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空飛ぶ汽車とサラの夢 第7話

《第5話こちら》
《第6話こちら》

ソウは、ケイをまっすぐ見つめて言いました。
「そうか、君の国は  ” 晴れ ”  を知らないんだね。誰にも信じてもらえなくて、辛かっただろう。君はもうすぐ真実を見る。安心していい。そして、僕たちここにいる仲間はみんな、これからずっと君の味方だよ」

「サラだけは......ここにいるサラだけは、信じてくれたから」

ケイはそう言って、まだ緊張してケイの手をぎゅっと握っているサラに、視線を向けました。
「サラちゃんか、よろしくね」
ソウは言いました。

「よし、二人とも。一緒に来るなら、荷物をまとめて戻っておいで。僕たちここで待っているから 」
ケイの顔がパッと明るくなりました。

「ありがとうございます!」
ケイは、ソウの方を見て答えました。そして、ソウが差し出した手をぎゅっと握って、固く握手を交わしました。
サラは、ケイの後ろからこわごわ手を伸ばし、ちょこっとお辞儀をしました。

駅舎を一歩出て振り返ると、不思議なことに、そこにはこの前みんなで作った、隙間だらけのトビラがあるだけです。
でも、サラの作った目印が、そのトビラからは消えていました。

「本当に来た......サラ!本当に来たよ!空に行けるんだ!!」

サラは、まだ夢の中にいるような気分でいましたが、ケイは、興奮してキラキラした瞳で急いで歩いていきます。
ケイはいつもサラのペースに合わせて歩いていたので、サラは、こんなにキラキラして、こんなに早く歩くお兄ちゃんがいることにびっくりしながら、後をついて帰りました。

「よし、サラ。すぐに支度をして、森に集合な!」
お兄ちゃんは、1秒も無駄にしたくない、というような様子で家に入っていきました。

サラは、なんだか取り残されたような気分でした。どうしていいのかわからないまま、ぼんやり家に入りました。
「ただいま~」
「どうしたサラ、ボーッとして。さっさと飯食っちまえ!」
お父さんが声をかけますが、サラは「うん」と生返事をして、二階にある自分の部屋に入っていきました。

ぼんやりとリュックを取り出して、ぼんやりと、部屋の中を見回しました。
ーいつもの部屋。
ーいつもと同じ朝。

さっき見た光景は、夢なんじゃないかな。荷物を持って戻っても、きっとなんにもないんじゃないかな。
そしてお兄ちゃんと「僕たち、二人で同じ夢を見たのかな、狐につままれたのかな」なんて笑い合うのかな......。

いや。夢じゃなくっても、危ないよ。
落っこちたら死んじゃうし、そもそも、いつ帰ってこれるかだってわからない。
あの人、教えてくれなかったもん。
それに、それに、もしかしたら悪い人さらいかもしれないし......だってお母さん、知らない人についていっちゃいけませんって、いつも言ってるもん。
心のどこかが、キーンと固く冷たくなっていました。

サラはリュックを放り投げると、ご飯を食べているお父さんとお母さんの横を足早に通り抜けて、再び外に出ていきました。
森に向かう途中で、お兄ちゃんに追いつきました。

「なんだ、サラ、早かったね」
お兄ちゃんは、相変わらずとってもワクワクした調子で、大きなリュックを一つ背負っていました。
「お兄ちゃん、あのね......」
「ん?どした?サラ、荷物は?」
「あのね......」
「ん?どした。もうちょっとハッキリ話してくれないか?」
「えっと......みんな、心配するよ。お父さんとお母さんに、怒られちゃうよ。」


次回へつづく

原作・ 絵 Ayane Iijima 
原案 Mariko Okano



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