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眠蜘蛛

眠蜘蛛は夢の中に巣を作る。けれども、しゃんと現実の世界に実体がある。

眠蜘蛛は夢の中で餌を捕食する。けれども、しゃんと現実の口が、現実のえさを咀嚼している。

眠蜘蛛は眠っている人の頭に足を刺して、脳内に干渉してくる。夢の内容は眠蜘蛛が干渉できない領域だ。だから、例えば海を泳ぐ夢に入ってしまえば溺れるし、空を飛ぶ夢に入ってしまえば落っこちて地面に叩きつけられる。眠蜘蛛と人間は至極対等な関係にある。夢に小バエが飛ばないのは、眠蜘蛛が掃除をしてくれるからだ。

もし唐突に夢が終わって、現実の額の上に眠蜘蛛が佇んでいたとしても、消して潰してはならない。その夢に組成された要素が、二度とは夢に使えなくなるからだ。夜に蜘蛛を殺してはならないというしきたりは、眠蜘蛛に由来を発するものである。

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