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画「旅する絵本」ができるまで

シンボリックな絵が欲しかった

旅する絵本♡工房は、4月23日にオープンしましたが、そこにシンボリックな絵を飾ってみたいと思っていました。絵本作家の 長谷川集平さんにタブローの制作をお願いしたところ、快く受けてくださいました。

集平さんの作品を見る時、その絵の中で閉じて終わらない『問い』を読み手に投げ掛けてくる気がします。旅する絵本♡工房が、絵本の実験場という性格を持つ限りは、絵本という言葉から彷彿させるような「かわいらしさ」や「楽しさ」といった予定調和なイメージを崩す作品を期待している自分がいたと思います。

しかしながら、オーダーの段階では、そのことに一切触れす、集平さんへ依頼のご連絡をしました。

旅する絵本♡工房というものを作りました。私なりに、絵本が世の中にもっと広まって、人々を繋げて行ってほしいという思いです。3坪ほどの狭い場所に我が家から持って行った絵本を並べています。入口付近には、トリゴラスの絵本とフィギュアに、外界の様子を監視してもらっています。その工房に可能であれば、集平さんに描いていただいた絵を飾らせていただきたいのです。お恥ずかしながら、場所も予算も限られているので、サイズはA4でお願いすることになるのですが、お引き受けいただけませんでしょうか?モチーフは、「旅する絵本♡工房」と聞いて、集平さんがイメージする世界を形にしてくださるとうれしく思っています。

そして、約1か月後、画「旅する絵本」が出来上がってきたのです。まずは、その作品をご覧になってください。どのようにお感じになりますか?

「旅する絵本」画●長谷川集平 © 2021

あくまで私見ですが、こんな風に感じています。

向こうは、街に火の手が上がる事態ですが、全体としては、切迫感よりも静寂感を感じます。少女は、少し緊張しているようにも見え、また微笑んでいるようにも見えます。何を考えているのか、私の想像力をはるかに超えていて、そのミステリアスさにも惹かれます。

少女の持つ絵本(らしきもの)に映し出された世界は、過ぎ去った日々、平穏だった日々のひとコマにも見えます。だとすると、目の前に起きている惨状を嘆き悲しんでいるのかもしれません。しかし、怪獣(トリゴラス)が暴れている目の前の世界こそが、現実ではなく、空想世界なのかもしれないとも思います。だとすると、少女は何かに憤り、世界が急激に変化することを求めているのでしょうか?

どちらが現実か空想世界なのか? あるいはどちらも空想世界なのか? 深刻な状況なのに、カラフルな色使いによって、透明感がもたらされ、不確実でゆらぐ感覚を私に与えてくれる。そのような絵なのです。

絵のモチーフはどうやって降りて来たのか

いくつかの作品制作のあと、5月27日から取り掛かって下さったのですが、最初、「旅する絵本♡工房からイメージする絵」と言われて、集平さんもイメージがはっきり浮かばなかったようです。

「旅」から連想されたのでしょう。ミュージシャン友部正人さんの「どうして旅に出なかったんだ」という曲を思い出しながら、旅に出る人、出ない人の「旅」を絵にできるだろうか?と考えたそうです。

一方、私といえば、友部さんの曲は初めて聴いたのですが、なかなか趣もあって良いなと思いつつも、とあることからインスピレーションが湧いて『集平さんの自画像の周りにトリゴラスがいる』という絵のイメージをお伝えしました。

集平さんからは、『雨乞いみたいに祈りながら、イメージが降ってくるのを待ちます。しばしお待ちを。』とご連絡があったので、少し長期戦になるかもなぁ~と感じました。イメージが降ってくるまでの待つ時間も私にとっては、ワクワクな時間でもあったわけです。おそらくそれは、数日くらいを要すだろうと思っていました。

ところが、集平さんの中に、電光石火のごとく、あるイメージが降ってきていたのでした。自画像とトリゴラスという私のオーダーから、以前描いたこの絵が思い浮かんだそうです。

2001年~2003年、山中恒さんが「進学レーダー」(みくに出版)に連載したエッセイのために集平さんが描いた挿絵のうち1枚。

エネルギーの集積が、そのまま作品に

そして、集平さんからは、ラフ画と共にこんなメッセージも届いたのです。

受注制作「旅する絵本♡工房」のための絵。これだ!と思って一気にペン入れしちゃいました。絵本の中と絵本の外を赤と黒で色分け。雨乞いするみたいにイメージが降ってくるのを待ちますと昨夜ドンハマ★に書いたんだけど、ザーッと来たので、このタイミングを逃すわけにはいかない。いいんじゃない?

数日間は、ワクワクを楽しもうと目論んでいた私にとって、あまりの展開の早さに戸惑いましたが、集平さんのこのエネルギーの集積を逃すなんてありえないことです。すぐにGOサインを出したのでした。

そしてなんと翌日には、集平さんから、絵が完成したとの連絡をいただきました。

受注制作。「スピード感、スピード感」と心の中で繰り返しながら、一気に描き上げちゃいました。これ以上手を加えるところなし。完成です。こんな時もあります。『日曜日の歌』を一晩で描いちゃったのを思い出しました。

作者である集平さんが、自ら「完成です」とコメントされた作品に私がとやかく言う必要はありません。絵の名前について、「旅する絵本」にしますと集平さんから伝えられて、光栄に思いました。実は、♡マークがついてないな~と思ったのですが、さすがにそれは言い出せませんでした(笑)。よく考えると、絵の雰囲気に♡マークは合わないので、今は良かったと思っています。

こうして、画「旅する絵本」が生まれてきてくれたことに、ただただありがとうという気持ちと、ちょっと奇跡的なものも感じたりしています。

現在、絵は、ちょっと大きめの額に額装し、東京・巣鴨の旅する絵本♡工房に飾っています。ぜひ、多くの方に、原画の美しさとパワーを見に来ていただけるとうれしいです。

旅する絵本♡工房は、不定期オープンのため、Webサイトでスケジュールをご確認ください。https://ehonmirai-lab.org/challenge-project/atelier/

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