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エリンジウム

エリンジウムのブーケを渡されて、私は彼が不倫を理解していることを知った。  


彼との関係は、弁を必要としない血流みたいに、たった一つの滞りさえなく進んだ。人生は、例えばルーレットを回すすごろくであったとしても、回さないという選択肢や、回せないという状況は往々にして起こり得るものだけど、彼との関係においてそれは皆無だった。また、彼は敬虔な言語学者が文法の瑕疵を避けるように、私との関係に齟齬が生じる言葉を話さなかった。彼が抱いているのは私自身ではなく、私の影法師だった。でも、私の肉体は鏡反射をするように抱かれた。そこには悦びがあり、耽溺があった。彼が禁足地をよけるステップを踏むから、私にもその領域が見えるようになった。私の言葉は彼に合わせた翻訳を経て発話され、彼はそれを逐語訳した上で理解をしていた。彼はその行間から、私の背景をいとも容易く認識していたのだ。

「……エリンジウム」

「イメージに、合うと思って」

私は、彼が手切れのブーケを渡す姿を想像した。でも、エリンジウムが私の心をくすぐるから、その虚像は歪んで見えなかった。


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