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ドリーム。

「どうして、まだ夢に出てくるの?」

僕は彼女に尋ねた。夢世界のカフェテリアは、テーブルと向かい合う彼女の輪郭はとてもはっきりしていたけれど、背景は茫漠としていた。

「……」

彼女の柔らかな表情は、まるで水をかけた氷みたいに途端に強ばり、蔑むような視線を僕にぶつけた。

「僕の夢は、そんなに居心地がいいの?」

「まるで、私の意志みたいな言い草ね」

僕が彼女と一度寝てから、もう5年が経とうとしている。僕も彼女も、かつて大学生であったことが虚構に感じるくらい、社会に忙殺されている(だろう)。

「古典では、欲情を向けた人が夢にまで登場するんだよ」

「今はつまらない現代じゃない」

「伝統というものは、簡単に根絶やしにできないんだ」

呆れるような彼女の首筋に、五年分の皺は刻まれていない。人生を反映する皺までは、人間の拙い想像力で再現することができない。彼女は僕の夢ではいつまでも二十一歳だ。再会をしない限り。僕は瞬きをして、彼女を裸にした。

「……この夢のいやな所はね」

左利きの彼女は、乳房を左腕で抱きかかえながら呟いた。

「あなたの夢なのに、目が覚めると私もありありと憶えている所なの……もうやめてよ……」

僕は彼女の首筋を、夢世界が崩れ落ちるその瞬間まで眺めていた。

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