に迷い込んだがために人生を狂わせてしまった少年の、その後の物語。よく出来ているが、私としては「風の古道」の世界観の方が、好みだった。
 
 日常の裏側にある道「古道」に迷い込んだ少年は、そこから出られない永久放浪者である青年と共に、ある目的の為に歩き続ける……。自身もこれまでたびたびこういう夢を見てきたのではないかという気になる、根源的な幻想風景。

 あの、全ての家が背後を向けている人気のない住宅街の中の未舗装道は、日が暮れればおそらく真っ暗闇に近い状態になるだろう。なぜなら電信柱のないあの道には当然街灯もなかったのだから。そこをひたひたと「お化け」が歩いている。私は布団の中で想像して震えた。(「風の古道」より)

 そこでは殺されたばかりの死者も道を歩く。

 私は木陰に身を潜めた。
 コモリだった。首はざっくりと抉られ黒い血がこびりついて、蛆のたかった肉をのぞかせている。半開きの朽ちに、目は見開かれていたが、意志の光はなかった。
 夢遊病者のような足取りだ。
 彼は蠅をたからせ、死にながら歩いていた。死んだ魚が川を流れていく印象だった。
(「風の古道」より)

 家族で出かけ、昼の道を歩く。幻想的でもないし怪異も死人も周囲にはいない。息子が「アアアー」と叫ぶと娘が「ア!」と続かせる。レッド・ツェッペリン「移民の歌」を息子と娘と妻が適当な英語で歌い続ける。私が歌うと娘に嫌がられるので、ポケットの中の財布を叩いてリズムを刻む。そんな我が家にとっては当たり前の風景でも、道行く人にとってはおかしなものに映るのかもしれない。


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