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【映画】2023年に観た「怪映画」9選+おまけ【……?】

 今年も、たくさんの映画がありましたね。
 手元にある映画館のチケットの半券を見ますと、記憶が甦ります……

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
『シン・仮面ライダー』
『スーパーマリオブラザーズ ザ・ムービー』
『東京リベンジャーズ 2&3』
『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』
『君たちはどう生きるか』
『イコライザー THE FINAL』
『ゴジラ -1.0』
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』
『窓ぎわのトットちゃん』

 などなど……


 しかし、これらの感想はこの記事に一行もありません!

 ここにあるのは「私が今年観た、ちょっと変な映画たち」の感想だけ!

「ん?」「え?」「なんだい?」「ほんとかい!」……そういう気持ちにさせられる映画が、この世にはある!


 
 たとえばそう、


 世界最短・2分でループin京都・貴船! どこまで行っても2分で川辺に逆戻り! 2分×30回の長回し煉獄、 『リバー、流れないでよ』

 井戸からサメが出てきて監督をかじるイド・シャーク

 悪魔の赤子の目から青いビームが出て人を洗脳するサタン 悪魔の子


 こういうのもあってはじめて、アレよ、多様性とか世界の幅ってもんが立ち現れてくるわけですよ……

 困惑、惑乱、乱心!
 常識や脳を揺さぶる映画がここにある!

 2023年、「怪映画」9選+α
 はじまるよ!!



①『新解釈番町皿屋敷 お菊寺』(2023年)

☆画像で作品データに飛べます

 屋敷に奉公していた時に皿を割ってしまい、主人によって責め殺された女中の霊を奉る「お菊寺」
 ここには「お祓い」のため、日本全国から恐怖体験が寄せられているという。
 本作は、寺に納められた無数の怪談の中から、番町皿屋敷にふさわしく「教下り」(カウントダウンの意)(そんな日本語はない)にまつわる3つの話を映像化したオムニバス映画である。

 手招きと写真をテーマにした1話目、110番にかかってくる恐ろしい電話を描く2話目はオーソドックスかつツイストがかけてあり、たいへん好感を持った。面白くて、ちゃんと怖いのだ。
 冒頭に「寺に納められた話を元に再構成しております」との字幕が出るのでアレンジも自由自在である。恐怖はいくら盛ってもいい。低予算ながらも、演出も演技もいい感じだ。

 さて締めの3話目がバシッと決まれば……と思っていたら。
 思っていたら!



「犬」のPOVがはじまる。

 少女と川辺でたわむれ、焼いたサンマをモサモサ食べて、家へ帰って室内をうろつく「犬」目線の映像が続く。
 精神病院から母親が退院してくるとか警察官が訪問してくるなど不穏な流れはある。が、それどころではない。犬目線なのである。映画が「犬」のPOVとして進行していることがとにかく心配でたまらない。一体この話はどこへ向かうんですか?

「議員さんの娘が失踪しましてね、行方を探してるんですが……」と語る警察官が家に上がり、 犬がそっと隠れる。
 その直後!
 バァン!
 茶の間の床板がはね上がる!!

 そこからはじまる大展開に驚愕と衝撃と狂乱が炸裂し続ける。こ、こんなことが許されていいのか……?
 っていうかこれ「お菊寺に納められた実話怪談」でしょ? 脚色アリつってもこんな実話があるかよ。いやあったかもしれんけど、慰霊になっとるんか? 「実話ナックルズ」が奉納してるの? 
 本来であれば何も知らずにご覧いただくのがベストなわけですが、何も知らないと相当 不運 ラッキーな人じゃないと遭遇できない代物だと思うので、ここに紹介する次第です。もうね、映画全体がある種の怪異。おそろしい。



②『三茶のポルターガイスト』(2023年)

「お菊寺」は実在しないが、こちらは本当にある怪奇物件ドキュメンタリー
 東京、三軒茶屋の雑居ビル。この某階に入っている芸能プロダクションの稽古場。ここでは、

「深夜に人影や手が現れる」
「大鏡から水が噴き出す」
「壁にかけていた時計が飛んで落ちる」
「稽古していた人間がものすごく臭いと思ってたら、突然彼の体から巨大なヘビが抜けて出て行った」

 などの怪現象が相次いでいた。
 オカルトカンパニーTOCONA所属(当時)の角由紀子を中心として、証言聴取や様々な検証実験が行われる。

 そして……いくつもの怪異が発生した末……ついに! 我々は! 幽霊の姿を捉えることに成功したのである!

