偽尾。
彼の尻には疑いなく尻尾が生えていた。私はそれを一度引っこ抜いてしまったことがある。その揺るぎない存在感と硬質な毛羽先とは裏腹に、たやすく抜けてしまったことを覚えている。
「偽尾なんだよ」
彼の微笑みは博愛なメドゥーサみたいで、私の背筋には確かな氷柱が走った。
「じゃあ、本当の尻尾はどこにあったの!」
私は声を荒らげてもなお、その言葉の滑稽さに気付けなかった。彼に本当の尻尾が生えていることを知らなければ、それは素頓狂な怒りにしか映らない。私の方がマイナスを被っていることに、もちろん私は気づけていない。
「……少なくとも、君の知らない所じゃないかな」
彼は狡猾な狐のように(お互い尻尾が生えている)、私を嘲り笑った。私が引っこ抜いた尻尾を燃やすと、彼の肉体はまた燃え朽ちた。私はそのすすを、今でも時々鼻下のにきびに塗っている。
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