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【ゲーム開発】ヒットに必要な、たった三つの要素③(全3回)

社外取締役 兼 「ブラックスター -Theater Starless-」プロデューサーの安藤です。
第1回第2回に続き、社内向けに「ヒットに必要な、たった三つの要素」と題して行なったプレゼンを書き起こしたものをnoteにて投稿させていただきます。

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安藤武博(社外取締役 / ブラックスター-Theater Starless-プロデューサー)
株式会社シシララ代表取締役/ゲームDJ、元スクウェア・エニックス プロデューサー。代表作は「CHAOS RINGS」「鈴木爆発」「疾走、ヤンキー魂。」「ヘビーメタルサンダー」「ソングサマナー」「拡散性ミリオンアーサー」「実在性ミリオンアーサー」「クロス×ロゴス」等

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MOST:誰よりも沢山

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■MOSTは結構難しい

3つ目の要素「MOST」。これは結構難しいです。
まずは前回まで話した「FAST」と「ONLY ONE」をチェックしていれば良いかと思います。

「MOST」もヒットの秘訣としてあるんですよ。それは何か?
誰よりも沢山作るとか、誰よりも沢山やるっていうのがヒットの要素としてあるんです。

■MOSTの成功例はプラットフォーマー

MOSTでヒットさせているのは誰か?AppStoreやGooglePlay。ソニーとかマイクロソフトとか、つまりプラットフォーマーです。

プラットフォーマーになると、勝手にみんなが、たくさんゲーム作ってくれますよね。で、乱暴にいうと、一生懸命僕らが作ったゲームから問答無用で売り上げの3割抜くでしょ笑。

どれだけ面白いゲーム作っても、そうでなくても3割持っていくんですよね。それは、この人たちがプラットフォーマーになって「MOST」、「たくさんの」ゲームを出せる地盤を作ったからなんですよね。

プラットフォーマーになるのはなかなか機会が巡ってこない。一個人だと達成しにくい面もあるので、冒頭で難しいと言いました。

でも、面白いのはプラットフォーマーは後天的になることもできるんですよね。偉大なる先駆者だけ許されている物でもないんです。

例えばソシャゲバブルの時。GREEとmobageが勃興しました。彼らがポジションを築いたのは、ある日突然「今日から我々はプラットフォーマーだ」と宣言したからです。それがハマった。不思議ですよね。でも、考えてみたらそうでしょ。

GREEとmobage。それまでゲーム開発会社からの周知が十分あったりとか、ファンからもゲーム屋として認知されていたから、満を持してプラットフォームになったか?そうではないですよね。

シンプルに「今日から俺たちに集まれー」って言ったら、既存の大手ゲームメーカーも含めて、いろんな会社が集まっちゃった。

プラットフォーマーなんて先行者しかできないじゃんって言ったら大間違いで、後天的にできることもあるんですよ。そのタイミングで先行者になれる。なってしまった。と言い変えてもいいですね。

Steamもそうですね。Valve(バルブ)も元々は、いちゲーム屋でした。「PCゲーマー集まれー」と言ったら、今や巨大プラットフォーマーとして力を蓄えた。

Pixivなんかもそうですよね。絵描きのプラットフォームを作ると宣言して、今全世界的に4000万人くらい利用者がいるらしいですね。

ワンチャンあったらプラットフォーマーになれないか?は、考えてみてください。そういう野心はどこかに持っていてほしい。タイミング次第では自分たちでもなれるんです。

そこで力を溜めることが出来ると、圧倒的な商売になる。忘れないでください。それがMOSTの一つです。

■もう一つのMOST

もう一つのMOST。五反田にサクセスという会社があるんですけど、今回話している「3つのヒットの要因」。実はこのサクセスの社長さんから教わった話なんですね。これを自分なりにアレンジしています。サクセスは、MOSTでヒットさせた会社でもあるんですよ。

皆さん「上海」というゲームをご存じですか?積まれた麻雀牌を消していくパズルゲーム。飛行機の機内でも遊べますよね。

同じ牌を選択していって、ツモれる場所がルールで決まっていて、綺麗になくなったらプレイヤーの勝ち。残ったらやり直しっていう、シンプルなゲームです。

サクセスは「上海」を合計で100プラットフォームに展開したそうです。そんなにプラットフォームがあるのか?昔はパソコンでもいっぱいあった。

PC98とかX68000とかFM7とか。他にもプレステとか、ガラケーではドコモ向けとか、EZweb向けとか全部合わせると100プラットフォーム。それだけ出して、そのうちのいくつかのプラットフォームで100万本級のヒットが出た。

それが他のプラットフォームの赤字を全部相殺する。要するに考えられる限り沢山出す。横展開する。数撃ちゃ当たるで、徹底的に買う人を増やしていく。そう言った戦略で売れたっていうのがMOSTの成功例としてあります。