 ……あの、まぁドキュメンタリーなんですけども。
 三軒茶屋にこの怪物件は本当にあるんですけれども。
 ポスターの通り、幽霊をカメラで撮ることに成功した、って触れ込みなんですけれども。

 まぁ、ね!
 ねっ!

 察してください!

 それはそれとして本作、87分しかないのに回り道が多すぎる。

  よくわからない再現ドラマ (くっせぇ奴からヘビが抜けた話もココ) が挟まれる。しかも3本もある。
 オバケが出ねぇものかと角さんと監督の後藤さんが稽古場に泊まり、怪談の朗読をしたりサイリウムを振ってみたりする。
 本作を制作・配給している「エクストリーム」の別作品2本から若手女優を呼んで、稽古場でこっくりさんをしてもらう。
 果てはマジシャンが出てきて「これは……トリックではありませんね……!」とコメントしたり、 謎のアメリカ人映像作家「この映像は……合成とはおもえない……」「CGとするならハリウッドレベルだ……」とか言ったりする。

 よくわからなくなってくる。

  スタジオとは一切関係のないいしだ壱成とやくみつるが出てきて、スタジオとは全く関係のない怖い話を披露するという段に至っては何がしてぇのかわからない。 ラーメン屋ならちゃんとラーメンを出してほしい。 レゴブロックとか出されても困る。
 内装業の人が壁を引きはがしてみるとか、 開かずの間同然の空間に踏み込んでみるとかそういう場面はよかった。 オオッとぞわぞわさせてもらえる。 まぁ特に何もないんですけど……

 そしてクライマックス……
 ポスターにもあるでしょう……! これ……! 霊の姿を撮影することに成功しているんです
 
 ですけども……ね! 
 あんまり言うとほら、 野暮だから! もうちょっとリアルな感じでやってくれたらいいのになァとか思うけど、幽霊にさ! 出現の仕方に文句つけても仕方ないし、 ね!

 できるだけおだやかな心でご覧いただけれは幸いです。




③『レフト・ビハインド』(2014年)/『プルーフ 神の存在』(2015年)

 信じる信じないで言ったらこの2本も外せない「怪映画」であった。

 借金返済のために無数の映画に出まくっていた男、ニコラス・ケイジ(ちなみに2022年に借金完済。お疲れ様)。
 映画自体の出来不出来はあるものの、一本として演技面では手を抜かないニコケイの姿勢はファンから称賛されておりました。
 今年のインタビューでも「僕は確かにたくさんの映画に出たけれども、ちゃんと脚本を読んで、納得した作品にしか出なかったよ」と語るニコケイ。立派ですね。

 しかしながら、そんなニコケイファンや擁護派も、「これはちょっと」と揃って口を濁す映画があった。
 なので、観てみた。
 それがこちら、『レフト・ビハインド』。予告編も貼っておきます。

 物語序盤……衝撃的な出来事が!
 なんと今さっきまでそこらへんにいた一部の子供や大人たちが……服だけ残して消滅!
 これはオオゴトですよ。すごいサスペンス映画だ! これはどういうことだ! ……と思っておりましたらね。

 中盤、操縦桿を握るニコケイが、消えた副操縦士の腕時計を手に取るとそこには、聖書の真髄とも呼ばれる箇所、「ヨハネ福音書3章16節」の文字が刻印してある。

【神は、その独り子(イエス)をお与えになったほどに、世を愛された。独り子を信じる者が一人も滅びないで、永遠の命を得るためである。】

 刻印を見たニコケイは複雑な笑いを浮かべる。「そうか、そうだったのか」というような……。そうだったのか、って、ちょっとよくわからないな……

 地上では神父さんが出てきまして、ニコケイの娘に言います。

「嗚呼……。消えた人々は清らかな心を持っていたがために、神によって天へと呼ばれたのです。信仰心を持たぬ者が残る地上では、これから地獄が繰り広げられることになる……」




 これね、「携挙(けいきょ)」つって、キリスト教徒の一部でいつか起きると信じられているそうです。
 神を心から信じている清い人は天へと昇り、残されたダメな人たちは腐っていく地上で醜く争って滅ぶ、みたいなイベントです。

 そう……これはニコラス・ケイジというビッグスターを起用した、キリスト教映画なのだ!!

