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ラザロの復活(改稿#1)

     1

The other side is not the enemy.
っていい言葉だな
The other side is the enemy.
の宇宙に追いやられる
楽園追放。

     2

「新しい猛暑」も八月のこの時期になると雰囲気が変わる。少なくとも午前中は窓・引き戸全開と扇風機でしのげる気がする。昨夜はアマプラでカンバーバッチ主演映画『クーリエ 最高機密の運び屋』。前半が地味で途中まで見ていたもの。

キューバ危機の時代の雰囲気が伝わってきた。理想のために個人的な恐怖を乗り越える(真の勇気をもつ)人、つまり真の理性を持つ人が描かれる。カンバーバッチはこの映画のために実際にあそこまで”激やせ”したのだろう。しかし、そのような努力に値する映画だと信じたに違いない。

     3

人間には愚行を繰り返す権利があるという主張も成り立つ一方で、理想のために死ぬ権利もあるのかもしれない。人間の理性の仕組みによれば、なにかとなにかを天秤にかけて判断することしかできない。そのような決断を迫るものが「歴史」というものらしい。今もたぶんそのような状況なのだが、私にはなにとなにを天秤にかけるべきなのかがわからないのだ。

     4

Homer soll blind gewesen sein.
ホメロスは盲目だったと言われている。

     5

三日間と半日の死んだような眠りが必要だった
寝過ごしたラザロは姉に頭が上がらない
包帯に放火して逃げるべきとき
妹が手渡すイチジクの歯
が危険すぎる

宇宙の半分は楽園でできているのだが
そのことが伝えられないもどかしさ。

     6

昨日の問いは自分で思うよりも重要だったらしく、夢に答えが与えられた。私、すなわち不死のラザロはイエスを大胆な行為でうろたえさせた美人の姉マリアとともにテロリストになっていた。師の教えはどこに行ったのだろうか。

吝嗇家の女神の腕(かいな)の下で今もぶるぶる震えている錆びついた天秤だけが生き残ったらしい。二千年の積み重ね=罪重ね。なにとなにを天秤にかけるか。人類は躊躇なく計り続けたようだ。これ以上抱えきれない重さだけが残ったことになる。

つまりがこの爆弾だ。彼らにしてみればつまらない商談に集まったはずの四人の男たちは爆死したはずである。社会を地獄に陥れる発明の流布を阻止した私と姉は研究施設の階段を駆け下りた。

具合よく同僚のW氏が銀色のピストルをもって歩いてきたので譲り受けた。これもなぜか遠くに出現した自分よりも年若い上司に向けてぶっ放してみた。はずであったが、ピストルに弾が入っていなかった。

アジトは長年勤務した研究施設のなかにある。爆弾をしかけたビルの向かい側だ。信号を無視して横断歩道を渡る。正門を抜けると敷地は洪水であふれている。渦巻く水流のなかにいくつもある建物の頭だけが箱舟の軍団のようだ。

この激しい水流のなかを箱舟まで泳ぎ切る自信のなかったわれわれは相談してアジトを捨て正門の前の歩道を歩き始めた。昔の文豪の住居のような木造家屋が見えてきた。ピストルを譲ってくれた同僚W氏の表札が出ているようだが確認できない。

     7

師に教えられたこの宇宙の半分にあるという楽園まで歩いて行けるかどうかまったく自信がない。

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