残業時間を90時間減らした小学校教員の話
元小学校教員のドラ(@dora_webchenge)と申します。この記事では、長時間労働で苦しむ教員の方に向けて、私がどうやって残業時間を90時間減らしたかについて書いていきます。
残業時間をなんとか減らしたいと思う方の、一助になれたら幸いです。
デカいリュックを買った、教員一年目
教員一年目のゴールデンウイーク、アウトレットでお買い物。
お目当ては「とにかくデカいリュック」でした。
購入したのがこちらです。
TORATO Webページより
https://torato.jp/products/detail.php?product_code=CZ06&slug=cabinzero
・ほとんどの航空路線の機内にギリ持ち込めるサイズ(44L)
・3泊以上の荷物が入る大きめバックパック
世界を旅するバックパッカーも大喜びのスペックです。
でもなぜ、しがない一教員がこれを買ったのか。
「教科書をいっぱい持って帰って、家で仕事をするため」です。
7時に出勤し、21時に退勤する生活
学校にいる時間は1日14時間程度
家に帰っても授業づくり、寝るのは12時ごろ
とにかく目の前の仕事を片っ端から全部、全力でやりました。
クラスも落ち着かないので、トラブルが多発。対応していて一日が終わることもざらでした。
残業時間は100時間を超えていました。
心身ともに疲れはて、「なんとかしなくては」と思っていましたが、突破口が見つからない状況が長く続いていました。
通知表が完成したのは夜の12時
一学期の終業式前日。
やっと通知表を作り終えたのは夜の12時でした。
帰り道、「仕事量に対して、圧倒的に時間が足りない」と感じていました。
中学校の定期テスト前夜以来でしょうか、「精神と時の部屋」に入りたいと本気で願いました。
土日は、たまった仕事を消化するためにある
平日は授業の準備とトラブル対応に追われ、仕事が終わらない…。
そんな現状を打破するために、土日出勤をすることにしました。
お察しの通り、何ら本質的解決にはつながらない選択でしたが、当時の私は名案だと思っていました。
土日の職員室には「いつものメンバー」がそろいます。
教頭先生、仕事バリバリ先生、低学年担任のおばちゃん先生、お母さん先生とそのお子さん、と私
「土日は、たまった仕事を消化するためにありますよね~」
「土日やっとくと、平日ラクできていいですよね~」
こんな雑談をしながら、ダラダラと仕事をする休日の職員室。
「土日来ない人って、いつ仕事やってんだろ」
そう思っていました。
答えはもちろん平日なのですが。
このときは忘れかけていましたが、
本来、土日はたまった仕事ではなく、たまった疲れをいやすためにあるのでしょう。
過労で倒れた授業参観日
この日も朝から、トラブル対応していました。
生徒指導主任から助言を受けている最中…
地震かな?と思うくらいにぐらつく感覚を覚え、急激な吐き気におそわれました。ふらつきながらトイレへダッシュして事なきを得ましたが、立ち上がることができず、そのまま保健室へかつぎこまれました。
今日は授業参観。午後には保護者の方々が来校します。
「授業参観どうしよう…」と考えているうちに眠ってしまい、
目を覚ましたときには、もう授業の時間になっていました。
同僚がカーテンをシャッと開き、私に尋ねるのです。
「…授業やる?」
私「…やります!」
なんとか授業参観(たしか道徳)を終えた私はやっと気づきました。
「夜遅くまでの残業や、土日出勤では、本質的な解決はできない」
ということに。
倒れている間にクラスを見てくださった先生方、参観に来てくださった保護者の方々には、大変申し訳なかったです。
朝活でなんとかしようとする
とはいえ、勤務時間を削ったら仕事が終わらないのです。
本質的解決にはならないと自覚しつつ、朝6時出勤という強行策に出ました。
6時半に出勤してくる教頭先生に「遅いっすね」風な顔で、朝のあいさつをキメていました。
いろいろと極端な自分の不器用さが恥ずかしいですが、これで残業時間は少しずつ減ってきました。精神的なゆとりができたからか、トラブルも少しずつ減ってきました。
「子どもたちのため」
その後もプチ改善を重ねていって、教員3年目。
残業時間は65時間程度まで減らせました。
しかし、私にとって3年目は鬼門でした。
4年生から3年間持ち上がりの6年担任という、校内では重要なミッションを背負っていたからです。
業務量は多く、とてもハードでした。
それでも、学年の同僚たちの歳が近くて、毎日楽しかったことが救いでした。
当時は、組体操が許されているなど、学校行事も盛大に行っていました。
6年生たちにとっては全てが「小学校生活最後の○○」で、保護者の方々の期待値も高いです。私は、必死で行事などの準備しました。
全ては「子どもたちのため」でした。
この魔法の言葉を唱えることで、コストは度外視されます。
本番、見事すべての種目を成功させた子どもたちの充実した表情、拍手喝さい、保護者の方々からの感謝の言葉…。
今までの苦労がすべて報われたような気分になります。これは麻薬です。
また、「子どもたちのため」に身を粉にして働いた結果、子ども、保護者から感謝されて、なにやら自分が偉くなった気分になります。
こうして教員の仕事は膨大に増えてしまったのでしょう。
一旦増えた仕事を減らすのは、本当に難しいです。
みんなやるのが当たり前、やってもらえるのが当たり前と思っているからです。
そこに持続可能性はありません。教員の善意で成り立っているのです。
当時の私は、やりがいに酔っていました。
6年生が卒業し、酔いは醒めました。
そして「もっと持続可能な働き方をしよう」と思い立ち、業務改善を進めました。
パレートの法則を教わる
全体の8割の成果は、特定の要素2割が生み出しているという考え方だそうです。高学年を一緒に組んだ、尊敬する主任の先生が教えてくれました。
教員の仕事は、際限なく増やすことができます。
でも、そのほとんどが子どもの成長につながらない書類仕事だったり、自己満足だったりします。
「子どもの成長につながる2割に集中して、8割の成果を上げることを目指す。」このスタンスをもつことで、残業時間は徐々に減っていきました。
本当に帰っていいのか?