 アメリカではこのようなキリスト教映画専門の制作スタジオもあって、定期的に作られて公開されております。
 公開規模によっては週末興行ランキングにランクインするほど。今年の12月の全米ランキングにも、『The Shift』というSFっぽいけど宗教映画がしっかり入っている。ガッチリした固定客がいるわけですね。
 ただまぁ、日本にはあまり情報が入ってこないし、ソフトや配信はあれども大々的に推される代物ではないンすよ。
 それが「ニコラス・ケイジ主演」ってんで、それなりに人目につくところに置いてあったりするわけです。

「いろんな映画があるなぁ」

 そう思いました。

 で、「これ一本で全体を決めつけるのはどうかなぁ」とも考えて、キリスト教ムービーをもう一作観てみることにしたのです。『プルーフ 神の存在』ってのを。

 こちらの映画はスター不在、地味な物語です。地味であるが故になんかこう、色濃い。

 事故で夫を失くした後、キリスト教色の強いというかゴリゴリの宗教大学で教鞭を取ることとなった宇宙物理学の女性教授。
 しかし講義内容の宗教的縛りや学長(司教みたいな人)からの厳しい指導にプッツンした彼女は学長と対立、口論、罵倒。当然クビに。
 チッこれだから前時代の遺物どもはよ……何が宗教だよカスが……とイラつきながら生活を送っていた彼女の周囲に、邪悪な影がちらつきはじめ……

 色々あって彼女はついに、科学によって「神の不在」を証明するのであった!




 ちなみに「どういう証明なのか」は、最後の最後までわかんないです。
 宇宙の起源を科学的になんか、うまいこと明かした、みたいなかんじ……。たぶんエントロピーの増大とか減少の、そういうやつじゃね……?

 神が科学によって抹殺されたせいで、混乱し絶望した人類は暴動を起こしたり、争いをはじめてしまう。

 科学学会から「あなたはすごいで賞」をもらったものの、世界はこの有り様。「もしや大変なことをしてしまったのでは……?」と心揺れる主人公の前に、マーク・トゥエイン(たぶん)とかアインシュタインとかアリストテレスが出現。

「いやいや、君は素晴らしいことをしたんだよ……」
「科学は素晴らしい……それに比べて信仰はカスや……」
「ナイス……ナイス証明……やったね……!」

 などと励ます。 
 だがアインシュタインや証明の手助けをした知人、そして学会の連中……

 実は全員、悪魔の手先だった!

 悪魔たちは「神の不在」の証明を起点にして、人類を滅ぼそうとしていたのである!!





 あの……一応これ、「冒頭の事故で死にかけている主人公が信仰心を捨ててしまう」ことの暗喩、みたいなオチっぽいモノはラストにあるんです。上記のあらすじはすべて幻覚、悪魔のささやきという見方もできます。

 けどそれにしたって……ね? ゴリゴリな人たちが観る映画つっても、もうちょっとこう……。だって科学がね、宗教と対立する悪魔の御業になっちょるんよ。分断が深すぎるんよ。
『レフト・ビハインド』はニコケイが出てたし市民パニック描写や航空機不時着スペクタクルが用意されていたのだけれど、こちらは低予算のドラマ映画なのでかなりこの、剥き出し。
 もうちょいね? 丸くやれないものかな? って思いました。なんせ科学は悪、アインシュタインが悪魔の手先、信じぬ者は苦しむ、ってんですから。みんな、なかよく……。
 えっ、もう何本かそういうのを観てから判断しろって? いや単純に映画として面白味があんまり……アッいや何でもないです…… 
 聖と怪は両立する。そういう学びがありましたね。

