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亜オフィス。

見知らぬ街の、見知らぬオフィスを眺めることが何よりも好きだった。ビルの2、3階にある、業態も分からないオフィス。僕は裏びれたビジネスホテルの低層階を好んで予約し、目の前にある裏びれたビルのオフィスを眺めることが好きだった。気に入ったオフィスなら、何日もその部屋を延泊した。僕にとって、旅とは覗きであり、純粋な傍観者になれる唯一の手段だった。

ちょうど5日が経って、その日のオフィスは定休日だった。休日出勤をしている人はいなくて、電気のついていない部屋は、孤独死を孕んだ空間のような装いをしていた。バランタイン・ファイネストの1000mlも空になってしまって、重い腰をそろそろあげようかという時に、1台のパソコンが独りでに起動をした。世界中で唯一僕だけが認識をしたその起動を、僕は血眼になって凝視した。画面に吸い込まれてしまうくらいに、じっと。

そうして僕は、あの裏びれたビルのオフィスと繋がってしまった。愚痴ばかり聞こえてきて、二度とは叶わないサイレントな覗きに、僕は思いを馳せしきっている。


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