「なんか、今日早いね?」
順調に退勤時間が早くなってきた私に、こんな言葉をかける方がいます。
その方に悪気はまったくないのですが、言われた私は、どこか申し訳ない気持ちになっていました。
先輩方が残って仕事をしているのに、若手の自分がこんなに早く帰っていいのだろうか?
自分が気付いていない仕事があるんじゃないか?
仕事しないやつ、と悪口を言われたり、干されたりしたらどうしよう…
そう思うと、なんとなく不安でした。
仕事がないのに、残っているときもありました。
なんか、道混んでない?
「なんか最近、道混んでない?」
ある日の帰り道、車を運転しながらふと思いました。
かつては帰りが遅すぎて、道が空いているのが当たり前でした。
早い時間帯に帰ると、道が混んでいるのだということを知りました。
早く帰るための、5つのマイルール
早く帰ることを繰り返しているうちに、先輩方は仕事が終わってさえいれば私の悪口を言ったり、干したりしないということを学びました。
今まで通り、リスペクトして接してくれました。
紆余曲折ありましたが、早く帰るために自分に課したルールがあります。
1. 授業準備をは5分以内
2. プリントを使わない
3. 放課後まるつけをしない
4. 朝早く行かない
5. 17時になったら帰る
「いや、無理だろ」
わかります。1年前の私でも、これを聞いたらまったく同じ反応をしていたことでしょう。
これらについて詳しく書くと、すごく長くなってしまうので、別の機会に詳しく書きたいと思います。
ちなみに、このマイルールはこちらの本を参考にして作りました。
マイルールを守るようになってからは、劇的に残業時間を減らすことができました。もちろん、やるべき仕事は全部やり、学級経営も安定させたうえで、帰っていました。
残業時間10時間以内の生活
朝早く行くことがなくなったので、朝の時間をゆっくり過ごせるようになりました。平日の夜でも2時間以上の自由時間がとれるようになりました。
この時間を使って、Web制作関連のプログラミングを独学で始めました。
今では副業でWeb制作を行い、身を助けるスキルになっています。
疲労感は?というと、多少軽減されます。
それでも、1日5,6コマの授業をして、休憩時間も実質とれないので、疲れるものは疲れます。教員の仕事の特性上、避けられないと思います。
どうせ環境がよかったからできたんでしょ?
はい、まったくその通りです。
私は職場の同僚、管理職、子ども、保護者の方々に恵まれたと思います。
前述のように、多少ミスをしても温かく見守ってくれたし、早く帰っても、仕事がきちんとまわっていれば認めてくれました。
クラスの子どもたちや保護者の方々も、本当に温かく接してくれました。
この環境があったからこそ、私は残業時間を大幅に減らすことができました。
しかし、環境がそろっていたとしても、
「残業時間を減らすことにチャレンジしなかったら、決して減らすことはできなかった」ことも事実です。
環境のせいにせず、自分自身が行動できたことは、自信につながりました。
終わりに
状況が違うので、このまま実践すればうまくいくというものではありません。とはいえ、教員に残業代が支払われるまでには、まだまだ時間がかかりそうです。
だとしたら、現状は自分で変えていくしかありません。
最後に、残業時間を減らすうえで、最も重要だと思うことについて書きます。
それは「絶対に17時に帰る」という覚悟です。
カバンの大きさが決まっていれば、その中に入るものは限られてきます。
必然的に、優先順位の低いものはカバンに入れないでしょう。
教員の仕事もこれと同じで、働く時間を先に決めてしまうことが大切です。
「限られた時間の中で、成果を最大化するにはどうしたらいいか」
これを考えることで初めて工夫が生まれてくるのだと思います。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
長時間の残業に苦しんでいる、過去の私のような方に読んでいただけたのならうれしいです。
少しでも現状がよくなって、心やすらかに働けるようになることを願っています。
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