 で。

『レフト・ビハインド』の脚本に納得した上で出た(はずの)ニコラス・ケイジ。じゃあ熱心なキリスト教徒なのかしら……と思うでしょ? 
 たぶんね、違うと思うんですよ。何故なら……


④『オレの獲物はビンラディン』(2016年)


「人工透析の最中に現れた神様から命じられ、ビンラディンをとっ捕まえにパキスタンまで行ったオッサンの冒険譚」という映画にも出ているからです。

 出現した神様(らしき人)、白い髭のおじいちゃんとかじゃなく、黒髭でごつくて腕にタトゥーとか入ってます。
 ごつくてタトゥーくらいならギリ不敬ではないかもしれないけど(そうか?)、この神めっちゃ脅してくる。こわい。
「私の言葉を信じなさい……行くのです……」
 とかじゃなく、

「お前はビンラディンを獲らなあかん」
「ヒントはもうない。『パキスタン』で十分やろが。甘えるな
「逃げるんか。お前、逃げたら……地獄やぞ!


 とか言ってくる。テレビの通販に出現し日本刀を勧めたりしてくる。超こわい。
 けどまぁ、聖書ではイエス・キリストも神殿のそばに建ってる露店を壊して回ったりしたし……

 そんな塩指令に似合って、主人公も無計画。ハングライダーで密入国しようとしたり、日本刀を飛行機に持ち込もうとしたり、無事パキスタン入りしてもノーヒントなので街をうろつくだけ。なんかね、ちゃんとしてほしい。

 とんでもない話だと思うでしょ。荒唐無稽だと。けどこれ実話なんですよ。本当にいた人なんです。ビンラディンを探したオッサンは実在する! 

 映画化に際して、子持ちの恋人がいたり、ご本人は「殺しに行くんだよ」と明言してたのが映画では「人殺しはいけないよ。捕まえるんだ」と丸くアレンジされてたりはします。が、実在する。パキスタンに10回も行っている。

 劇中のオッサン、コミュ力は高いし、「パキスタンはいい国だなぁ、みんないい人だ。許せないのはテロリストだけだ」と素朴に思うし、(偏った愛国者だけど)根が「善」ではあるので、生暖かく見守っていたつもりがなんだか徐々に「オッサン……がんばって……」という気持ちになっていく。

 これ、深読みするとね、国の特殊部隊と、刀を装備したオッサン、このふたつに「精神」の面においてどれほどの違いがあるのか? と思えてくるんですよ。
 どちらも愛国者で、使命感に燃えていて、国では恋人が待っている……これ、もうほぼ同じなのではないか? では簡単に後者を馬鹿にすることなどできないのではないか? オッサンの道中を眺めているうちに、そういう批評性が浮かび上がってくるわけです。
 ひとりのオッサンの蛮行によって大国の建前とかメンツというもののヤワさが浮き彫りになってくるような気が、しないでもない、厚いんだか薄いんだかわからねぇ奇ッ怪至極な代物であります。

『レフト・ビハインド』の2年後にこれに主演したニコケイはなんかアレね。誠実さ、みたいなのが脚本から伝わってくると「よし出よう!」「心意気を買った!」ってなるのかもね。
 本作でもオッサン本人に寄せたパワフルでチャーミングな演技が実に見事な仕上がりで、やっぱりこの人はいつだって手を抜かないことがわかるのであった。どんな作品でも全力で頑張る。いい役者で、いい人ですよ。



⑤『多動力 THE MOVIE』(2019年)

 人の頑張りがしみじみと観賞できる映画と言えば、これも忘れてはならない。味のある邦画のプレゼンでおなじみのコミック『邦キチ』でも取り上げられた作品です。
 本作、「怪映画」でもありつつ、ちょっと調べてみたら「たいへんそうな映画」と呼びたくなるような作でありました。

 古臭い企業理念とシステムで動いている会社がわけもわからず、社屋ごと外国の無人島にワープ。
 なんか千葉あたりで撮ったっぽい森の中で困惑する主人公たち。この状況でも「待ってりゃ助けが来るんだ!」と特に策も立てず、上下関係にこだわる上司たち。
 困ったなぁ、と主人公の平凡な男が頭を抱えていると、開拓精神と自己啓発スピリッツに溢れて副業でバリバリ稼いでいる同僚はひとり……笑っていた。

