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敗者。

「煙草、やめなよ」

彼女が僕に箴言をしたのは、これが最初で最後だった。

「どうして?」

「幸せになれない人の吸い方だから……カウリスマキの映画の、端役みたいに」

僕は自分が敗者だと言われているようで、やるせない気持ちになった。

「君も、勝者の方が良いと思うんだね」

「そうとは思わないけれど……あなたには似合わないと思う」

冷たい風が外套を揺らしている。火種は熱く鎮座をして、挟む指を温かく包み込む。

「私にあたるのはいいけれど、自分だけは傷つけないで」

例えば言葉通りに、煙草を君に投げつけて暴言を浴びせたら、もちろん君は僕に愛想を尽かすだろう。言葉というのは時に意味をもたない。脳で生成された言葉が、僕の声帯を揺らすまでに濾過されるのと同じように。それは、まったく意味をもたない言葉だ。意味が失われた言葉だ。

「ありがとう。君には感謝しているよ」


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