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暴棄。

恋の屍になった僕は、築き上げてきたものや大切なものの全てをかなぐり捨ててしまった。飲むことを楽しみにしていたラフロイグ25年も、神保町を探し回って見つけた田山花袋の古書も、足を運ぶ度に購入していた画集を、全て捨ててしまった。5分後に引っ越しを控えていたとしても、ここまで些末に思い出と訣別はしないだろう。でも、屍になった僕は一つの行為を反芻することで限界だった。捨てる、捨てる、捨てる……。

家電までも捨ててしまって(律儀にシールを買いに行って)、僕は死んだ部屋に一人になった。ものは確かに生きていて、だからこそいなくなった途端に凄惨な冷たさが骨身に染みる。僕の体温は家に吸われ始め(部屋だって生きようとする)、気絶に近い眠りに僕は引き込まれた。夢のない断絶。瞼を閉じたまま、僕は次の眠りを希求している。

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