「無人島にワープだぞ! すごい状況じゃないか! こういう時こそアイデアを出してサバイバルを楽しまなきゃダメなのさ!」

 あっ、これ狂ったのかな?
 知ってる知ってる! 後半、目の下に上司の血を塗って石斧を振り回すやつだ、これ! 
 などと私は一人合点、いつ殺戮がはじまるかしらとワクワクしていたら、ヘタレていた主人公を含めたみんなが感化され協力し、サバイバルな現状をピースフルに楽しむようになるのであった。
『蠅の王』 や 『地獄の黙示録」 みたいなことにはなりませんでした……残念。

 でこの映画、とにかく安い。映像や照明だけに収まらず、全編の激・低予算ぶりが眼球に焼き付く。

「ワープ前でもみんな会社のパソコンがオフ(真っ暗)の状態で働いているため、虚無の労働をしているようにしか見えない」
「上司がデカい顔して独占する非常食がドンキで98円くらいのビスケットと118円くらいのカップラーメン」
「社内、会社周辺、森、路上だけでちんまり映画を回している(最後に加護亜依がシェフをしてるレストランも出てくる)」

『多動力』と言えば堀江貴文のベストセラーである。それがなぜこんなことになってしまっているのか?
 調べた所、ある事実が判明した。
 元々この映画、映画監督志望(アイドルのPVは撮影経験アリ)の男性がクラウドファンディングで制作費を募って制作した作品であった。

https://camp-fire.jp/projects/view/87497 より


 目標額、300万円。
 堀江と原作のネームバリューを考えればさほどの額ではないように見える。

 が。


同上サイトより


 集まった金額、75万円。
 目標額の4分の1であった。
 
 堀江もちょっと出したれよと思うけど、獅子は子を谷に突き落として逞しく育てると言う。ビジネスの世界も同様である。谷底で死んだ子も多いだろうが……

 てなわけで、無のパソコン(電気代節約)とかカップラーメン(節約)とかの理由はわかった。深く理解しました。
 というかこれ堀江貴文が主役のイベントで上映するつもりで、時間もない中で突貫で作られたみたいなのよね。
 その上予算もコレですよ。激・低予算+デスマーチでもなんとか形にしようとする、そういう頑張りをね、全体からあたたかく感じる映画でした。

 それ以前の映画作法とか音響とか編集とかセンスとかそういうのが軒並み壊滅的なんですが、もうね、予算も時間もなんもないのを知ってしまったので、目をつぶりますよ私も。金がないのは首がないのと一緒。
 なお監督はその後、「芸能界の闇を語る!」という感じの激・低予算映画を作ったりしている。金がないのは(略)




⑥『テリファー 終わらない惨劇』(2022年)

 一方こちらは、クラウドファンディングで大成功をおさめた作品。それはさておき今年本邦公開の洋画で一番「えっ?」となったのは、たぶんこの映画でありましょう。

「殺人ピエロが出てきて殺す!」以上のあらすじがなく、上映時間もわずか82分の潔さで走り切った前作『テリファー』は絶賛され、監督とピエロ氏(アート・ザ・クラウン)は一躍スプラッタ映画界の風雲児にして新たなアイコンとなったのでありました。

 で、監督は「続編を作るぜ! つきましてはよろしくお願いします!」とクラファンを実施、5万ドルの目標に25万ドルが集まって世界中のみんなが笑顔になった。このうちの10%が『多動力 THE MOVIE』に流れていれば……とふと思ったけど、そのことは忘れましょう。

 さぁ当初予算+25万ドルのご寄付で、どんな作品ができたか! 
 まずは前情報で、みんなビビった、たじろいだ!

