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鷹の眼は神を狙う


大統領殿へ
来月末までに10億ドル用意されたし

さもなくば、全人類を殺す

準備出来次第、署名下の電話番号に連絡乞う
今月29日までに返事がない場合 
翌30日昼、上記行為が可能であることを証明す
 
 GOD 

 



 かつての州境、今は切り立った崖となった場所に、俺とクリスは立っていた。
「で、これに返事はしなかったんだな」俺は紙を返した。
「署名が“神”だぞ? ガキのイタズラだと思うだろ?」クリスが唇を噛む。
「だが、そうじゃなかったわけか」
「あぁ、その通りだ」

 ──フロリダが丸ごと消滅したのは、この脅迫状の通り、9月30日の正午だった。


 フロリダだった土地は、海になっていた。
 昨日、前触れもなく音もなく振動もなく、ここは地面ごと綺麗に消えた。全住民と共に。
 俺は「目」で、海の先まで確認してみた。
「どうだ?」
「生存者なし。魔力の残滓もない。こいつは科学の力ってやつだな」

 俺はクリスに向き直る。
「で? 俺にどうしろって?」
「この“GOD”を探すんだ。できるだけ早く」
 俺は首を横に振った。
「もうCIAとは縁を切った。協力もしない。特にあのクソ長官が辞めないうちはな」
「そこを頼む。さもないとまた大惨事だ。今回ばかりは必要なんだ、“単眼の鷹”の力が……」
「おい、俺をその名前で呼ぶな」
 左目が痛みが走った。中東の任務中にナイフで受けた傷だ。こいつのせいで俺の人生は一変した。しかも良心が疼くと、ここもひどく疼くと来る。
「クソッ、仕方ねぇ……。で、この“神”の手がかりは?」
「まだない。だが手紙が届いた直後、上の奴らが送り主を調べろとやけにせっついた。署名を見てえらく動揺してな」
「ふん、じゃあ行き先は決まりだ」
「どこだ」
「古巣に戻るんだ。長官殿と感動の再開といこう」
「おい正気か、彼は何も喋らんぞ」
「かまわないさ」俺は左のアイパッチを上げた。「こいつで全てが見通せる」
 俺の瞳の十字傷が紫色に光った。
 鷹の眼──悪魔の力が宿った、地獄の千里眼だ。

 

 

 

 

 

【続く】

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