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うさたん。

予知夢にしては素っ頓狂な夢だった。でも、それはまず間違いなく予知夢であって、世界のどこかで必ず起こりうる出来事だ。僕が見る夢が須らく予知夢である訳ではないけれども(そういう異能を持つ人もいる)、僕にはそれが予知夢であったかどうかを正確に判断する能力が備わっている(もちろん、僕みたいな人だってごまんといる)。今朝見た夢は、紛うことなき100パーセントの予知夢だ。だから、そのおかしな性格が殊更に際立っているのだ。


「うさたんが暴走を始めます」

先生は暫くの間考え込むように唸ったが、やがて諦めるように口を開いた。

「うさたん、とは一体どのような存在かね?」

「うさぎに擬態した妖怪であり、我々が畏怖すべき対象の一つです」

「妖怪ねぇ……」

先生は恐らく、あまりの事の重大さに呆れているのだ。まるで、葬式で笑ってしまう子供みたいに。

「うさたんは、我々がうさたんを羽で数えていることに腹を立てています」

「しかし、うさたんとは……」

「先生! うさたんは山々に火を放ちます。大晦日の一斉蜂起です。血の流れる革命です……あぁ、でもこれは防ぐことができない……予知夢である以上、何をしても無駄なんだ……」

先生は、まるでS波がP波に遅れてやってくるみたいに、静かに泣き始めた。僕の予知夢が外れないことを、先生はよく知っているからだ。

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