【上映時間:138分】

 おっ……おおっ……? うん……? 
 2時間……何するの? ピエロが延々とギコギコのジョリジョリをするの? それが実現したらすごいけど、えっ……2時間18分だよ?
 わずかに翳りは差したものの、まぁ期待は膨らんだ。なんせ準インディ制作のスプラッタホラーでこんな長さの作品など(※そういう映画にはお金がないため)前代未聞である。
 で、全米では痛快なほどにヒットし、日本にも上陸し、サクッとソフト化・サブスクにも来訪したのである。
 138分のスプラッタホラー、その中身は……

 テレパシーを持った女子大生が、友人や家族を殺され、一度は死ぬものの聖なるパワー的なもので復活し、剣でピエロを倒すという物語であった。

 えっ、なんで?

 いやあの、ちゃんとスプラッタとか殺戮とか暴殺もやってるんですよ。予算と時間があったぶん凄いんです。ここだけでも作品として元は取れます。

 でも……ちょっとビックリしちゃったッスね。「ピエロが出てきて殺す!」の続編が、「ソード&アーマー(※ハロウィンのコスプレ)の女子大生が、友人知人や家族を失いながら悪鬼(ピエロ)を倒す」って話なんだから。急にね、神話になっちゃったの。

 これ監督はマジにやりたいことをやったんだと思うンすよね。だから妥協や逃げはない。ドラマもアクションも聖なる話もスプラッタも全力ではある。
 しかしまぁ、まさかこういうモノがお出しされるとはお釈迦様でもピエロでもわかるめぇよ。終始「な、なんだこれは……」「よくわからないが真面目だ……」「しかし人は残虐に死ぬ……」という戸惑いがまとわりつく映画となっていた。
 沈鬱な近未来殺伐映画『マッドマックス』が、世紀末ヒャッハー映画『マッドマックス2』に化けたのをリアルタイムで目撃した人はこういう気持ちだったのかな……

 ちなみに続編上等、やる気マンマンな「引き」で本作は終わり、大ヒットを受けて無事、2024年のクリスマスに『3』が公開予定であります。ガンバッテネ! 110分くらいにしてネ!



⑦『グラマー・エンジェル 危機一髪』(1986年)

「映画ってのは結局な、景色の綺麗なビーチでだ、スタイルのいい美女が出てきて、適当にアクションがあってさ?
 一般人や悪人が無惨に死んで、適宜ヌードがあったりして、最後はドーンと爆発とかしてりゃいいんだ……そうだろう?」

 そんなヤマ師的思想の結晶である。本当にこれしかない。毒ヘビくらいしか足してない。むしろ毒ヘビが作品の足を引っ張っている。
 このパッケージングの仕掛人はアンディ・シダリス。同様のスピリッツをもって、だいたい同じ感触で10本超の「こういうの」を作った。
 頑張りのカケラもありゃしねぇ。しかしこれもまた……映画……

  




⑧『貞子DX』(2022年)

 そしてこれもまた、映画……。世界を変えたホラー『リング』から25年。お父さんお母さん、貞子はこんな子に育ちました。
 IQ200の天才少女(ポスター中央)が、顔はいいけどボンクラな青年(右)や外に出れない怪人インターネットマン(左)と協力しながら、我らが貞子(ポスター下)の呪いのビデオと対峙する、というお話。

 うん、IQ200って何ですかね。作家の筒井康隆は幼年期IQが178あったらしいですけど(豆知識)、特にスーパー超すごい頭脳明晰、名探偵描写がバチッとあるわけでもないです。
 つーか、「そういう映画です」「ホラーじゃないです」「お察しください」という設定ですよね、IQ200

 それはさておき……
 貞子は日本のホラー界を変えたアイコンである。
『リング』の彼女以降、オバケと言えば長い髪で顔を隠した白ワンピという形に変容してしまった。この25年、心霊ビデオに貞子ファッションの女が幾人現れたことか。
 そんな貞子も覇権を握って四半世紀、映画は作られ続けたものの3Dで飛び出した無味のオリジンを描かれたりバトル映画になったり、スクリーンの外では始球式に政見放送、その他無数のパロディに駆り出されて大わらわであった。

