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ネガティブアテンダー。

彼に手筈を整えられた人は、文句が言えないくらいに私に適合した人物だった。


「結論から言うと、別れたいんだ」

彼は安いわりに出来のいいセミナーみたいに私を諭した。

「……どうして?」

「それを説明しても、お互いの為にならないから、結論から話させてもらったんだ」

悪びれないスタンスを、彼は一貫して崩さなかった。しかも、彼は私のことを思って行動していると、本気で考えているのだ。

「でも、君の将来のことと、これまで僕にかけてもらった時間を勘案すると、僕の身勝手で放り出すのは、なんと言うか……道義にかなってない」

私が口を挟む余地がないくらいに、彼は理論武装をしてくる。彼の言葉を聞いている内に、私は自分のおぼこさに辟易をする。

「だから、3人の男性を紹介させてもらう。日程はすでに調整した。僕なりに捉えた君の人となりに、とても相性がいい知り合いを揃えた。とても信頼がおける人達だ。君が気に入れば、そのまま交際をしてもらって構わない。それが、僕が表明できる君への最大限の敬意だから」


私はとても哀しい気持ちに苛まれた。私はどこまでいっても彼に解剖される側であるし、その解剖は見事なまでに仔細だった。私の方が彼に与えられたことは、何一つなかったのではないかとさえ思う。でも、彼は私を完膚なきまでに理解して、その上で忘却を選択した。私は肉体の喜びとは裏腹に、哀しい気持ちに支配されていた。



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