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架空書籍紹介(57冊目~63冊目)

57冊目「どくろを回す」

その陶芸家は強情だった。言い間違いを認めなかった。「ろくろを回す」を「どくろを回す」と言ってしまったが「俺はドクロを回す陶芸家だ」とうそぶいた。本当にドクロを回し続けた陶芸家はいつの間にか自身もドクロ化していった。彼の焼いたドクロは売れなかった。


※綿矢りさ「いなか、の、すとーかー」の笑った場面からの着想。

「やっぱりあれかい、どくろ回しのシーンとかも流れるの?」
「母さん、ろくろじゃなくて、どくろね。どくろ回してたら、おれ魔女みたいになっちゃうから」
「透、まだ反対になってるよ。なんだこの親子は」

綿矢りさ「いなか、の、すとーかー」より


58冊目「続・山月記」

虎となった李徴は友と別れ、住み家の洞穴へと帰った。長い間留守にしている間に、若い男が居座っていた。男は虎である李徴に気が付きもせず、紙に何かを書き続けていた。李徴は男を食いかけて止めた。「俺もこいつのように周りが見えぬくらいに書き続けていれば」。


※電子書籍「作家たち」の表紙から。山月記の時代でもタイプライターはあったことにしておく。


59冊目「データを掘る」

古いデータを有機物化して自然に帰すようになっていた、人類という生き物は絶滅した。数万年後、地球を支配していた機械たちは、自分たちの限界を悟り、地中から発掘される古代データから生き残りの道を探り始めた。一粒の土から奇跡のデータが発見されるまでの物語。

60冊目「耳鳴り潰し」

その怪獣は巨大なスピーカーを内蔵した耳の形をしていた。生まれてから聞いた全ての音を貯めて、轟音として外へと吐き出しているのだった。国連軍が撃ち込んだミサイルで耳は断末魔をあげた。それは耳が生まれて初めて外界で聞いたはずの、自らの産声であった。


61冊目「蟻の入る隙間、人の入る隙間」

網戸の破れから入ってきた蟻を潰すだけで一日が終わった。破れを直そうとしたがふと思い立ち、穴の径を広げた。蟻に変わって猫が入ってきた。また広げた。猫に変わって人が入ってきた。また広げた。人に変わって部屋の外のもの全てが入ってきた。

※家に入ってきたアリとの戦いの経緯はこちらにも書きました。

62冊目「アリクエナイ」

アリの大型化とアリクイの小型化の影響で、アリを食べられなくなった「アリクエナイ」という動物にまつわる悲哀の話から始まり、人間らしさを失った「人でなし」を同じ人と見るのか、という点を突き詰めていく哲学書。最終的には人でなしとアリクエナイが結婚する。

※最終的にオオアリクイと結婚する話はこちらにも書きました。


63冊目「ウミヒト」

ウミヘビが海に適応したヘビであるように、ウミヒトは海に適応したヒトである。一度陸上にあがった人類が海に帰ったために、人類の持つ習性を多く持ち続けている。陸上人類が滅んでしまった今では意味の分からなくなっていることも多い。陸上競技がその最たるものである。


※土日と息子と粘土遊びをして過ごした。ヘビを作り続けた後、「ヘビ飽きた!」と言って息子が作り出したのはウミヘビだった。

Kindle絵本「作家たち」
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