 で、この『貞子DX』、DXは「ディーエックス」と読み、これは「デジタル・トランスフォーメーション」の略。「デジタル技術による生活や社会の変化」って意味です。
 本作の貞子さんも時代に合わせて変化。7日だった致死期間は『貞子vs伽椰子』の2日からさらに短縮、わずか24時間に。
 その24時間も貞子さんは座視しているわけではなく、ビデオを観た人の友人知人親類の姿をとって近づいてくる(そのように見える)という、恐怖のボリュームアップを図っている。
 ここだけ想像するとなかなか怖いですね。ここにいるはずのない人がゆっくりと近づいてくるんですから。

 ただこれね、ちょっとバグがあってね。近づいてくる人は性別など問わず、服装が貞子ファッションの白ワンピなのね。

 つまりハゲた中年男性が白ワンピを着て佇んでいたり近づいてきたりする事案になる可能性もある。というか、なったハゲた中年男性が白ワンピを着て近づいてくる。怖い。違う意味で怖い。

 そして、24時間経つと……
 呪われた者は怯えて目を見開き、何かから逃げるような動きを見せた後に、「う、うわぁ~っ」と叫んで、その場ででんぐり返りして、死。
 もちろん理由と原因があってでんぐり返死するんですけれど、あの、なんていうか、どうなんでしょうか? これ。限度いっぱいじゃない?

 そんなこんなを乗り越えて、怨念と恐怖が渦巻く先にあったのは、なんと with貞子 とでも言うべき新時代の光景……

 ホラーギャグとも言うべき内容を経たこのラストでね、私は思いましたね。「あぁもう、貞子は『こういうもの』になってしまったのだな」と。
 ホラーアイコンとして擦り切れるまで使われた貞子さんの現在を、本家本元KADOKAWAが映画にしてケジメをつけてくれたんだな、と。

 何ッスかね、激しい生存競争に晒される芸能界を引退して、刑務所への慰問で心の豊かさを得る歌手の姿を見るような、あたたかいような、ほんのり寂しいような心持ちがいたしました。
 ありがとう貞子。
 僕たちは君のことを忘れない。




⑨『マッドゴッド』(2022年)

 終わった伝説もいれば、終わっていない伝説もいた……!
『スター・ウォーズ』『ロボコップ』『ジュラシック・パーク』『スターシップ・トゥルーパーズ』などなどで特撮・特殊効果を担当。存在しない生物やマシンに命を吹き込む天才であるフィル・ティペットが、約30年をかけて作り上げたストップモーション映画。
 ストップモーションってのはアレね、人形とかを少し動かしては撮る、動かしては撮る、っていうコマ撮り映像みたいなヤツ。『ニャッキ!』とか『ピングー』とか『モルカー』を思い浮かべてください。かわいらしい作品が多いですね。

 で、すごいおじさん・ティペットが作ったのは、


 防毒マスクの兵士が機械、汚物、血肉、殺戮、異形、クリーチャーにまみれた地下世界にズルズル降りていく悪夢の地獄階層巡り。


ど、どうしてこんなことに……

 どうしてって言われてもティペットさんが作りたかったんだから仕方ないのだ。技術は超一流、執念は人一倍、それゆえ「ブヂャアッ」「ベチョッ」「グヂャア」「グオォーッ!」「ヴェーッ!」「ブオォーッ!」という醜悪な代物の数々が汚く粒揃いで次々と繰り出されていく。高熱でうなされている時に無理やり日野日出志のマンガを読まされているような壮絶な映像が展開する。

 広がる地獄絵図は搾取や機械化による疎外が極限まで高まった世界の戯画にも見えるものの、なんというかそれどころではない。全体にそれどころではない。風景から怪物まで「地獄」「悪夢」と呼ぶほかないモノが惜しげなく出現出没、人類の脳のいちばん底にあるドロドロしたもんが画面いっぱいに広がっており、「うわぁ天才の意識の奥ってこんな感じなんだぁ」「天才にはなりたくねぇなぁ」と思うことしきり。
 あまりにズルベチャで救いもなんにもないので逆に心地よくなってくるという不思議な感覚も味わえる。「もう地球も人類もこんなもんよ! なっ!」とヤケクソな解放感に浸れてしまうのである。
 実際おはなしもよくわからないなりに「オラ終わりだよ終わり! 閉店ガラガラ! バッキャロー!!」みてぇな具合で完結するので、たいへん潔い。今年の天然物の「怪映画」枠はこの一本で決まりであろう。すごい才人が全力を傾けて描いたスーパー職人ムービーであるからして、内容はともかく、みんなこれは観た方がいいと思う。内容はともかく。




