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人形棚。

またひとつ、人形が増えた。


使わなくなった筆箱。僕はチャックを開けて中を空にすると、彼女への思いを込めた。かつては実存的な物質に頼らざるを得なかったが、卓越した今は明確なイメージを持つことさえできれば入魂が可能だ。いささか時間が掛かったが、入魂は完了する。垂直にした定規を下敷きにして、砕けた消しゴムを端に重ねる。こうしてまた一つ、人形が増えた。棚には様々な形の人形が並んでいる。

僕が求めているのは意匠ではなくて、入魂だ。だから、人形は一様ではなく、棚の上は隣の宇宙のバザーみたいだ。紙コップ人形もあるし、コンセント人形もある。図らずも、素材は対象の人となりと関連していることが多い。でも、黒ずんだまな板人形だけは、未だにその関連が分からない。そういう人形でも、入魂が果たされた限りは必ず並べる。それは僕にとって必要な儀礼であり、信仰なのだ。

僕は家で過ごす時間の大半、この棚の前に座っている。思い出を慈しみながら食べる飯は、背伸びした高級フレンチよりずっと美味しい。それにしても、僕には人形を作る才能というより、惚れる才能がある人間である。そろそろ棚を増築しなくてはならない。うっかり棚に入魂をしないように気を付けなければ。


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