■シンプル1500シリーズの例

他にはディースリーパブリッシャーが昔、「シンプル1500シリーズ」を出してたでしょ。あれもMOST。

売価が安いので、制作費にも制限があります。よってひとつひとつのタイトルのクオリティは、それなりです。それでも沢山出すことで、ブランディングしていったんですよね。

THE花札、THE麻雀、THEスナイパー、THE戦車、THEお姉チャンバラとか、制限の中でアイデアを磨いた結果、くせが強いものも含めていっぱい出した。そのうちの「THE麻雀」が100万本以上売れているんですよね。

他のタイトルが仮に赤字だとしてもトータルでコストコントロールできる。結果、どれかが突き抜けたらOK。むしろ、たくさん安価でユニークなものを出しますという、ブランドにしてしまった。

今はもうシンプルシリーズの新作は出なくなりましたが、「地球防衛軍シリーズ」という、オリジナルIPが発掘された。これもMOSTの恩恵かもしれないですね。

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他のMOSTは何か? お客さんが買える商材を沢山増やすというのは、ミクロ観点ですが、これも1つのMOSTなのかなという気がします。

買えるものが少ないないものよりは、買うものが沢山あるもののほうが、売り上がりやすいですよね。

だから年々アイドルグループもダンスグループも人数が増えていく。あれは買えるものを増やしたいからですよね。

昭和のアイドルは一人でよかった。今のアイドルは1グループに50人いますよね。それもMOSTです。それをゲームでもやる。こういうやり方もありますね。

■ブラックスターをなぜ始めようと思ったか

最後に、これを踏まえてなぜ「ブラックスター」を始めようと思ったかという話をします。もちろん「FAST」「ONLY ONE」「MOST」の3つの要素はチェックしてます。

FASTとONLY ONEに関しては、もう女性向けのゲームは沢山出てるわけですよ。ご存じのように生存競争も厳しく、多数が撤退してるという状況。これがプロジェクトを立ち上げた約2年前。

でも、専門誌を読むと、ざっくりとですが、同じようなコンセプトのものばかりに見えたんです。

中学校や高校生。部活がテーマ。色は白。天気が良い。時間はお昼間。笑顔。白い歯。仲良し。キラキラ。アイドル。プリンス。「みんなで協力してナンバーワンを目指そう!」的なアプローチが数多く見られた。

食べ物の雑誌だとするとお寿司屋さんばかりが載っているなと思ったんです。

焼肉もたまには食べたくない?ということで全て逆を行こうと。そこに「ONLY ONE」を見つけたんですね。

■ブラックスターは「黒い」

ブラックスターはその名の通り「黒」です。ブラックの理由は、シンプルに今までのものが「白」いから。

雑誌をペラペラとめくった時に、真っ黒なページが出てきたら必ずブラックスター。そこで手が止まるかなと思った。

これまでにも黒いページはあるんですけど、ヴィジュアル系バンドやヴァンパイアのような黒さ。それは血の黒さみたいなもので、それとも違うものを狙いました。

イメージはジャニーズに対してのLDH。プリンスに対してのHiGH&LOW。やんちゃなやつら。HiGH&LOWはジャニーズに負けないくらいウケていますよね。

男性ユニットはジャニーズが一人勝ちでしたが、時代の気分として黒い、腹筋、レザー。鎖。ハードな楽曲、・・・。やんちゃでかつ綺麗さもある。それをブラスタでは「ワルメン」と言っていますが、そういうものなら受け入れられるかなと思った。

逆を行くから基本的に笑わない。ほとんどのキャラは笑わないよう露出していきました。そのため、笑ったときにギャップが出ますよね。

ブラックスター

ブラックスター -Theater Starless-

当然、彼らは「みんなで仲良く」ない。チーム内の抗争がある。俺の方がナンバーワンだと思っている。独立して新しいグループを作る。慣れ合わないんですね。

年齢も上です。30代が出てくる。一番若い奴でも19歳。酒と煙草が匂う夜の街をテーマにしたショーレストランの世界だから。大人なんです。夜が似合う。なぜそうしたか?シンプルに市場に学園モノが多いからです。

声と歌を分けたのもそうです。声優さんが歌うものがほとんどだから。これもFASTとONLY ONEとセットですね。

意外と誰もやってなかったものを、誰よりも早くやる。

最後のMOSTに関しては、キャストが多い。これも当たり前なんですけども、キャストが増えていく。お客様が思いを馳せる対象が増えていく構造になっているのは、MOSTだと思います。

あと何よりも失敗しても当たるまで作り続ける。これこそMOSTです。メガヒットの確率は“センミツ”。「1000本作って3本出るかどうか」の世界。確率の低さに絶望して諦めるか、だったら1000回打席に立ってやると思うか。その3本は1打席目に来るかもしれないですよね。

FASTであり、ONLY ONEであり、MOSTを仕掛ける。

これらを深めていける要素は徹底的に深める。それが足を引っ張りそうになったらそれを修正するという感じでプロデュースをしています。

新規や既存のプロジェクトを見直すきっかけにしてもらえればなと思います。発表は以上です。ありがとうございました。

■最後に

Donutsでは、毎月ゲーム事業全体で「ゲーム事業会」を開催し、さまざまな発表を行なっています。
引き続きDonutsのゲーム事業の文化や情報をnoteで伝えていきます。

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