 …………近年、「怪」風味というか、珍妙な味わいや突っ込み待ちのスキマをわざと有しつつ、他の部分で一点突破しようとする作品がとみに増えたような気がする。特に邦画に。  
 今年は邦画の「怪」割合が多いのはそういう理由です。観る私も私なんですが、見逃してください。そんなわけで、

 あの口裂け女だと思ったらフィジカル最強で割といい人だった、アクション殺人青春活劇『先生! 口裂け女です!』

『きさらぎ駅』のスタッフ再び。2ちゃんねる洒落怖三部作完結編。前回は足したら面白くなったけん、今回はもっと足したらえぇんや! 『リゾートバイト』

 検索したら来・即・斬! 令和の殺戮怪人を拳と刀とロケットランチャーでやっていく『オカムロさん』

 ロシア生まれの女性モデルさんがセルフプロデュースに主演に脚本に監督の4束のワラジ。CIAの局員が、こう、なんか、忍び込んだり、奪ったり……あの、陰謀をこう、あの~、あれこれする話で、思い出作り映画にしてもプロに任せたほうがいいよね、としんみりする『Miss.エージェント』

 

 なんてのもありました。
 並べてみるとなんか、映画会社「エクストリーム」( ここ )の製作・配給が多いような気がする。『恐解釈 桃太郎』とか『ニンジャvsシャーク』もここだよな……

 作られた「怪」もそれはそれでよろしいのですが、そうであっても映画には「天然の力」が欲しいところなのであります。
 逃げ場なしに困惑させられるあの感覚、あの感情というのは、素晴らしい映画を観たときの感動に匹敵……とまでは言わないし、比肩……というのも違うし、えっとね、どう書いたらいいんですか?

 まぁ珍味みてぇなもんでね、「おっ、これはイケるぜ!」と俺が思ったら、料理人も客である俺も幸せ、ってな感じですよ。で、それにはまず素材の味が大事。変わった味付けもいいけど、素材を生かしたメシが食いたい。
 なんか明らかに変なものが入ってたり首の後ろがピリピリ痺れてきたりしても、映画で死ぬことはないのでね、気にせずどんどん作ってくださいと、そう願っております。


 近年日本におきましては、過去作の「4Kリマスター」による再上映が花盛り。
 あの名作や秀作が美麗な映像になって帰ってくる! となりゃあ下手な新作よりも「アタリ度」は何倍も高いわけであります。
 私も今年『犬神家の一族』と『ブエノスアイレス』の4K版を観て感激したクチだし、来年はセルジオ・レオーネ「ドル三部作」(『続・夕陽のガンマン』は物凄いのでオススメ)が来てワクワクものではあるのです。ですが……

「観てみないとどんなモンか全然わからない映画」「何がどうなるかわからねぇ映画」に向かい合い、なんかぶつかってきた時の心のウキウキというのも忘れずにいたい、と考えております。
 まぁ「怪映画」にはね、そんなに出会わなくていいかな、って気持ちもあります。たぶん出会っちゃうんですけど……


 2024年は、

 これにてDCユニバースは静かに終幕、万能監督ジェームズ・ワンも「キツかったッス!」と洩らしたらしい『アクアマン 失われた王国』

 家族悪夢と苦悩失恋を経て……ママ怪死! アリ・アスターくんの心の旅路はまだ終わらない 『ボーはおそれている』

 雨穴さんが間宮祥太朗になっちゃった! 劇映画に落とし込むと地味じゃない? 原作の『2』も絶賛売れてます! 『変な家』

 やっべぇカミナリさんちの窓ガラスまた割っちゃった! 逃っげろ~!!(画像参照) 『ゴジラ×コング 新たなる帝国』


 こらへんのものが春までに待機しております。もうすでに変な映画が満杯じゃないか? 大丈夫か日本? 大丈夫か世界?

 そんなこんなで、来年もご安全に! ヨシッ!



ヨシ!


【おわり】

 


 

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