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千人伝(二百七十六人目~二百八十人目)

※前回が「書き続ける作家縛り」だったので、今回は「読書家」縛りです。


二百七十六人目 読書家サイボーグボグ村

ボグ村は読書家でもありサイボーグでもあったので、電子書籍も紙の本も同時に読んだ。サイボーグたちは眠る必要がなく、時間を持て余しがちだったため、読書家になるものが多かった。際限なき知識欲でデータを更新していくと、新たな部品が体内で生成されていくのだった。

ボグ村は二万年生きて壊れた。ぼろぼろになった最後の部品の一つは、本の続きをめくる形で停止していた。



二百七十七人目 読書家国会議員俗村

俗村は国会議員であったが、国会の最中に読書に熱中する様子が毎回全国に中継されていた。そんな彼の提案するのはいつでも読書家本位の政策ばかりであった。一部の読書家には歓迎されたが、
・読書週間には一日十冊のノルマを
・全ての会社には「読書時間」を導入。非導入企業にはペナルティを
・残業する場合は一冊本を読み終えてから仕事にかかること
といった制度が受け入れられることはなかった。そもそもどうして俗村が当選を続けたのか誰にも分からなかった。それでも選挙になれば、国民は読書欲を刺激されてついつい彼に投票してしまうのだった。選挙が終われば、あれほど読もうと思っていた本のことなどみんな忘れてしまうのだった。



二百七十八人目 読書家宇宙人エイ村

地球の本に惹かれて飛来してきた宇宙人エイ村は、竹林に住み込んで日々読書にふけっていた。読む本がなくなれば、UFOで都会に出て本をキャトルミューティレーションしてから代金をそっと地上に下ろした。

彼の本来の目的は地球制服であったのだが、「本を読み切るまでは」と目的を先延ばしにしていた。新刊は絶えず出版され続けるので、彼は職務をいつまでもまっとうできないでいた。途中から彼は目的を忘れて、ただ本を読みふけるだけの無害な宇宙人となり、近隣の住民とも仲良くなっていた。



二百七十九人目 読書家ピアニスト譜面村

譜面村はピアニストであるが、譜面台にいつも今読んでいる本を乗せてピアノを弾いていた。暗譜している譜面よりも、今読んでいる最中の本の方が大事なのだった。弾きながら本を読んだ。読んだ本の内容を演奏に反映させた。オーケストラに参加する際には指揮者の著作を読み、指揮者の指揮を見なかった。指揮者は自分の本が読まれながら、曲に新たな解釈を加えられていくのを見て、何も口に出せなくなるのだった。

譜面村の即興演奏を録音してみると、その場で聴いている時は確かにピアノの音であったのに、録音された音声は、どれも本の朗読へと変換されてしまっていた。



二百八十人目 読書惑星プラ村

読書家惑星プラ村は、新たに太陽系で発見された惑星である。プラ村の周囲には無数の文庫本帯があり、プラ村自身は衛星代わりの本を読んでいる。観測する限りプラ村の大気には生物の存在している痕跡はなく、宇宙をさまよっている本が自然とプラ村の周囲に集まり、ぶつかり、結合していったものと思われる。集まったなら読むしかない、というわけで、惑星自身が読書家になったというのが識者の見解である。

宇宙に漂う物質のうち、解明されているのは現在5%程度しかないと言われている。残りの物質の大半は本ではないか、というのが最新の識者の見解である。プラ村は識者の見解など気にせずに今日も本を読みながら自転と公転を続けている。





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