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思い立ったが吉日か?

1.若さって本当にあるんだぜ

誰しもが思う。

"ずっとこのまま"だとか、"いつでもできる"だとか。
そんな訳がないことを分かっているのに、その瞬間はまるで信じようともせず、当たり前に不変を決め込む。

しかし、例えば有りあまるお金を手に入れ、バキバキにヒアルロン酸を打つことに財を費やさない限りは、おおよその人間に老いはやってくる。

スポーツすることだけが好きだった私など、膝が痛くて思うように走れなくなるとか、サッカーボールを追いかけているのに、顔が足を追い越して転けそうになるなんて思ってもいなかった。

悲しいかな、絶対に言わないだろうと思っていた、数々の若さへの言葉も口にするようになる。

本気で心から切に、心身共に若さこそがという部分は存在すると実感しはじめている。

何をするにも年齢は関係ないが、ある一定のラインを超える域には身体がついてきてくれなくなる。

だからというわけではないが、ある程度歳をとったつもりで言わせてもらうとして、俗にいうワカモノに伝えたい。

特に体力の要ることにおいては、今のうちにこれでもかというぐらいやり切ってしまうことだ。

2.無目的無達成

そんな私も例に漏れず、みなぎる若さを無駄に使い切った思い出がある。

大学の後輩に、かつてともにお笑いを目指したかった人物がいる。目指したかったといっても何か行動に移したわけではないし、本気か冗談か、NSCに誘われた時も、ひよって断ったのは私の方であった。

人当たりが良く、料理がうまく、飛びぬけて面白い。
人生で初めてコントの真似事をしたり、掛け合いをしたのは彼女とが最初であったろうと思う。

うら若き女子大生たちが行く合コンにも、おおよそネタ見せのつもりで参加していた勢いだった。

「こんな面白い合コン来たことない。」

そう言ってもらうことに重きをおいていた。横目に男前のお兄ちゃんがいても、乾杯一発目から全力でウケを狙いにいく彼女が大好きだった。

ちょっとでも色を出そうとした自分を恥じた時もあったぐらいだった。

そんな、何をするにも付き合ってくれる彼女に、ある日私は提案した。

「自転車でどっか行かへん?」

二つ返事で了解してくれたが、特に行くあてもない。とりあえず、当時私が組んでいたバンドメンバーのいる隣の県を目指すことにした。

当日お互いの自転車にまたがり集合したのだが、当時私が愛用していたのが【Pumpkin】と印字された折り畳み自転車だった。

アルファベットを綴っているだけでカッコいいと思うだろうジャパニーズ。とでも言わんばかりの舐めた印字である。野菜の単語ぐらい、わかるぞこのやろう。(買った本人です)

こいつが後に壮絶な旅の元凶となることをこの時は知る由もなかった。

若かった。

お金はないが、時間はあった。

そしてまるで考えはなかった。

ただただ、何かをするという無目的なエネルギーを日々放出し尽くすこと、それが若さだった。

おおよその方角を確認したら、後はひたすら漕ぐ。

漕いで漕いで、漕ぎまくる。

とりわけ会話もしていなかったと思う。

近道なども知らなかったので、今思うとずいぶん遠回りをした。その上、車輪の小さい、洒落込んだフリをした自転車である。後輩の2倍の足の回転が必要だった。だから半分も到達していないうちから、ふくらはぎはパンパンになり、絶望の兆しが見えてきた。

後輩に自転車を代わってもらいながら、なんとか道を進んでいく。

もう、半分を越えたほどで、我々の恥骨が死んだ。

立ち漕ぎたいが、太ももすら死んでいる。

やっとの思いで、バンドメンバーの住む市内へ到着。意識朦朧である。

そこから私たちは、到着した公園へギター担当のYを電話で呼びつけ、ひとりしきり旅の様子を話し、公園名のついた岩の前で記念撮影をした。

そして、Yにこう懇願した。

「もう無理や、帰り送ってくれ。」

ふざけた話である。

そんな理不尽な願いは叶うはずもなく、ひとまずY宅へお邪魔することに。

どうしたことか、

「送っては行けないが、銭湯には連れてってやる。」

と提案してくれた。

とんでもない優男だと思ったが、よくよく考えると臭ったのだろう。


そしてまた、目的地で汗を流し、また同じ道のりを帰らねばならない事すら頭に浮かばないのが若さゆえの愚かさである。

銭湯を後にし、また渋々帰路についた。

漕いでも漕いでも進まない上に、激痛が走る。

限界だった。

金もないくせに、途中でタクシーを止めた。

本当に限界だった。

トランクに自転車を乗せ、力無く言った。

「もう一台あるんです。」

ところが…。

Pumpkinが乗らなかった。何が折り畳みだよ。もっとコンパクトに折り畳まれよ。

ついに乗らないからと断られた。

時間の無駄だった。

そして、あろうことか、そこから道を間違え、5時間以上かけ朝方にやっと自分達が住む地域に到着した。

夜も明ける時間だった。

下半身が自分のものでないようだった。

自分の家に向かう力も残っておらず、私は後輩の家にそのまま泊まることにした。

早朝、姿見に2人して臀部でんぶを剥き出し、股擦れを確認し合った。

何やってんだよ、早く寝ろよ。

本当に無駄な時間だったのかもしれないが、この旅において忘れられない事がある。

数日後に後輩が言った、あの強烈にも、最高だったセリフだ。

「donnyさん、あの旅から学んだことなんて、言っとくけどひとっつもないよ?」

あの瞬間、私たちの無目的無達成の旅が完結した。

若さはエネルギーだ。

それがどれだけ愚かだろうが、絶対にかけがえのないものになる。

と、信じたい。

若さはエネルギーだ。

---おわり---

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